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『ドゥマゴサロン 第17回文学カフェ 娘、母、父…家族とは 「ファザーファッカー」から「ダンシング・マザー」へ』

(2019.04.16)

3月18日(月)、第17回となる『ドゥマゴサロン 文学カフェ』が開催されました。テーマは“娘、母、父・・・家族とは 『ファザーファッカー』から『ダンシング・マザー』へ”。

日本に「アダルトチルドレン」という概念を紹介し、浸透させた精神科医の斎藤学先生と、『ファザーファッカー』『私たちは繁殖している』の両作で第4回「Bunkamuraドゥマゴ文学賞」を受賞した漫画家で小説家、エッセイスト、女優としても活躍する内田春菊さんが、内田さんの小説に触れながら、満席となった会場で対談を行いました。

内田さんは、昨年の11月に、小説『ダンシング・マザー』を発表。『ファザーファッカー』と対になるような作品で、義父からの性的虐待を娘が受ける家族の姿を、“実母”からの視点で描いて話題を集めています。

『ファザーファッカー』を読んだとき、「もっと被害を受けた女性たちが喋るべきだと思った」という斎藤先生。虐待に関するデータにおいて、日本だけが海外に比べて、全虐待数の中で性的虐待だけが極めて低いのも、表に出ていないだけだと指摘します。小説ではあるものの、内田さん自身が性的虐待を受けた主人公の少女のモデルとなっている『ファザーファッカー』が発表される以前は、被害女性自身の声というのはほぼ聞かれなかったと先生がお話すると、内田さんも会場の観客からも「そうなんだ」と驚きの声が上がりました。

『ファザーファッカー』から3年後に内田さんが発表した『あたしが海に還るまで』についても、「私が診てきた治療関係にある女性たちと重なる。とにかくリアル」と斎藤先生。「ただ内田さんの作品はやはり小説ですから、文章、文体は文学。いちいち言葉が刺してくるんです」と伝えると、内田さんが素直に喜ぶ場面も。また内田さん自身、『あたしが海に還るまで』を読み返したそうで、「なんか私、セックスばっかりしてるんですよ」と感想を漏らすと、そこから話は性に及んだ。

先生曰く、「人間は性器を隠す生き物で、性交するためにいろんなルールを作ってなるべくできないようにしてきたことで、エロスが巨大な力を持つ存在になってしまった」とのこと。実は「男性ホルモンのテストステロンは4歳の時に一度高まって、その後ゼロになり、14歳でピークを迎える」そうで、これには内田さんも観客もびっくり。

最近、『ファザーファッカー』がミュージカルになったという内田さん。最初のボーイフレンドが「僕は中学生男子だから頭の中はそれ(セックスのこと)しかないのよ」と歌うシーンがあるのも間違っていないのだと、意外なところからの証明もありました。

そして話は『ダンシング・マザー』へ。先日、読まれたという斎藤先生が、「女性のよくある姿だと納得して読ませてもらった。特に子供を産んでからの女性。外から来た男と、お母さんの連れ子というのは危ないことが多い。女の子がだんだんと成長してきて、自分が結ばれた相手じゃなくて、その娘に固執が映っていく。そしてお母さん自身がそれに気づいても阻止できない」と話します。

すると内田さんが「育ての親が、私に『色気づいてる』とか言って来ていたと話したら、『本人(育ての父)が一番、誘われちゃってるんだよね』と先生がお答えになって、そうかと腑に落ちたんです」と、育ての父との関係について、先生の言葉がヒントになったことがあると明かしました。

また『ダンシング・マザー』では内田さんが優しくなっていると先生。「『ファザーファッカー』のときとあまり変わらないと思うかもしれないけれど、随分違う。お母さんに対しても妹さんに対しても今度のほうが優しいよ」と話すと、内田さんは「それは編集さんのおかげが大きいです。最初の表現ではもっと怒っていたので、私ひとりではこうなりませんでした」と振り返りました。

そして“家族”に関して、斎藤先生は「モデル的な健全家族みたいなものを置いて、それに倣いなさいみたいな考え方は卒業したほうがいいと思っている。今は家族にいろんな機能を期待しすぎて、積み過ぎた箱舟になっている。もう結婚そのものには大した意味がない。家の構造は社会構造を映すけれど、家の在り方そのものが議論されなきゃいけない時代になってきていると思います」と明言。

内田さんも「うーん」と唸りつつ、「男性はどうしても家を持つとお山の大将になっちゃいますよね」とぽつり。すると先生が「それは男の弱さでしょうね。威張ってないともたないんですよ。母と子がもともと家族の核だから。そこに幼女を抱く母の色気というのが発生して、せっせと通って来る、あなたの小説の孝さんのような男が現れるわけだ」と指摘し、「確かに」と内田さんも納得。まだまだお話は尽きない様子でしたが、あっという間に終了時間に。熱気が冷めぬまま、おふたりに大きな拍手が送られました。


写真・構成:望月ふみ

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