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第27回Bunkamuraドゥマゴ文学賞授賞式レポート

(2017.11.27)

10月12日(木)、第27回Bunkamuraドゥマゴ文学賞授賞式が執り行われた。また授賞式に先立ち、今年の先行委員を務めた川本三郎氏と、受賞作『名誉と恍惚』の松浦寿輝氏による記念対談が実現した。

『名誉と恍惚』は1930年代後半の魔都・上海を舞台にした長編小説。日本人警官の芹沢が、あるときから組織に追われることになる。まず川本氏が「今年はもうこれしかないと早くから決まっていました。エンターテインメントの要素と純文学の要素が、非常にうまく溶け合った大作です」と同作を紹介。

松浦氏は「がっしりとした骨格を持った長編を書いてみようと思いました。近代小説の伝統に則ったリアリスティックな物語を書いてみようと。中国は、自分の実体験と全くかけ離れた場所ですが、思い切ってそこに舞台を設定し、さらに1930年代という時代に人物を置くことで、想像力が羽ばたいてくれるのではないかと思いました。また上海神話といえるイメージも利用できたらと思いましたね」と筆を取った際の狙いを口にした。

川本氏は都市との結びつき、“孤児”(芹沢は大人ではあるが、ある種、孤児ともいえる)の物語であるといった点が、古典文学の要素と重なっており、成功していると指摘。

さらに川本氏と松浦氏の意見は、芹沢の運命が、映画ジャンルの“逃亡者モノ”のようだと一致し、続けて松浦氏が「こういう物語を書き始めると、映画好きの血が騒ぎまして。僕のイメージでは芹沢は若い頃のトニー・レオンでした。二枚目なんだけど、弱さも抱えていて、甘いところもあって」と告白。川本氏、会場からは驚きの声が上がった。

また本作を構成する重要な要素であるエロティシズムに関し、かなり意識したのか川本氏が質問すると、松浦氏は「人には公的な部分がある一方で、非常にプライベートな私的な生活がある。その極め付けがセクシュアリティの要素です。一番秘かな内面で起きている出来事も含めて、主人公の存在の仕方の重さみたいなものを、言葉によって表現してみたかったんです」と理由を語った。

対談後半では、川本氏が「お話しを伺っていて、『第三の男』が浮かびました」と触れ、松浦氏も強く反応。次のように話した。「『第三の男』では観覧車のシーンでオーソン・ウェルズとジョセフ・コットンが対峙します。『名誉と恍惚』では芹沢に対する宿敵として嘉山少佐という陸軍参謀本部の謎めいた男を登場させました。最後に芹沢と嘉山が言葉を交わしたシーンは、『第三の男』の対決のシーンと感触が似てなくもない。川本さんの話を聞きながら、無意識のうちに、頭にあったのかなと思いました」と漏らすなど、ふたりならではの対談が展開。

さらに松浦氏が「どなたか才能のある野心的な監督が、この小説を映画化してくれたら」との希望を語るなど、会場を巻き込みながらの楽しい対談となった。

引き続いて開催された贈呈式では、賞状の授与や副賞の目録が贈られた。また今年はパリ「ドゥマゴ」のオーナーであるカトリーヌ・マティバ氏と社長のジャック・ベルニョー氏も出席し、「松浦さんはパリで非常に優秀な学業を修めたと聞いています。『名誉と恍惚』のフランス語版が一日も早く出版され、パリの『ドゥマゴ』のショーウィンドウを飾ることを心待ちにしています」と祝辞を送った。

授賞式の模様を動画でご覧いただけます。

撮影:大久保惠造

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