ロシアの文豪ドストエフスキーの代表作であり、後世に数々の影響を与えた名作「罪と罰」。
シアターコクーン3度目の登場(「地獄のオルフェウス」「欲望という名の電車」)となる
英国人演出家フィリップ・ブリーンが理想のキャストとともに舞台化に挑みます。
DISCOVER WORLD THEATREシリーズの第5弾となる今回は、ロシア文学の傑作長編小説『罪と罰』を取り上げます。後世に多大なる影響を与えたドストエフスキーの名作を現代の日本の観客たちにどう魅せていくのか大注目です。
演出は、2015年『地獄のオルフェウス』で日本デビューを華々しく飾り、2017年『欲望という名の電車』ではキャスト陣の熱演を導き出し、更なる評価を高めた気鋭の英国人演出家フィリップ・ブリーン。さらに戯曲は自身が2016年にLAMDA(ロンドン・アカデミー・オブ・ミュージックアンドドラマティック・アート)に書き下ろしたものをベースに、日本公演のために再構築していきます。
主演は、「正義のためなら人を殺す権利がある」と殺人を犯す青年ラスコリニコフに三浦春馬。ブリーンの日本デビュー作『地獄のオルフェウス』に出演した際に意気投合し、もう一度一緒に作品創りがしたいと言っていた、二人の念願の作品となります。また家族のために娼婦となり、ラスコリニコフと心を通わすソーニャに3年ぶり舞台3作品目となる大島優子。ソーニャの義理の母カテリーナに麻実れい、主人公を疑い心理面から追い詰める捜査官ポルフィーリに勝村政信、さらに主人公の妹役に南沢奈央、母親役に立石涼子、親友役には松田慎也、そして謎の男スヴィドリガイロフに山路和弘ら文芸大作に挑むにふさわしい豪華実力派キャストが揃いました。
哲学的な思索、社会に対する反動的な見地と政治思想、宗教感を織り交ぜながら、そして当時のロシアでの民衆の生活状況を描きつつ、殺人者の倒錯した精神入り込んでの心理描写など読み応え満載の原作から、どのような舞台が生まれるか、どうぞご期待ください。
ブリーンの演出家としてのプロデビューは、グラスゴー・シチズンズシアターにてブレヒトの『アルトロ・ウィの抑え得た興隆』。その後、ロイヤル・オペラ、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)、チチェスター・フェスティバル・シアターにてアシスタントディレクターを務め、スティーブン・ピムロット、マーティン・ダンカン、ナンシー・メックラー、そしてグレゴリー・ドーランといった演出家の下で確かな実績を積み、彼らの信頼を勝ち得てきた。独立してからの30本以上に及ぶ自身の演出作品は、Fringe Firsts, Critics Association Awards for Theatre in Scotland, Time Out New York "Best of" Awards, Off Broadway Stonys, Stage Awards, The Holden Street Theatre Award など様々な演劇賞を受賞もしくはノミネート。新作から、古典戯曲、ミュージカル、ジャズキャバレー、コメディまで幅広い分野の作品を演出。また、アシスタントディレクター時代も含め、ウエストエンド、オフ・ブロードウェイ、東京、シドニー、メルボルン、ドバイ、LAなど世界各地での上演を経験。古巣RSCでの演出家デビューは、2012年(~13年)の『ウィンザーの陽気な女房たち』で、劇評家達をうならせ、大好評を博した。そして、2014年ロンドン・トライシクル劇場で演出したサム・シェパード作『TRUE WEST~本物の西部』が各紙劇評で高く評価され、一躍その名を広める。(2013年グラスゴー・Citizens Theatre で上演した作品のリバイバル)。また、2014年12月RSC『The Shoemaker's Holiday』も好評を博し、2015年5月『地獄のオルフェウス』(出演:大竹しのぶ、三浦春馬、水川あさみ、三田和代 他)にて、日本で念願の演出家デビューを果たし、見事に成功を収めた。2017年は、RSCの新しいプロダクションで、リチャード・ビーン新作『THE HYPOCRITE(偽善者)』を演出。同年12月『欲望という名の電車』(出演:大竹しのぶ、北村一輝、鈴木杏、藤岡正明 他)でもキャストの実力をいかんなく発揮した。
2018年1月には『ヘッダ・ガブラー』をLAMDAにて演出。また、『Shakespeare in Love(恋に落ちたシェイクスピア)』(Bath Theatre Royal、Sonia Friedman、Eleanor Lloyd、そしてDisney が製作) が10月に開幕予定。そして、2019年には、 ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーにて、Jon Vanbrughの『The Provoked Wife』を演出する。
学費滞納のため大学から除籍された頭脳明晰な貧乏青年ラスコリニコフ(三浦春馬)は、自分は一般人とは異なる「選ばれた非凡人」としての意識で、「一つの微細な罪悪は百の善行に償われる」という独自の理論を持っていた。強欲で狡猾な金貸し老婆を殺害し、奪った金で世の中のための善行をしようと企ててはいるが、酒場で出会った酔っ払いの退職官吏、その後妻カテリーナ(麻実れい)とその貧乏な家族たちを見ると質入れで得たお金もすべて渡してしまうのだった。
そしてついに殺害を実行するが、殺害の現場に偶然にも居合わせた老婆の妹までをも殺してしまう。この日からラスコリニコフは罪の意識、幻覚、自白の衝動に苦しむことになる。
意識も失い数日間も寝込む彼を心配する親友ラズミーヒン(松田慎也)、上京してきた母プリヘーリヤ(立石涼子)と妹ドゥーニャ(南沢奈央)。さらには謎の男スヴィドリガイロフ(山路和弘)の登場もあり、サイドストーリーでは当時のロシアの生活を描きながら、彼をとりまく物語は興味深く進んでいく。
そして老婆殺し事件では、ラスコリニコフを疑う国家捜査官ポルフィーリ(勝村政信)との息詰まる論戦もあり、ついには真犯人だと名乗る男まで登場。犯罪者の心理を描いた倒叙ミステリーの要素も持ちつつスリリングな展開となっていく。
馬に踏まれて死んでしまう退職官吏の娘・娼婦ソーニャ(大島優子)の家族のためへの自己犠牲の生き方に心をうたれて、最後には自首するラスコリニコフ。
正当化された殺人、貧困に喘ぐ民衆、有神論と無神論の対決など普遍的かつ哲学的なテーマを扱いながら、最後には人間回復への強烈な願望を訴えたヒューマニズム大作である。