第80回ヴェネチア国際映画祭 銀獅子賞(審査員グランプリ)受賞
第80回ヴェネチア国際映画祭・銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞したことで、カンヌ映画祭、ベルリン映画祭のいわゆる3大映画祭のグランドスラムを果たし、アカデミー賞を入れると黒澤明以来の快挙を成し遂げた濱口竜介。本作『悪は存在しない』は、3年弱の短期間での活躍に世界で最も注目される監督の一人なった濱口監督の『ドライブ・マイ・カー』以降の長編映画最新作品であり、現在、世界中の映画祭、映画館で上映され、世界の映画業界を席巻し続けている。
海外からの映評
濱口監督から観客に対する見事な挑戦。ほとんどの映画が「答え」ばかりに終始する一方で、「問い」を投げかける映画監督が少なくともひとり、ここにいる。
―THE PLAYLIST
この年、もっとも静かに心を揺さぶる映画
―Vague Visages
きっかけは、石橋から濱口への映像制作のオファーだった。『ドライブ・マイ・カー』(21)で意気投合したふたりは試行錯誤のやりとりをかさね、濱口は「従来の制作手法でまずはひとつの映画を完成させ、そこから依頼されたライブパフォーマンス用映像を生み出す」ことを決断。そうして石橋のライブ用サイレント映像『GIFT』と共に誕生したのが、長編映画『悪は存在しない』である。自由に、まるでセッションのように作られた本作。濱口が「初めての経験だった」と語る映画と音楽の旅は、やがて本人たちの想像をも超えた景色へとたどり着いた。
主演に、当初はスタッフとして参加していた大美賀均を抜擢。新人ながら鮮烈な印象を残す西川玲、物語のキーパーソンとして重要な役割を果たす人物に小坂竜士と渋谷采郁らが脇を固める。
穏やかな世界から息をのむクライマックスまでの没入感。途方もない余韻に包まれ、観る者誰もが無関係でいられなくなる魔法のような傑作が誕生した。
STORY
長野県、水挽町。自然が豊かな高原に位置し、東京からも近く、移住者は増加傾向でごく緩やかに発展している。代々そこで暮らす巧(大美賀均)とその娘・花(西川玲)の暮らしは、水を汲み、薪を割るような、自然に囲まれた慎ましいものだ。しかしある日、彼らの住む近くにグランピング場を作る計画が持ち上がる。コロナ禍のあおりを受けた芸能事務所が政府からの補助金を得て計画したものだったが、森の環境や町の水源を汚しかねないずさんな計画に町内は動揺し、その余波は巧たちの生活にも及んでいく。
PROFILE
濱口竜介(映画監督)
2008年、東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作『PASSION』が国内外の映画祭で高い評価を得る。その後も317分の長編映画『ハッピーアワー』(15)が多くの国際映画祭で主要賞を受賞、『偶然と想像』(21)でベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)、『ドライブ・マイ・カー』(21)で第74回カンヌ国際映画祭脚本賞など4冠、第94回アカデミー賞国際長編映画賞を受賞。地域やジャンルをまたいだ精力的な活動を続けている。
石橋英子(音楽家)
日本を拠点に活動する音楽家。ピアノ、シンセ、フルート、マリンバ、ドラムなどの楽器を演奏する。Drag City、Black Truffle、Editions Mego、felicityなどからアルバムをリリース。2020年1月、シドニーの美術館Art Gallery of New South Walesでの展覧会「Japan Supernatural」の展示の為の音楽を制作、シドニーフェスティバル期間中に美術館にて発表された。2021年、映画「ドライブ・マイ・カー」の音楽を担当、World Soundtrack AwardsのDiscovery of the year とAsian Film Awardsの音楽賞を受賞。2022年「For McCoy」をBlack Truffleからリリース、アメリカ、イギリス、ヨーロッパでツアーを行う。2022年より英ラジオ局NTSのレジデントに加わる。
CAST
大美賀均(おおみか ひとし)巧役(34)
1988年生まれ。桑沢デザイン研究所卒。助監督として大森立嗣監督『日日是好日』、エドモンド・ヨウ監督『ムーンライト・シャドウ』等に参加、濱口竜介監督『偶然と想像』では制作を担当。2023年、自身の初監督中編『義父養父』が完成・公開予定。
西川玲(にしかわ りょう) 花役(9)
2014年3月14日大阪府出身。株式会社UNBLINK所属。特技は新体操。初の出演作品、映画『悪は存在しない』(監督:濱口竜介)が第80回ベネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出された。
小坂竜士(こさかりゅうじ) 高橋役(37)
1985年、山口県生まれ。2012年に上京し、俳優活動を開始。映画、ドラマ、舞台と幅広く出演。近年は活動を休止していたが、今作の出演を機に再開。過去の出演作は『HIGH&LOW』(16年)『獄の棘』(17年)など。
渋谷采郁(しぶたに あやか) 黛役(31)
1991年生まれ、兵庫県出身。映画「ハッピーアワー」に出演し、俳優として活動を始める。近年の主な出演作に、チェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーション、時々自動『コンサート・リハーサル』、映画『十年とちょっと+1日』などがある。Podcast番組「めぇめぇラジオ」を毎週配信するなど、創作活動にも積極的に取り組んでいる。