エリーザベト・フェルスターは、文筆家、文献学者、哲学者であり、生涯絶えず苦悩し、完全な孤独の中で生きたフリードリヒ・ニーチェのただひとりの妹である。ニーチェより2つ年下の彼女は、彼の原稿に目を通す最初の読者であり、仲間、崇拝者であった。兄の作品をまったく理解しないものの、早くからそれらを輝かしいものにすることを心に決める。そしてその通り、すべてをやってのけた。彼を看病し、手伝い、支えた。兄フリードリヒが生きていたなら憎悪したに違いないアドルフ・ヒットラーに、兄の手稿を売ることまでも。
一気に書き上げられた本作で、ギー・ボレーは彼らの人生における逸話のひとつひとつを紐解く。ナウムブルクでの兄妹が共犯関係にあった子供時代、ニーチェが大学教授となり、エリーザベトが助手を務めた彼らのバーゼルでの「夫婦」生活、ワーグナー家で過ごした週末と決裂、ルー・ザロメ事件、反ユダヤ主義者であることを公言するベルンハルト・フェルスターとエリーザベトが結婚し、1886年にフェルスターとともにコロニー「新ゲルマニア」を創設するためにパラグアイにわたったこと。その3年後、精神を患い、無意識となって病床についた兄の枕元に戻り、看病するといいながら、兄を裏切り、略奪したこと。愛情、孤独、復讐、裏切り、貪欲な野望、天性、憎悪、財産、非情。すべてがそこにある。天国にいる神々までサイコロを振っている。シェイクスピアの戯曲にも匹敵する小説である。