松尾スズキによる人間の内面を鋭くえぐる問題作が、シアターコクーン初登場のノゾエ征爾による“新演出”で甦る!
“自給自足自立自発の楽園”をスローガンに掲げた架空の農業集落「クマギリ第三農楽天」。
集落の頭目代行である雄介が取り仕切るその閉鎖的楽園では、様々な思いを抱える住民たちが“自分にとっての楽園”を模索しながら必死に暮らしている…。思惑渦巻く住人たちの行きつく先とは―!?
シアターコクーン新芸術監督に就任する松尾スズキが1999年に自身の劇団、大人計画で上演した『母を逃がす』が、2020年5月公演に登場します。
自給自足の共同生活を営んでいる架空の農業コミューンを舞台に、そこに生きる人々の切実な日常生活を痛烈な笑いで描き、第3回鶴屋南北戯曲賞にもノミネートされ話題を呼びました。(2010年再演)
演出を手掛けるのは、劇団はえぎわを主宰し、俳優、脚本家、演出家として活躍するノゾエ征爾。
今注目されている気鋭の演出家の1人で、シアターコクーンには演出家として今回が初登場となります!脚本家としては2012年『○○トアル風景』で岸田國士戯曲賞を受賞。また、松尾スズキ作の絵本『気づかいルーシー』の舞台化の脚本・演出、さいたまスーパーアリーナーでの『1万人のゴールド・シアター2016』や“世界・ゴールド祭2018”にて「ゴールド・アーツ・クラブ」の数百人単位の高齢者たちをエネルギッシュに活かした演出でも注目を集めました。2019年は、オーチャードホールで上演された音楽劇『トムとジェリー~夢よもう一度~』の演出、総勢80名弱のキャストたちと新基軸の劇世界を立ち上げた野外劇『吾輩は猫である』の脚本・演出、白井晃演出『恐るべき子供たち』の上演台本執筆、演劇ユニット月影番外地への脚本提供など幅広く手掛け、その才能を発揮しています。
出演には、ドラマ『ルパンの娘』、舞台『ドクター・ホフマンのサナトリウム〜カフカ第4の長編〜』での好演が記憶に新しく、近年目覚ましい活躍を見せる人気実力派瀬戸康史。ノゾエとのタッグでこの松尾ワールドとどのような化学反応を起こすのか必見です。そして、モデルとして人気を博し、主演映画『ダンスウィズミー』で注目を浴び女優としての活躍の場を広げ、本作が舞台初出演となる三吉彩花。舞台『エダニク』で主演を果たし、映画、ドラマ、ラジオと幅広く活躍する稲葉友、音楽劇『トムとジェリー~夢よもう一度~』でヒロインを好演した山下リオ、芸人、俳優、ミュージシャンとマルチに活躍するマキタスポーツ、舞台のみならずドラマ『真田丸』『あなたの番です』など多くの話題作に出演し確かな演技力を誇る峯村リエ、劇団☆新感線の看板女優で舞台を中心に活躍し、2016年には第51回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞した高田聖子、舞台から映画、バンド活動と多岐にわたって活躍する、唯一無二の存在感を放つ個性派俳優六角精児が確かな演技で支えます。さらに家納ジュンコ、もう中学生、湯川ひな、武居卓に加え、ノゾエの劇団はえぎわより町田水城、山口航太といったバラエティに富んだ個性豊かな実力派キャストが集結しました。ノゾエ征爾自身の出演も決定しています。
松尾とは師弟関係でもあるノゾエが松尾から託されたこの戯曲に、どのようなアプローチで挑むのか。
フレッシュで斬新な顔合わせで次代を担う若き才能が、シアターコクーンに新たな演劇シーンを誕生させます!!
たった一つの存在価値のあかしは婚約者の蝶子(山下リオ)。今は刑務所に入っている兄・地介(六角精児)の婚約者だったが、妊娠せず、地介入所後、雄介の子供を身ごもった。後継者を産む生殖能力を有することが、かろうじて雄介の自尊心の支えとなっている。
しかし住人たちは頭目代行を全く頼りにせず、妹・リク(三吉彩花)は兄に反抗して、彼が統治するこの土地を楽園だと認めようとしない。そのうえ女警備長の島森(峯村リエ)とよからぬ関係なのだ。
ある夜、集落は謎の男(ノゾエ征爾)の襲撃を受ける。翌朝の集会でブタ吉(山口航太)とタチ政(武居卓)、経理主任の山木(家納ジュンコ)、医者の赤痢(マキタスポーツ)らを集め、雄介は敵国からの攻撃対策の自警団設立を提案するが島森は難色を示す。そんなことをよそに、捨て子のトビラ(湯川ひな)は壊された合同テレビの修理をしてほしく、外部から来る保険手続き代行人の一本(町田水城)の来訪を待ちわびるばかり。事あるごとに自信を喪失する雄介。
そんな息子を、母・ハル子(高田聖子)は時には行きすぎを叱咤し、時にはやさしく心配する。元芸者で情に厚く朗らかなハル子を雄介は大切に思っていた。
ある日、集落に2人の流れ者がやって来て、仮想敵国・シカノバルからのスパイ容疑で雄介に捕まえられる。力持ちだが頭の弱い万蔵(もう中学生)と、切れ者の葉蔵(稲葉友)だ。二人はいとこ同士で、万蔵がシカノバルで起した事件のために逃げてきたという。葉蔵に奇妙な友情を感じる雄介。
そしてもう一人、監獄に入っていた地介が故郷に戻ってきて・・・。
揃いました、素晴らしき珍獣たち。
母を逃がす。この獲物は逃がすまい。
<プロフィール>
1975年、岡山県生まれ。劇団はえぎわ主宰。脚本家、演出家、俳優として活動。
1995年、青山学院大学在学中に演劇を始め、1999年に劇団はえぎわを始動。以降、全作品の作・演出を手がける。2012年にはえぎわ公演『○○トアル風景』にて56回岸田國士戯曲賞受賞。劇団外の活動も多く、2010年より世田谷区内の高齢者施設での巡回公演(世田谷パブリックシアター@ホーム公演)や、北九州や静岡の劇場での長期滞在創作など幅広く活動する。松尾スズキ作品では、松尾の翻訳絵本の舞台化『ボクの穴、彼の穴。』、松尾の絵本を原作とした音楽劇『気づかいルーシー』では脚本、演出を務める。松尾スズキ作・演出『ニンゲン御破算』(2018)では俳優として出演。最近の作品には、さいたまスーパーアリーナで、高齢者1,600人出演「1万人のゴールド・シアター2016『金色交響曲~わたしのゆめ、きみのゆめ~』」、ゴールド・アーツ・クラブの舞台『病は気から』の演出・脚本。他に『命売ります』、はえぎわ『桜のその薗』、『恐るべき子供たち』(上演台本)、音楽劇『トムとジェリー~夢よもう一度~』、野外劇『吾輩は猫である』、月影番外地『あれよとサニーは死んだのさ』(脚本)など多数。
しかし、見たことのない世界って足を踏み入れたくなるものです。
ノゾエさんとは初めてご一緒しますが、その場に生きる人間の心を大事に演出される印象なので、丁寧に作っていければと思います。
また、松尾さんの脚本はありえないフィクションなのに、あたかもその世界が当然にあるかの様に錯覚してしまう...
そこに身を任せ、この作品に集まった猛者たちと協力して、作中にもあるような何が起ころうと絶対に崩れないコミュニティを築ければと思います。
また新たなる「初めて」を経験させて頂くことになり、緊張と興奮で震えます。
年々流行や物事の流れが早くなっている今の時代に良い意味で刺さる、そしてブレない戯曲を上書きしていけるよう、先輩方に教わりながら精一杯演じさせていただきたいと思います。