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『Pianos’ Conversation 2021』山下洋輔×横山幸雄 特別対談

(2021.06.18)

自由な演奏スタイルで驚きと感動に溢れたステージを届ける世界的ジャズピアニストの山下洋輔と、卓越したテクニック、膨大なレパートリーに意欲的な試みでクラシック業界を牽引するクラシックピアニストの横山幸雄のコラボレーション企画「Pianos’ Conversation 2021」。ジャズとクラシック、それぞれのジャンルで圧倒的な存在感を放つ二人の特別共演が、Bunkamuraオーチャードホールで実現する。二人の初共演となった2017年・八ヶ岳高原音楽堂での共演を振り返りながら、10月のオーチャードホール公演に向けての意気込みを尋ねた。

 

聞き手:長井進之介
写真:三浦興一 



― 前回の共演の印象は。
 

山下「フリージャズとクラシックという全く土壌の違う二人の共演でしたが、とても楽しかったです。そのとき演奏したのは今回もプログラムに入れているガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』や僕のフリージャズの曲『キアズマ』でしたが、私から横山さんには“即興部分は好きなようにやってほしい”とお願いをしました」

 

横山「その場の雰囲気などからもインスピレーションを得て弾いた、ある意味で“出たとこ勝負”の即興でした。作曲者の要求通り、というのも大変ですが、何をやってもいいといわれるのも大変ですね(笑)。とても新鮮なステージでした」


それぞれが異なるジャンルの第一人者である二人。互いの演奏に対する印象はどうだったのだろうか?


山下「即興には育ってきた背景がそのまま出てくるものだなと感じましたね。クラシックの方はジャズマンには想像もつかないような訓練を重ねられていて、その積み上げてきたものを基に繰り出す即興には、やはりすごいものがありました。それをとても楽しませて頂きました」

 

横山「クラシック音楽は作曲家の書いた楽譜をもとに演奏しますから、基本的には制限のある中で自由なことをしますよね。もちろん演奏する時はその制限を感じさせないように弾くのですが・・・。しかし、山下さんの演奏には本当の“自由”があって、同じ人間で、同じピアノという楽器を弾いているのにこれだけ違う世界が聴こえてくるのか…と驚きました」

 

山下「クラシックの方の演奏を聴くと、すぐにジャズプレイヤーとは違うものを感じるのですが、それはやはりジャズには“ジャズ語”のようなものがあるからでしょうね。即興であっても、ジャズがジャズであるためのフレーズというものはやはり存在するので。そして横山さんが前回聴かせてくださった即興からは、横山さんがそれまで培ってきたものがたくさん聴こえてきました。それはご自身が得意とする作曲家のスタイルだったり、“手癖”とでもいうのでしょうか、得意なテクニックなどが聴こえてくるのですよ」

 

横山「そう考えると、私も山下さんの演奏からは“ジャズ語”をマスターした上で成り立つ自由さが聴こえてくるように思います。ジャズピアニストを“自由”というのは簡単ですが、皆さんそれだけではない語法や個性、スタイルがありますよね。山下さんの演奏からは本当にそれを強く感じます」

 

山下「ただ、クラシックも昔はお客さんや貴族からテーマをもらって自由に即興演奏をしていたそうですし、突き詰めればクラシックもジャズも本質ではつながっていますよね。ですから共演にあたって“違和感”のようなものはあまりないです。特に横山さんは色々なことをわかって私を自由にさせてくれる感覚があります」


ジャズとクラシックの領域で第一線を歩み続けてきた二人の音楽が交差するコンサートでは様々な曲が演奏されるが、特に注目されるのは、2017年以来の再共演となるガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」だろう。


山下「基本的にはオーケストラパートを横山さんに弾いていただき、そのうえで私が自由にソロパートを弾くという形です。しかしそれだけではなく、時には一緒に“暴れて”もらい、突然もとに戻ったり…と、色々な形でのアンサンブルを展開するかもしれません。横山さんはセンスが素晴らしいので、ご一緒していてとても楽しいのです」

 

横山「ある程度形は決めていても、いざステージで演奏すると、その時に生まれるものがありますから、できる限りそれを出していきたいですね。そういうことができるととても楽しいのです。そもそも私自身は、クラシック音楽でも楽譜はガイドブックのようなものだと思っています。例えば19世紀から20世紀初頭くらいのクラシックはもっと自由なものでした。作曲家は自分の作品を自由に弾いていて、他の人が弾く場合もその人なりの個性をもっと出していたように思います。ポップスにおける“カバー”のような感じでしょうか。それが一度、原典回帰するように楽譜や作曲家を第一に考えるようになる時代に突入しましたが、最近はまた、少しずつ自由さを追求する流れが出てきているように思います。私も楽譜を基にどれだけ自由な発想を広げていけるかを大切にしているので、今回の『ラプソディ・イン・ブルー』も普段やっていることを拡大したようなイメージで臨みます」

 

山下「横山さんからはジャズマンのスピリットを感じますね。だからこそご一緒していてこんなに楽しいのだと思います」


異なる音楽性をもつ二人だが、垣根を超えた深いところでのつながりを感じる。
そんなお二人に、今回の再演についての意気込みを訪ねた。



山下「楽しみですね。お互いの積み重ねてきたものを重ね合わせて新たな音楽が生まれるという期待もありますし、同じピアノという楽器にも関わらず、それぞれ全く違う音を奏でるので、その違いを存分に味わっていただけたら」

 

横山「前回の共演から4年も経っていたことに驚きました。私は新しい試みやコラボレーションをするときは短いスパンで展開していくことが多いので、4年越し、というのはかなり長い期間です。だからこそ新鮮にできるところがあると思いますし、今回のコンサートをきっかけにさらなる発展につながればいいなと楽しみです」


山下、横山共にオーチャードホールでの演奏経験は豊富だが、どのような印象を持っているのだろうか。


山下「ジャズプレイヤーが普段よく演奏するところは、お客様がそれこそ膝の前までいるほどに近い、親密なライブハウスが多く、オーチャードホールはそれとは全く違う巨大な空間です。どうやって音を響かせるか、そして横山さんとどう作っていくか、工夫しながら演奏していきたいです」

 

横山「壮大なスケール感のあるホールですよね。しかも単に広いだけではなく、空間が大きい。ここで演奏するときは空間を支配しているような気分になり、とても高揚するのです」


山下は演奏家生活は60年に及び、横山は今年デビュー30周年を迎える。それぞれとても重みのある数字であるが、二人ともあまりその年月については意識していないという。


山下「時間を意識したことはありませんね。演奏することが完全に“生活”になっているので。これからも日々その生活を大切にしていきたいと思っています」

 

横山「あっという間だったなとは思いますね。ようやくここにきてピアノという楽器の扱い方が以前よりわかってきたような気がします。これからも湧き出るものを音にしながら、山下さんのように素敵に60周年を迎えたいですね」

 

常に進化しながら輝きを増していくピアニスト二人による、ジャンルを超えたコラボレーションの迫力あるステージを余すことなく楽しめる絶好の機会、ぜひたくさんの方に見届けて頂きたい。

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