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≪Artist File Vol.2≫大場節子

(2021.09.17)

■プロフィール
和歌山県に生まれる。和楽器商の三女として、琴、三味線など日本の伝統文化の中で育ちながら、同時に兄が油彩画を描くという自由な気風のなかにあり、生きる意味を激しく葛藤する少女期、青春期を経る。花王株式会社入社後、武蔵野美術短期大学通信教育部に学ぶ。示現会所属後、退会。止まることのない創造への意欲を胸に、1990年に欧州への取材を初め、その後も繰り返し、インド、南米、中東、北アフリカなどに単身取材に出ている。取材現場では、自ら感じるインスピレーションに忠実に、目に入る風景、風物、人物の一瞬の美を、刹那を感じさせる線と水彩画面として結実している。一方感覚を微妙なニュアンスで揺れながら描かれる油彩画では、詩情豊かな線となって横溢する。作家は現在もパリとアトリエで精力的に制作し、個展を中心に発表を続けている。

<略歴>

1987.12 個展(銀座正光画廊)
1989.4  児童画教室 おおかみのリリアの会開講
1990.4  個展(銀座正光画廊)
1995.4  個展 「ヨーロッパひとり歩き」(アート・ミュージアム・銀座)
1995.5  大人絵画教室 私塾ア・レスパス開講
1997.4  個展 「風に続き、蝶となって」(アート・ミュージアム・銀座)
1997.5  ギャラリー展 「雨より雨、空より空」
1998.4  個展 「青のままに、白のままに」(アート・ミュージアム・銀座)
2000.4  個展 「わずかなことも遥かなことも」(アート・ミュージアム・銀座)
2005.4  個展 「風の包みを解くときに」(代官山ヒルサイドフォーラム)
2006.1  個展 「ポプラは風にそよぐのでした」(伊勢丹新宿本店5F・アートギャラリー)
2010.3  個展 「大場節子絵画展」(和歌山市近鉄百貨店50周記念展)
2010.5  個展 「大場節子絵画展」(金沢市田上2丁目84番地 Gallery 颯sou)
2011.10 個展 「ああ、サンタマリーナの鐘が鳴る」(代官山ヒルサイドフォーラム)
2011.11 個展 「大場節子 和歌山展」(和歌山モンティグレダイワロイネットホテル)
2013.3  個展 「パリからの旅 ドーヴァー海峡を越えて、春」(伊勢丹新宿店アートギャラリー)
2013.4  個展 「ひとすじの清しさで」(金沢 Gallery 颯sou)
2013.9  個展 「大場節子絵画展」(芸術空間あおき 富士宮)
2013.11 個展 「やがて、まじわる虹を求めて」(渋谷 Bunkamura Gallery)
2014.4  三人展 「フラワーインプレション」(渋谷 Bunkamura Gallery)
2015.5  個展 「フランスの陽、ひかり翔びたち」(渋谷 Bunkamura Gallery)
2016.5  個展 「アズールブルー、ひたむきに芽吹く春へ」(金沢 Gallery 颯sou)
2017.4  個展 「春霞にルネッサンスの陽」(渋谷 Bunkamura Gallery)
2018.9  個展 「Merci 今日という日が贈られた」(そごう横浜)
2019.4  個展 「Spring step 希望までの距離」(渋谷 Bunkamura Gallery)
2020.10 個展 「金沢のゆめ、ふたたび」(金沢 Gallery 颯sou)
2020.11 個展 「大場節子展」(銀座 ギャルリ・サロンドエス)

都内某所、風が立つ夏の日にいつもと違う大場節子の絵画を体感した。探すのに少しだけ頭を使うそのアトリエの扉を開くと、油彩絵の具特有の香りがなんともエネルギッシュに出迎えてくれる。イーゼルの並木道を抜けるとたどり着くそのキューブ型の空間は明らかに外の世界とは違う鮮やかな空気が漂っていた。制作の手を止め、ゆっくりと丁寧に言葉を選びインタビューに答えてくださったその時間は、とてもやさしく、そして作家が真っすぐに絵に向き合ってきた強い想いを感じる事ができた。作品制作についてのインタビューが実現できたことに感謝します。

■インタビュー

<いままでとは違う>
コロナ蔓延の影響で海外取材が困難になり、アトリエから出ることなく抽象画制作に多くの時間を費やす中、作家大場節子の中でも大きな変化がありました。

今までの抽象画ー
自身の想いや直感のみで画面を仕上げる抽象画。今までは、自分しか素材のない状態で絵を完成させるのはなんとも頼りなく、「絵とはこうでなければならない!」「こんな絵じゃダメだ!」と批判し意味を問う自分が現れる事が常であったそうです。時には自分は何も想いがない人間だと感じてしまう時期もあったとか。

 

訂正しない自分が新しいー
何もない自分だなんて思いたくないと、衝動的に画面に誘われ、「ここはこうだ!」と筆を動かす自分を否定する事なく、夢中で描いた自分を認めることにした結果、その感覚を心から面白がる生き生きとした自分が画面を動かし始めたと言います。
批判を始める客観的な自分を抑え「やりたかった自分」を残す。画面上を自由に旅し、その時の想いを大切に乗せて、瞬発で想い描いたことを正解とするその抽象画は、今まで以上に力強く独創的。言葉では掴みきれない、溢れるような色彩の世界が広がっています。

 

<風景画のアイテナリー>
絵の具の目で考えるー
日照時間を考え、朝からロケーション探しを始める事が多いそうですが、そう毎日のように良い場所に巡り会うこともないとのこと。一般的な観光旅行とは違い、外の世界を全て「絵の具の目」で観察し、描きたくなる風景を探します。それでも見つからない場合は、図書館などで自分の制作意欲を待つこともあるそうです。

自分に問い合わせる時間ー
気になる場所を見つけてからは、セキュリティー面もしっかり考慮し、絵の具をセッティングするかどうかを吟味。本当にその場所を描きたいかを考えることはもちろん、海外を女性一人で旅し、見知らぬ場所で絵を描く事は、かなりの身体的労力と心のエネルギーが必要になるとのこと。

 

時間を止めるのが仕事ー
描き始めてからは時間との勝負。人々が動 き、光が変わる中「今だ!」と想えた一瞬を捉え、一つの作品を仕上げていきます。それはまるで、その制作時間の間に作家が見て感じたその場の出来事が凝縮された“時の記録”のようです。
 

 

<絵の具のお話>

 

色を混ぜるなんて思いもよらなかったー
絵を描き始めてからずっとパレットの上で色を混ぜることはなく、色が自らキャンバスの上で交じり合っていく感覚で描き続けているとのこと。色はそれ自体を変えるのではなく、どう画面に置くかが重要。塗ったのか、くっつけたのか、または吸い付いたのか、へばり付いたのかで、同じ色でも孕んでいる空気が変わり、その呼吸も変化して見える。大場節子の油彩画で見える色彩がなんとも生き生きして見えるのは、混ざり気のない個々の色がそれぞれの多面性を発揮しているのかもしれません。

 

心が決めた綺麗な色ー
水彩絵の具を扱う時は、精密さが重要になると言います。いかに元々の紙の白さを残し、絵の具を置いていくか。色彩が重なり合うことでそれぞれの色が上がってくると信じ、心のリズムに合わせて色を追いかけていく。線も色面も全てリズム。そして心に想いがないと綺麗な色は描けないと教えてくれました。

 

<音楽と言葉>
心に色をつけてくれる音楽ー
昔から、音楽を聴きながら制作を続けている大場にとって、音色は制作の重要なキーアイテムのようです。心に響く旋律は時に作家の中の物語を引き出し、援護してくれる存在とのこと。かつてのトークイベントで、一つの絵画を仕上げるために作家が聴いていた音楽を披露した際、画面と音楽がドラマチックにリンクし、会場にいらっしゃったお客様たちの目に涙が溢れたこともありました。

今の自分をつかむ言葉を探したいー
自身の画集や個展のご案内へも言葉を残す大場。それは、その制作過程の月日のことや、描いている間に得た感覚を言葉にして発したもの。心の一編を表したいと願う、とても大切な自己表現の一つになっています。

 

 

<今展に向けて>

コロナの影響でほとんど外出しなかった昨年。唯一、絵画教室の生徒さんに連れられて出かけた先で、たった一輪、田んぼの片隅で堂々と咲き誇ってる真っ赤なチューリップに遭遇。「そこに光があるように感じた」と話してくれました。鋭く心を掴まれたその感覚は、久々に現場に立ったことを味わうにふさわしく、また自分が自分でいることを肯定されたようだったとのこと。今の大場の心境を表しているパワフルな作品です。
今展では、2018年から今年にかけて描かれた作品をご紹介。過去と現在の作家の想いの違いが画面を通してご覧いただけます。もちろん、今までになかった新しい扉を開いた大場節子の新作も必見。ぜひご堪能ください。

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