監督・小津安二郎の生誕120年を祝し、生没日である12月12日をまたぎ“いまだから観たい”小津12作品を一挙上映!
今なお世界中から注目を集める小津安二郎監督。生誕120年であり没後60年を迎える本年は、世界三大映画祭への『長屋紳士録 4Kデジタル修復版』『父ありき 4Kデジタル修復版』の出品や、第36回東京国際映画祭での小津安二郎特集など、小津安二郎再顕彰の動きがますます広がっています。
人生のある瞬間のさまざまな感情を、えも言われぬ姿で映し出してしまう小津映画。そのフィルモグラフィーは、一定のモチーフを反復しつつも、小津の名を聞いて誰もが連想する「家族ドラマ」だけでなく、広く多種多様なテーマに彩られています。今回の特集上映ではトーキー作品の中から「いま、観てほしい小津作品」をテーマに、第36回東京国際映画祭でプレミア上映された『父ありき』『長屋紳士録』『風の中の牝雞』や、寄る辺なき孤独が夜闇にゆれる異色の傑作『東京暮色』、母娘の関係性を繊細に描く『秋日和』など、生誕120年のいまだからこそ観たい作品をBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下がピックアップ。さらに英「サイト&サウンド・マガジン」2022年発表の「史上最高の映画」において、日本映画最上位の4位に選ばれた『東京物語』や、『晩春』『秋刀魚の味』などの欠かすことのできない名作も上映となります。
小津安二郎の生没日である12月12日をまたぎ生誕120年を祝す特集上映、是非劇場でご鑑賞ください。
<上映作品>
『父ありき 4Kデジタル修復版』
『長屋紳士録 4Kデジタル修復版』
『風の中の牝雞 4Kデジタル修復版』
『晩春 4Kデジタル修復版』
『麥秋 4Kデジタル修復版』
『東京物語 4Kデジタル修復版』
『早春 4Kデジタル修復版』
『東京暮色 4Kデジタル修復版』
『彼岸花 デジタル修復版』
『お早よう デジタル修復版』
『秋日和 デジタル修復版』
『秋刀魚の味 デジタル修復版』
<上映スケジュール>
<作品紹介>
父ありき 4Kデジタル修復版
©1942/2023松竹株式会社
1942│92min.│モノクロ
出演│笠智衆 佐野周二 津田晴彦 佐分利信 坂本武 ほか
太平洋戦争下で製作された唯一の小津作品で、笠智衆の初主演作。男手ひとつで育て、同じく教師となった息子との深い哀歓を、映画史に残る「釣りシーン」とともに描いた小津映画の一つの頂点。
第80回 ヴェネチア国際映画祭 ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 アジアン・プレミア
長屋紳士録 4Kデジタル修復版
©1947/2023松竹株式会社
1947│72min.│モノクロ│PG12
出演│飯田蝶子 青木放屁 小澤榮太郎 笠智衆 坂本武 ほか
名優が集結し新しい小津世界を築き上げるきっかけとなった、小津監督の戦後復帰第一作。父とはぐれた子供と、世話をする長屋の住人たちの人情喜劇。とりわけ忘れ難い余韻をもたらすラストが印象的。
第76回 カンヌ国際映画祭 ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 アジアン・プレミア
風の中の牝雞 4Kデジタル修復版
©1948/2022松竹株式会社
1948│83min.│モノクロ
出演│佐野周二 田中絹代 村田知英子 笠智衆 坂本武 ほか
やむを得ず身を売った妻と、戦地から帰ってきた夫。二人の苦しみ、戦争の哀しみと人間の脆さ、そしてそれを乗り越えようともがく姿を綿密に描く。小津のフィルモグラフィのなかでも注目に値する異色さを抱えた作品。
第79回 ヴェネチア国際映画祭 ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 ジャパン・プレミア
晩春 4Kデジタル修復版
1949│108min.│モノクロ
出演│笠智衆 原節子 月丘夢路 杉村春子 宇佐美淳 ほか
妻を亡くした父を気遣い結婚を躊躇う娘と、それを見守る善意の人々の物語を通して、父と娘の愛の絆を映し出した名作。小津が原節子とはじめてタッグを組み、後の傑作群へと続く流れを作った記念碑的作品。
MOMA ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 特集上映
麥秋 4Kデジタル修復版
1951│124min.│モノクロ
出演│原節子 笠智衆 淡島千景 三宅邦子 佐野周二 ほか
娘の結婚話をめぐり、家族らの心情を多彩な人間関係と細部豊かなエピソードで綴った一篇。変わるもの、変わらないもの、そして家族への愛おしい思いや希望が見事に織り重なった珠玉の名作。
第66回 ベルリン国際映画祭 ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 特集上映
東京物語 4Kデジタル修復版
1953│135min.│モノクロ
出演│笠智衆 東山千榮子 原節子 杉村春子 山村聰 香川京子 ほか
何気ない言動が教える各人の生活、思いがけない心情の吐露と発見、そして何事もなかったような人生の悲哀と深淵を見事に描いた、名実ともに映画史上に輝く、普遍的で特別な家族の物語の金字塔。
第71回 カンヌ国際映画祭 ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 特集上映
早春 4Kデジタル修復版
1956│144min.│モノクロ
出演│淡島千景 池部良 高橋貞二 岸惠子 笠智衆 ほか
一児を亡くし関係に亀裂が入ってしまった夫婦と、そんな彼を愛してしまう通勤仲間の女性を軸に、他作品で描いた親子の関係でなく、日本社会におけるサラリーマンや若者たちの心情を活写した名作。
第36回 東京国際映画祭 特集上映
東京暮色 4Kデジタル修復版
1957│140min.│モノクロ
出演│原節子 有馬稲子 笠智衆 山田五十鈴 田浦正巳 ほか
心に傷を抱えた登場人物たちの底の見えない圧倒的な孤独感が織りなす、異色の家族ドラマ。夕暮れの哀しみに人生の意味を問う、小津映画の時代を超えた現代性を体現するかのような作品。
第68回 ベルリン国際映画祭 ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 特集上映
彼岸花 デジタル修復版
1958│118min.│カラー
出演│佐分利信 田中絹代 有馬稲子 佐田啓二 山本富士子 ほか
自分に相談もせず、結婚相手を決めた娘のふるまいに動揺する父親の姿を描く。初のカラー作品で、監督が好んだドイツのアグファカラーの落ち着いた発色は、以後“小津の色”として定着した。
第70回 ヴェネチア国際映画祭 ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 特集上映
お早よう デジタル修復版
1959│94min.│カラー
出演│佐田啓二 久我美子 笠智衆 三宅邦子 設楽幸嗣 島津雅彦 ほか
近所付き合いの小さな波風にふり回される大人たちと、テレビを買ってとねだり大人を困らせる子供たち。東京郊外の新興住宅地を舞台に、戦後の市井の人々の生活を小津流に活写した傑作喜劇。
第38回 香港国際映画祭 インターナショナル・プレミア
第36回 東京国際映画祭 特集上映
秋日和 デジタル修復版
1960│128min.│カラー
出演│原節子 司葉子 岡田茉莉子 佐分利信 笠智衆 中村伸郎 ほか
亡夫の七回忌を終えた美しい未亡人と、婚期を迎えた娘の間に起きる小さな心の波風を繊細に描く名作。取り巻きの紳士たちのユーモアに、小津の余裕に満ちた練達の演出技法が垣間見える。
第64回 ベルリン国際映画祭 ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 特集上映
秋刀魚の味 デジタル修復版
1962│113min.│カラー
出演│岩下志麻 笠智衆 佐田啓二 岡田茉莉子 三上真一郎 ほか
男手一つで育てた娘を嫁に出す父の気持ち、嫁に行く娘の心情を細やかに描き出す。主筋以外の点描も余裕に満ちて見事。老いと孤独という深刻なテーマを喜劇的に描いた、小津安二郎監督の遺作。
第66回 カンヌ国際映画祭 ワールド・プレミア
第36回 東京国際映画祭 特集上映
<特集上映開催コメント>
「これは私が今日、いま出会うべき映画だった」と思う映画がごくまれにあるとして、小津監督の作品を観ると、ほとんどいつもそう思ってしまいます。
小津映画を前にして目に飛び込んでくるのは、時代背景や物語、登場人物の感情、喜怒哀楽よりもまず、「この人の感情は、人生はいまとても揺れているらしい」という「揺れ」です。その揺れのあまりにも大きな動きを見つめるうちにこちらも共振し、やがて、ガラスが割れるのです。
私に共振を起こすその特定の周波数を、どういうわけか120年前に産まれた小津監督だけが知っている。「いま出会うべき映画だった」と共振してしまうのは、映された揺れが紛れもなく「現在」のものとしてあるから。その震撼する幸福を抱きながら、今日、いま、小津映画と出会いましょう。
──Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下 浅倉 奏