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N響オーチャード定期 2011-2012シリーズ
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N響オーチャード定期2011/2012シリーズ

第67回 2012/3/20(火・祝)15:30開演

曲目解説 | MUSIC

N響正指揮者・外山雄三さんの指揮で、交響曲、協奏曲、バレエ音楽(組曲)の盛り合わせを楽しみます。マエストロが指揮デビューしたのが 1956年のN響の演奏会といいますから、外山さんとN響との関係は半世紀以上に及びます。しかし今もその指揮は若々しく、本日のプログラムでも(特にフランスやロシアの近代の音楽では)、マエストロ自身の作曲家としての視点を活かした明快な演奏が聴けるに違いありません。

♪ベートーヴェン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93

 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)の交響曲第8番は、19世紀に生きる彼が18世紀のハイドンやモーツァルトを模した"擬古典的"な作品といえるだろう。メヌエット楽章の採用は交響曲第1番以来。楽器編成は標準的な2管編成。演奏時間も30分を切るコンパクトなものである。しかし、中身においては斬新な試みも行われている。第1楽章に序奏はなく、緩徐楽章も置かない。第2楽章の意表をつく64分音符の刻みや第4楽章のpppから突然のffなどのいたずら心もある。第1楽章の締め括りや第2楽章の冒頭にはユーモアが感じられる。決して昔に回帰しただけの作品ではない。
 交響曲第8番は1812年に同第7番に引き続いて作曲されたが、その頃には「不滅の恋人への手紙」の執筆もあった。初演は1814年2月、ウィーンの王宮内の大舞踏会場で行われ、そのとき、2か月前に初演されたばかりの交響曲第7番と《ウェリントンの勝利(戦争交響曲)》も演奏された。第8番への聴衆の反応は、第7番へのそれよりもずっと低調だったが、ベートーヴェン自身は第7番以上に第8番を好んでいた。第8番は、ベートーヴェンの交響曲のなかで唯一、誰にも献呈されなかった作品である。大げさな身振りのないこの交響曲は自分のために書かれたのだろうか。あるいは密かに「不滅の恋人」に捧げられていたのかもしれない。

第1楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ・エ・コン・ブリオ。序奏なしで、いきなり明るい第1主題が提示される。第2主題はヴァイオリンが奏でるワルツのような旋律。最後は第1主題で愛らしく締め括られる。
第2楽章:アレグレット・スケルツァンド。冒頭、管楽器がメトロノームのように同じ音を繰り返し、第1ヴァイオリンがチャーミングな主題を歌い出す。突然の64分音符の刻みに驚く。
第3楽章:テンポ・ディ・メヌエット(メヌエットのテンポで)。エレガントでウィットも感じられるメヌエット。トリオ(中間部)での2本のホルンとクラリネットの三重奏は聴きもの。
第4楽章:アレグロ・ヴィヴァーチェ。俊敏な第1主題がpppまで音量を落としたところで、いきなりffになるところにベートーヴェンのいたずら心が感じ られる。ファゴットとティンパニのオクターヴの跳躍が印象的。長大な終結部での、転調を交えた息の長い高揚に圧倒される。

♪ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調

 フランス近代を代表する作曲家の一人であるモーリス・ラヴェル(1875~1937)は、2つのピアノ協奏曲(このト長調の協奏曲と「左手のためのピア ノ協奏曲」)を残しているが、それらはともに1930年前後に作曲された。既に健康状態の優れなかったラヴェルは、1930年代にはその2つの協奏曲を含めて3つの曲しか完成させることができず(あとの一つは、歌曲集《ドゥルネシア姫に思いを寄せるドン・キホーテ》)、それらはラヴェルの早過ぎる晩年の作品となった。
 快活で華やかなこのピアノ協奏曲には、スペイン的要素とともにジャズの語法も採り入れられている。初演は、1932年1月、パリのサル・プレイエルにて、マルグリット・ロンのピアノ独奏、ラヴェル自身の指揮するラムルー管弦楽団によって行われた。
第1楽章:アレグラメンテ。ムチの一撃で開始され、ピッコロが軽快な主題を奏で、それはトランペットに受け継がれる。途中にハープによる幻想的なシーンも現れる。カデンツァでは、右手がずっとトリルを奏でている。
第2楽章:アダージョ・アッサイ。冒頭、ピアノが3分あまり美しいソロを奏で、そのあと木管楽器が順番に加わっていく。その後、イングリッシュ・ホルンが長いソロによって哀愁を帯びて冒頭の主題を再現し、それにピアノが装飾的な高音域での細かい動きで絡んでいく。
第3楽章:プレスト。沈潜した第2楽章から一転、小太鼓と金管楽器と大太鼓による賑やかな音楽で楽章が始まり、独奏ピアノが駆け抜けていく。

♪ストラヴィンスキー:バレエ組曲《火の鳥》(1919年版)

 20世紀を代表する作曲家、イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882~1971)は、ロシアに生まれ、パリで名声を獲得し、後半生はアメリカで活躍した。
 バレエ音楽《火の鳥》は、ロシア・バレエ団からの依頼で1909年から10年にかけて作曲された。1910年のパリのシャンゼリゼ劇場での初演は、ストラヴィンスキーにとって最初の大きな成功となり、以後、彼は、ロシア・バレエ団のために《ペトルーシュカ》や《春の祭典》などの傑作を発表していく。
 ストーリーはロシアの民話に基づいている。王子が魔王カスチェイに囚われていた王女たちを救い出そうとするが、逆に捕らえられてしまう。しかし、かつて王子が逃してやった火の鳥が現れ、彼らを助け、最後に王子は一人の王女と結ばれる。
 演奏される組曲(1919年版)は、作曲家自身がオリジナルのバレエ音楽をコンサート用に標準的な2管編成のオーケストラで演奏できる版にまとめ直したものである。
 「序奏」は魔法の国の夜。「火の鳥とその踊り」で、火の鳥が王子の前に現れて踊り始め、「火の鳥のヴァリアシオン」で、火の鳥の踊りが繰り広げられる。 「王女たちの踊り(ホロヴォート舞曲)」は、魔王カスチェイに囚われている王女たちのロマンティックな踊り。「カスチェイ王の魔の踊り」は、火の鳥の魔法によってカスチェイとその手下たちが踊り狂うシーンを描く。踊り疲れたカスチェイたちは、火の鳥の歌う「子守歌」で深い眠りに落ちる。「終曲」は王子と王女の結婚式。華やかなロシアの婚礼のシーンが目に浮かぶようだ。