
「 「信太妻」より 葛の葉 」
2021年
石塑粘土、本絹、ガラス、アクリル、胡粉、油彩、パステルその他
少女から女性へ羽化する狭間の蛹のようなごく僅かな存在期間の戸惑い、そこに潜む不安。それは幼少期から運命的に芽生え、その記憶は生涯体内に宿る。老境に至り振り返ってもそれが不条理に思えるのは、知恵や言葉と言うものが発達する前の言語に代え難い「夢」か「現」か、不確かさから生じる。人形作家・衣(HATORI)の作品からはそんな憧憬を呼び覚まさせる作用がある。
以前は女性を中心に絵画作品を描いていたが、ある日自分の描いた女性に触れてみたいとの思いから独学で人形制作を始めた。家から代々受け継いだ呉服の生地を使い、人形に着付けさせる作風は衣の独自の着想であり、皺や襞にもこだわり、表情を持たせる。
笑っていても無表情でも、ある種の緊張感を漂わせ、人形がなにを考えているのかを詳細に設定し、背景の気配に対する「怯え」や「秘匿の心」や「期待」を孕む姿を追い求める。その複雑な想いを秘めた人形たちは顔だけでなく手や指先の動きなど細部にも想いを宿す。
あどけない少女から色香漂う艶やかな女性へ、孕む思惑や心情が静かに絡み合い、可愛らしさと情念が入り混じった瞳は観るものに何を語りかけてくるのだろうか。
本展では神話や古典・近代文学などより題材を求め、独自の解釈で制作したものを含めた新作・近作10余点の人形作品を展覧販売する。