
©Chantal Akerman Foundation
『めまい』『市民ケーン』『東京物語』をおさえて<史上最高の映画>に選ばれたシャンタル・アケルマン監督の傑作
2022年、ある1本の作品が世界中の映画ファンの間で話題となった。その確かな審美眼で定評のある英国映画協会が10年ごとに選出する「史上最高の映画(The Greatest Films of All Time)」にて、決して知名度が高いとは言えない映画が1位に輝いたのだ。2位のA・ヒッチコック監督『めまい』、3位のO・ウェルズ監督『市民ケーン』、4位の小津安二郎監督『東京物語』という錚々たる名作をおさえてその栄誉に輝いたのがシャンタル・アケルマン監督の『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』だった。
15歳のときにジャン=リュック・ゴダール監督の『気狂いピエロ』を観て映画を志し、18歳で監督デビューを果たしたアケルマン。以降、約40年間にわたってドキュメンタリー、文芸作、ミュージカル、短編とジャンルやフォーマットに囚われない自由な創作活動を貫き通した彼女の紛れもない代表作が、この3時間を超える大作である。
『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマ監督が「『ジャンヌ・ディエルマン』は常に心にある1本」と語り、ソフィア・コッポラ監督は「『SOMEWHERE』を撮るときに影響を受けた」と、そして『CLOSE/クロース』のルーカス・ドン監督は18歳のときに本作を観て「それまで人生で見てきたものがすべて違って見えるようになった」と語るなど、現代映画に多大な影響を与える最重要作となった。
主演のジャンヌを演じるのは『去年マリエンバートで』(61)、『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』(72)のデルフィーヌ・セイリグ。既に大女優だった彼女に、撮影当時20代半ばだったアケルマンは決してひるむことなく激しいディスカッションを重ねて、このあまりに美しい一作を完成までこぎ着けた。
今年5月に開催されるカンヌ国際映画祭の監督週間では、同部門での1975年の『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』のプレミアから50周年を記念して、シャンタル・アケルマン財団と監督週間のコラボレーションが発表されるなど、世界中でこの歴史的傑作を祝すムードが高まるなか、日本でもゴールデンウィークに制作50周年記念限定上映が決定した。
【STORY】
夫を亡くし、思春期の息子と共にブリュッセルのアパートで暮らしているジャンヌ。湯を沸かし、ジャガイモの皮を剥き、買い物に出かけ、洗濯をするといった“平凡な”暮らしを繰り返すジャンヌだったが、永遠に続くと思われた日常の歯車は徐々に狂い始め、取り返しのつかない事態を自らの手で引き起こしてしまう。そんな主婦の3日間の一挙手一投足を心理描写を排し、ただただ丹念に、そして冷徹に描き出す。