©奥山由之
「羅生門」「藪の中」「蜘蛛の糸」「鼻」といった芥川の代表作と芥川の人生そのものも絡ませ、一つの物語にまとめあげる意欲作!
生きるために必要な悪、必要悪という人間のエゴイズムを克明に描き出した「羅生門」を中心に物語は展開していきます。仕事を失い途方にくれる下人(「羅生門」主人公)が、悪に手を染めても生き抜く道を選ぶ、その選択をするまでの数秒間に下人の脳内でおこったことをファンタジックに描きだします。演出家のオリジナルのユニークな百鬼(妖怪)達が登場し、まるで心の声のように、登場人物たちを操っていきます。
「藪の中」、「蜘蛛の糸」、「鼻」は下人の記憶や妄想、そして白昼夢のように組み込まれ、芥川世界がまるで一つの宇宙のように舞台上に浮かびあがることでしょう。
ミュージカル『100万回生きたねこ』で、私達を驚かせてくれたイスラエルの鬼才が、5年の構想期間を経て、ついに挑む待望の新作!
2016年に鶴屋南北戯曲賞を受賞するなど、活躍目覚ましい長田育恵が戯曲を手掛けます。
また演出・振付・美術・衣裳を手掛けるのは、ミュージカル『100万回生きたねこ』の瑞々しい演出で私達を驚かせてくれたイスラエルのインバル・ピントとアブシャロム・ポラックです。二人は芥川作品を読み、哲学的な面白さはもちろんのこと、現実とファンタジーが鮮やかに混ざりあう世界観に圧倒されたと言います。
音楽は、前出のミュージカル『100万回生きたねこ』でも演出家の世界観を見事音楽で体現してみせ、絶大な信頼を得ている阿部海太郎を中心に、中村大史、青葉市子といった才能豊かな方々にオリジナル音楽を作って頂き、6人の個性豊かなミュージシャンに生演奏して頂く贅沢な仕立てです。
個性派かつ演技派キャストが大集結!
「羅生門」の下人には柄本佑、そして下人が象徴する芥川に多大な影響を与える女性には満島ひかり、圧倒的演技センスを持つお2人に演じて頂きます。また、常に下人と対峙する男役を、活躍目覚ましい吉沢亮に演じて頂きます。ご想像に易く、この3人の因縁は「藪の中」で決定的なものになります。
また田口浩正、小松和重、銀粉蝶といった個性的な面々を中心に、日本を代表するダンサー達が百鬼として舞台を彩ります。
朽ちた門楼で雨宿りをしている下人。森羅万象であり永遠を生きる百鬼たち、そんな下人を見つめていた。下人は楼上で、女の死体から髪を抜く老婆に出会う。
「生きるためなら罪を犯してもいいのか?」
太刀を抜くが、心に一瞬の躊躇がよぎる。そして、気づく。死体の女に見覚えがあると。
その瞬間、百鬼の歌が響き、死体の女が目を開く。
「あたしが欲しい?」
無限に引き延ばされる一瞬、百鬼の導きで、下人と女の過去と未来のヴィジョンが展開する。
「分からないんだ、自分でも、なんでこんなに惹かれるのか」
巡り合いを重ね、もつれあう無数の糸。その交点に火花が散る。
百鬼は下人に問い続ける。――「おまえは生きてるか? 死んでいるのか?」
芥川龍之介「羅生門」の世界に、「藪の中」「鼻」「蜘蛛の糸」のエッセンスを加えて編み上げる、生きるための魂の旅。かつて人を愛した記憶があった。まだ果たされない約束がある。旅の終わり、下人と女が見つけ出す答えとは。