現代アメリカにおける最高の劇作家といわれるテネシー・ウィリアムズの名を世界的に高めた不朽の名作『欲望という名の電車』。1947年にブロードウェイで初演の幕をあけて記録的なヒットを重ね、ピューリッツア賞などそのシーズンのほとんどすべての賞を受賞。51年にはヴィヴィアン・リーのブランチ、マーロン・ブランドのスタンリーで、エリア・カザン監督によって映画化され、アカデミー賞を受賞するなど大ヒットしました。
今なお世界中で上演され続けているこの『欲望という名の電車』が、2002年の蜷川幸雄演出以来、実に15年ぶりにBunkamuraシアターコクーンに登場致します。
本作の演出を手掛けるのは、14年にロンドンで上演した『TRUE WEST』の劇評が各紙で四つ星評価を得て、以降の作品も好評を集め、いま最も注目を集める演出家の一人フィリップ・ブリーン。日本での演出家デビューとなった2015年のシアターコクーンプロデュース公演『地獄のオルフェウス』で成功を収めた気鋭の英国人演出家が、再びテネシー・ウィリアムズの最高傑作に挑みます!
主演のブランチは、15年の『地獄のオルフェウス』でフィリップとタッグを組みその相性は証明済み、02年の蜷川版でも同役を演じた、女優・大竹しのぶが務めます。ブランチの妹・ステラの夫で、ブランチを追い詰めていくことになるスタンリーは、映像では映画・ドラマ問わず幅広いジャンルで活躍し、2年ぶりの舞台出演となる北村一輝。名実ともに日本を代表する2人の俳優が、いよいよ本作で初共演を果たします。 そして、注目のステラは、ブランチを演じる大竹とは、舞台デビュー作「奇跡の人」以来の共演となる、鈴木杏が演じます。子弟から姉妹へ、約15年振りとなる2人の共演にも目が離せません。
ブランチの脆く繊細な美の世界と、相対するスタンリーの粗野なエネルギー。それは、生と死、真実と虚偽、脆さと強さなど互いに矛盾する2つの要素が凝集された「人間」の織り成す光と影です。フィリップ版「欲望という名の電車」の終着駅には何が待ち受けているのか。どうぞご期待ください。
舞台は、ニューオリンズのフレンチクォーター。
「欲望」という名の電車に乗り、「墓場」という名の電車に乗り換え、「天国」という名の駅に降り、ブランチ・デュボアは妹のステラ・コワルスキーの家にたどりついた。彼女たちは南部の大農園ベル・リーブで育った古き良き時代の上流階級の出である。ブランチは妹の貧しく猥雑な生活に驚くが、ステラの夫スタンリーはブランチの上品さが目障りで良く思わない。二人は出会った瞬間から反目し合い、ことあるごとに衝突する。スタンリーの友人ミッチの愛に、過去から逃れてきたブランチは最後の望みをかける。が、その願いは叶わず、絶望的な孤独の中にブランチは次第に狂気へと落ちてゆく。
ハイスクール時代に詩や短編小説の執筆をはじめ、大学を転々とするうちに演劇に目覚める。この頃、精神異常の状態が悪化してきた姉ローズが前頭葉切開手術(ロボトミー)を受け廃人同様となる。この、姉の一生を左右した時に居合わせなかった悔恨の思いは、ウィリアムズの作品に大きな影響を与える。
演劇の道を志し幾つかの戯曲が上演されるものの、映画館の案内人や給仕などをしながらの修業時代が続く。1944年にシカゴで初演された『ガラスの動物園』が好評を博し、翌年、34歳の時、ようやく同作でブロードウェイデビュー。NY劇評家賞ほか多くの賞を受賞した。その後、ピュリツァー賞を受賞した『欲望という名の電車』(1947)や『やけたトタン屋根の上の猫』(1955)、『夏と煙』(1948)、『バラの刺青』(1951)、『青春の美しい小鳥』(1959)、『適応期間』(1960)、『イグアナの夜』(1961)、『牛乳列車はもう止まらない』(1962)など、充実した創作の時代を過ごす。その作品群は、『財産没収』などの一幕もの、『ストーン夫人のローマの春』などの小説、『ベビー・ドール』などの映画脚本、手記『回想録』など、多岐にわたっている。
40年代後半から50年代、アメリカ演劇界の寵児として駆け抜けたウィリアムズだったが、60年代に入ると、長年の同性愛のパートナーであった秘書フランク・マーローの死をはじめとする私生活での不幸も重なり、アルコールや睡眠薬の過剰摂取など、スランプに陥る。しかし晩年まで創作活動は続き、改訂を繰り返し続けた『二人だけの劇』(のちに『叫び』と改題)や、ロングランとなった『小舟注意報』(1972)など、最期まで歩みを止めることはなかった。
フィリップの演出家としてのプロデビューは、グラスゴー・シチズンズシアターにてブレヒトの『アルトロ・ウィの抑え得た興隆』。その後、ロイヤルオペラ、ロイヤルシェイクスピアカンパニー(RSC)、チチェスターフェスティバルシアターにてアシスタントディレクターを務め、スティーブン・ピムロット、マーティン・ダンカン、ナンシー・メックラー、そしてグレゴリー・ドーランといった演出家の元で確かな実績を踏み、彼らの信頼を勝ち得てきた。独立してからの30本以上に及ぶ自身の演出作品は、Fringe Firsts, Critics Association Awards for Theatre in Scotland, Time Out New York "Best of"Awards, Off Broadway Stonys, Stage Awards and The Holden StreetTheatre Award など様々な演劇賞を受賞もしくはノミネート。新作から、古典戯曲、ミュージカル、ジャズキャバレー、コメディまで幅広い分野の作品を演出。また、アシスタントディレクター時代も含め、ウエストエンド、オフブロードウェイ、東京、シドニー、メルボルン、ドバイ、LAなど世界各地での上演を経験。古巣RSCでの演出家デビューは、2012年(~13年)の『ウィンザーの陽気な女房たち』で、劇評家達をうならせ、大好評を博した。そして、2014 年ロンドン・トライシクル劇場で演出したサム・シェパード作『TRUE WEST~本物の西部』が劇評各紙で高く評価され、一躍その名を広める。(2013年グラスゴー・Citizens Theatre で上演した作品のリバイバル)。また、2014年12月RSC『The Shoemaker's Holiday』も好評を博し、2015年5月『地獄のオルフェウス』(出演:大竹しのぶ、三浦春馬、水川あさみ、三田和代ほか)にて、日本で念願の演出家デビューを果たし、見事に成功を収めた。最新演出作は、RSCの新しいプロダクションで、リチャード・ビーン新作『THE HYPOCRITE(偽善者)』を3月に上演。
蜷川さんと「また欲望やろう」と、そう約束したのは5年前でした。
あのヒリヒリするテネシー・ウィリアムズの世界にまたゆけます。
「地獄のオルフェウス」で私たちに演劇の素晴らしさを教えてくださった、フィリップと再び芝居を作れます。
蜷川さんに「うん、これならいいよ」と言ってもらえるように頑張ります。
■北村一輝(スタンリー・コワルスキー役)
新劇の代表作「欲望という名の電車」、スタンリー役を演じるマーロン・ブランドは最高でした。
そして蜷川版では堤真一さんが演じたこの大役。ブランチは前作に続き大竹しのぶさん。
全身全霊をかけるという言葉でも補いきれない気持ちですが、フィリップ演出のもと魅力的な作品になるよう演じたいと思います。
■鈴木杏(ステラ・コワルスキー役)
初舞台の場所だったシアターコクーンで、初舞台の時に出逢えた大竹しのぶさんと、約15年ぶりにご一緒できる幸運に、もうすでに心が震えています。
今の自分を余すことなく、溢れ出る全てで向き合いたいです。