20世紀最後の超大作「パンドラの鐘」が世紀を超えて蘇る!
新世代の旗手のひとり、杉原邦生が演出に挑む!
1999年シアターコクーン芸術監督に就任した蜷川幸雄が、ともに世界の舞台で戦ってきた野田秀樹氏に新作戯曲の執筆を依頼し、書き下ろされた「パンドラの鐘」。
日本の演劇界の二大巨頭が、同時期にBunkamuraシアターコクーンと世田谷パブリックシアターの2館でそれぞれ演出し上演するという世紀の対決は、一大センセーションを巻き起こしました。
蜷川演出版には、大竹しのぶ、勝村政信、生瀬勝久、松重豊ら、一方の野田演出版は、堤真一、天海祐希、古田新太、松尾スズキなど、豪華出演陣の対決も大きな話題を呼びました。
現役のまま惜しまれつつ 2016 年に この世を去った前芸術監督・蜷川幸雄の 七回忌 を迎える今年、“NINAGAWA MEMORIAL”と題し、初演以来23年ぶりにBunkamuraシアターコクーンにて上演します。蜷川作品より多大な影響を受け、アングラ、シェイクスピア、海外戯曲、歌舞伎まで様々なジャンルの作品を手掛けている、新世代の演劇界を担う気鋭の若手演出家、杉原邦生の手によって、記念すべき公演として再び現代に蘇ります。
―――賭けをしましょう。あなたの服に触れず、その乳房に触れた日のように、いつか未来が、
この鐘に触れずに、あなたの魂に触れることができるかどうか。滅びる前の日に、この地を救った古代の 心が、ふわふわと立ちのぼる煙のように、いつの日か遠い日にむけて、届いていくのか。
ヒメ女、古代の心は、どちらに賭けます?俺は、届くに賭けますよ。
古代から現代へ、遥かなる時空を超えて壮大なスケールで描かれた本作は、「挑戦に満ちた非常に面白い本」と蜷川が語った通り、日本の歴史のTABOO に真っ向から挑んだ衝撃作。
世紀を超えてもなお色褪せないメッセージを杉原の新演出により現代を生きる人々にお届けします。
ピンカートン財団による古代遺跡の発掘作業が行われている。考古学者カナクギ教授の助手オズは、土深く埋もれていた数々の発掘物から、遠く忘れ去られていた古代王国の姿を、鮮やかによみがえらせていく。
王の葬儀が行われている古代王国。兄の狂王を幽閉し、妹ヒメ女が王位を継ごうとしているのだ。従者たちは、棺桶と一緒に葬式屋も埋葬してしまおうとするが、ヒメ女はその中の一人ミズヲに魅かれ、命を助ける。
ヒメ女の王国は栄え、各国からの略奪品が運び込まれている。あるとき、ミズヲは異国の都市で掘り出した巨大な鐘を、ヒメ女のもとへ持ち帰るが……。
決して覗いてはならなかった「パンドラの鐘」に記された、王国滅亡の秘密とは?
そして、古代の閃光の中に浮かび上がった<未来>の行方とは……?
あの日もそうだった。
「野田さん」で始まった対談が終わる寸前、「野田さあ、お前、俺になんか書けよ」になっていた。私は「蜷川さん、有難い話だけれど、自分の芝居を書くのに精一杯ですよ」そう答えながら、ふと突拍子もなく図々しいことを思いついた。「でも蜷川さん、これから僕が自分で演出するために書く芝居を、蜷川さんも演出してくれるんだったら、書きますよ」当然、「バカ、ふざけんな!」という答えが返って来るとニヤついていたら
「いいよ、それでも」という真顔の返事だった。私は驚きと半信半疑で「え?でも、それは僕だけが得しますよ」私は、どう考えても蜷川さんに失礼この上ない事を言ってしまったと思い直した。けれども蜷川さんは「そのくらいのことをしなけりゃ、硬直した演劇界は面白くならねえんだよ」「いや、でも…」「大丈夫だよ、それで。俺の方がいい演出してやるから」「ほんとに?」「ほんとだよ、バカ!」…ほんとなんだ、本気なんだ。しまったこれはもしかしたら、大変な約束をしてしまったかもしれない。臆した時にはもう遅い。話は決まってしまった。
こうして私は蜷川幸雄を意識しながら懸命に芝居を書いた。そして「パンドラの鐘」という作品が世に生まれた。
あの日、私は蜷川幸雄に演劇人としての懐の深さと演出家としての芯の勁さを感じとった。
蜷川さんのその深さと勁さがなければ、この「パンドラの鐘」は生まれなかっただろう。
その深さと勁さを、この度は、若くして才ある演出家杉原邦生さんに委ねる。杉原さんもこれだけ言われるとプレッシャーを感じるだろうが、大丈夫、白石加代子を始めとした、海千山千の「深く」「勁い」役者ばかりだ、好き放題にやっていただきたい。
バトンは渡された。
野田秀樹
成田凌さん、葵わかなさんというフレッシュなお二人をはじめとする魅力的すぎるキャスト陣に加え、異種混合で多彩なスタッフの皆さんとともに、パンドラの鐘の中に残された人類の〈希望〉を、その鐘の音に乗せ、古代から現代、そして遠く未来へと響かせたい。それが僕の願いです。
そして、その公演にビジュアル撮影という形で参加することができて、とても嬉しいです。本当にありがとうございます。1999年の公演も両パターン観ているので、今回はどんなことになるのか楽しみです。
写真家・映画監督 蜷川実花