
©Les Films du Lendemain / Shanna Bes
名匠ジャック・ドワイヨンが描き出す新たなロダンの肖像──誰もが知っているあの傑作が、今、天才のアトリエから生み出されていく
今年11月に没後100年を迎える、“近代彫刻の父”オーギュスト・ロダン(1840~1917)。《地獄の門》や、その一部を抜き出した《考える人》で高名な19世紀を代表する芸術家である。彼は42歳の時、弟子入りを切望するカミーユ・クローデルと出会い、この若き才能と魅力に夢中になる。本作はロダン没後100年を記念し、パリ・ロダン美術館全面協力のもと、ル・シネマ№1ヒット作の『ポネット』(96)、『ラ・ピラート』(84)の名匠ジャック・ドワイヨンが、ロダンの愛と苦悩に満ちた半生を忠実に描いた力作である。
当時のアトリエに立ち会っているような臨場感をもって、数々の傑作が創造され、完成する瞬間を垣間見せてくれる本作。ロダンの愛弟子であり、愛人でもあった女流彫刻家カミーユ・クローデルとの関係を、通説のメロドラマの骨格に収めるのではなく、内縁の妻ローズと若い愛人との間で揺れ動く優柔不断な男の狡さや、カミーユに限らず、多くのモデルたちと性的関係をもち、官能性をもとめた男の素顔として、ロダンの視点に立った物語で紡いでいく。カミーユの姿を介さず、彼女の彫刻『嘆願する女』を見つめるシーンに、晩年におけるロダンのカミーユへの思いは凝縮され、観るものの胸を打つ。
『ティエリー・トグルドーの憂鬱』(15) でカンヌ国際映画祭、セザール賞の主演男優賞をW受賞したフランスきっての演技派ヴァンサン・ランドンが、ロダンを演じる為に8カ月間彫刻とデッサンに没頭し、ロダンの魂までも演じきり、“ジャニス・ジョプリンの再来”と呼ばれる『サンバ』(14)のイジア・イジュランがカミーユを好演。陰影深い知られざる人間性を浮き彫りにした本作は、新しいロダンの肖像として美術愛好家にはもちろんのこと、天才であるがゆえの孤独を抱えた一人の芸術家のドラマとして、多くの映画ファンを惹きつけるに違いない。