無表情を飾る群像は、何かと不気味に私たちを見つめてくる。人間を模った複数もの顔を隠し、はたまた人間ではありえない肢体をする異形。しかし、旗、紙風船、ピアノなど楽し気に持ち出すモチーフと、どこか人間味を感じさせる仕草に、我々は思わず覗き込もうとする。
意識や知覚とも捉えられるその肢体は、予測も付かない形へと膨らみ変化する。得体の知れない不気味さの中に、親しみとユーモア溢れる物語が紡がれる。厚塗りによる重厚な画面に、不釣り合いにも作家の軽快な嗤い声がくすくすっと聞こえてくる。そして物語に集中していく内に、ふと夢から醒めたかのように我に帰ると、その物語の主人公はもう一人の自分であることに気づく。
椎木かなえが描く世界は虚構である。虚、または仮象、見せかけは、ネガティブな表現とされることが多いが、作家は仮象を用いて、主観や現象に満たされる日常の現実に、意識や知覚など目に見えない人間の内なる本質を顕にする。生と死の関係性にも着目し、日常では体験し得ない虚を物語る。
人間の深淵にある心象風景を描き続ける椎木かなえ。本展は3号から20号の油彩とドローイングの新作・近作を展示販売する。夢境の住人たちが主演する超現実の舞台を、どうぞご鑑賞ください。
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椎木かなえ 画集『虚の構築』を本個展会場にて先行発売
(書店発売2022年8月16日)
A5判・ハードカバー・64頁・税込2970円
発行:アトリエサード/発売:書苑新社
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