ラインナップに戻る

N響オーチャード定期 2011-2012シリーズ
N響オーチャード定期 2012-2013シリーズ
N響オーチャード定期 2013-2014シリーズ
N響オーチャード定期 2014-2015シリーズ

N響オーチャード定期 2013-2014シリーズ

第79回 2014/4/29(火・祝)15:30開演

楽員インタビュー/吉田秀(コントラバス) | INTERVIEW

オーケストラの中で最も大きな楽器、それがコントラバス。客席からだと、たいていは右手(上手側)にそのノッポな姿がまとまっているのが見える。オーケストラの低音部を担当する楽器、ということは知っている方が多いだろうと思うが、実際にその音色は? と聞かれると、答えづらいかもしれない。NHK交響楽団の首席コントラバス奏者・吉田秀さんに聞いてみた。

コントラバスの音色の魅力とは、なんでしょう?

小さなブラスバンド(吹奏楽)で、そこにたった一本コントラバスが加わるだけで、全体の音色が変わります。コントラバスは、これ、というような音の表現が難しいですが、他の楽器同士の間に入り込んで、その音色を解け合わせ、まとめる、そんな役割があります。規模の大きいオーケストラでも、オーケストラ全体を下から支えると同時に、オーケストラ全体を包み込むような形で、その音色を作り出しています。

吉田さんがコントラバス奏者になったきっかけは?

子供の頃からクラシック・ギターを習っていて、かなりはまり込んでいたのですが、ギターで進学しようと思っても、当時は音楽高校や大学にギター科が無かったのです。それでギターの先生が、ギターを続けるにしても、音楽の知識をもっと増やした方が良いし、基礎的な理論も知った方が良いから、とコントラバスで高校に進学したらどうか、と勧めてくれたのがきっかけです。コントラバスはオーケストラの他の弦楽器とは違い、調弦が4度音程で、それはギターの下4本の調弦と同じです。それで比較的早く馴染むことが出来のだと思います。そして、高校のオーケストラの授業では、チェロとコントラバスがぴったり合った時の快感を知りました。古典派ぐらいまでのオーケストラ曲では、コントラバスはたいていチェロのオクターブ下を弾いていますから、そこで音程が合うと、とても気持ちが良いものだ、と。実はその高校の同級生に、チェロの藤森亮一(現・NHK交響楽団首席チェロ奏者)がいて、彼とはそれ以来の付き合いになります。

最近では、ブラスバンド部でコントラバスに出会い、そこからプロのコントラバス奏者になる、というような方もいらっしゃるそうですね。

そうですね。コントラバスは大きな楽器で、一般的には子供用のコントラバスというのもないから(注文をすれば作ってもらえる)、楽器が弾けるようになる年齢はけっこう高くなります。でも、今は子供の頃から小さいコントラバスを弾いていたなんていう人もいますよ。

N響オーチャード定期の中で、ノリントンが指揮した回(第76回:2013年10月14日)がありました。その時はコントラバスの位置が通常とは違って、中央の奥に一列に並んでいました。普段と違う場所で演奏するのは、感覚的にかなり違うような気がしますが。

N響の場合、コントラバスは通常、上手側にまとまっています。ヴァイオリンを左右に分けるのを対抗配置と言いますが、そういう時に下手側に行ったりすることもあります。この配置だと1stヴァイオリンに近づくのでアンサンブルがしやすくなります。
 ノリントンさんはいつも中央後方にコントラバスを配置するのですが、チェロとの間に管楽器が入り、最初は少し戸惑いますが、慣れてくると全体を見渡すことが出来てタイミングがつかみ易くなります。

コントラバスは大きな楽器なので、運ぶのが大変だと聞きます。N響の場合は、楽団がコントラバスを所有していて、それをそれぞれの奏者が使うという形なのですか?

日本のオーケストラの場合、コントラバスは楽団所有が多いと思います。アメリカはなぜか個人所有で、それぞれの楽器にも個性がありますよね。個人で演奏会をする場合は、自分の楽器を持って行くことになります。最近ではちゃんとタイヤの付いた専用キャリーもあるのですが、僕の場合は、肩に担いで移動します。確かにキャリーは便利なのですが、多少でもコントラバス本体に振動を与えることになるので、それが気になってしまうんですよ。演奏での移動も多いので、新幹線でちゃんと置ける場所も調べています。

今回のオーチャードホール定期はとても面白いプログラムですが、特にベートーヴェンの「田園」が楽しみです。

「田園」は指揮者の力量が良く分かる作品だと思います。指揮者がアイディアをはっきりと持ち、それでリードして音楽を作ってゆく作品かもしれません。正確なアンサンブルで楽譜通り演奏しただけでは、なかなか名演にならない作品のひとつではないでしょうか。今回の指揮者のマンゼさんは古楽にも詳しく、ヴァイオリン奏者でもあった方なので、また新しいアイディアを提示してくれるのでは、と期待しています。それにハープによるモーツァルトのピアノ協奏曲というのも、どんな響きになるのか、予想がつかないので楽しみです。

ありがとうございました。

インタビュアー:片桐卓也