ウィーン国立バレエ団。
それはまさに、バレエの神に選ばれしマニュエル・ルグリが生んだ奇跡の結晶――。
ルドルフ・ヌレエフの愛弟子であり、パリ・オペラ座バレエ団を代表するエトワールとしてフランスの国宝とまで評され、いまなおバレエ界にその名を燦然と輝かすマニュエル・ルグリ。2010年9月にウィーン国立バレエ団芸術監督に就任。ダンサーを徹底的に鍛え上げ、就任から数年でヨーロッパでもトップクラスの実力を持つバレエ団に押し上げました。
精鋭揃いの群舞から、世界各国のガラでも出演依頼が殺到するプリンシパルダンサーらを擁するこのバレエ団は、ヨーロッパで今一番見るべきカンパニーと世界中から注目を集めています。
そんなルグリですが、芸術監督就任10年目の節目となる2020年で芸術監督の座を退くことを表明したばかり。彼が率いるウィーン国立バレエ団の貴重な来日公演になる今回、ルグリがウィーンで成し遂げたすべてが凝縮された2つのプログラムをご用意しました。
完璧な超絶技巧に酔いしれる、誰も見たことのない『海賊』――
ルグリの芸術監督就任後、バレエ団の活動でもっとも注目を浴びたのは、2016年3月。彼が初めて手掛けた全幕作品である『海賊』の世界初演のことでした。世界各国のバレエ界の重鎮が集ったプレミアは、全公演ソールドアウト。ヨーロッパのバレエ界が手放しの賞賛を贈ったのです。この版の驚くべき特徴は、アリが登場しないということ。ルグリは台本を徹底的に研究し、首領コンラッドとメドーラの恋物語に焦点をおきました。さらには、埋もれていたアダンの楽曲で構成された第3幕のオダリスクや、『シルヴィア』の音楽を使用したメドーラとコンラッドの美しいパ・ド・ドゥなど、ルグリ版だけで見ることのできる踊りを追加。ビルバントの恋人として登場するズルメアや、これまで好色な老人として描かれてきたサイード・パシャが、ハンサムで魅力的な男性として登場するなど、ルグリ版ならではの人物設定も作品に新たな魅力を吹き込んでいます。まさに、世界の頂点を極めたルグリの感性を余すことなく堪能できる作品と言えるのです。
ルグリが「超絶技巧が次々と繰りひろげられる僕の『海賊』ですが、ウィーンのダンサーはどんな複雑な技術もエレガントにスマートに見せる実力を持っています」と語る通り、主要キャストには彼が絶大な信頼を寄せるバレエ団の看板ダンサーが勢揃い。コール・ド・バレエの隅々にまで完璧主義が貫かれているダンサーたちが、『海賊』にこれまで見たことのない輝きをもたらすのです。
さらにはロシアを代表するマリインスキー・バレエ団で、アジア人初のプリンシパル昇格という快挙を成し遂げたキミン・キム(プロフィールはこちら)がゲストとして登場。すでにパリ・オペラ座バレエ団やアメリカン・バレエ・シアターなど世界中でその実力を証明しているキムですが、ルグリが「ぜひ自分の作品を踊ってほしい」とラヴコールを送ったというからますます期待が高まります。
門外不出の「ヌレエフ・ガラ」 国外初披露!
もうひとつのプログラムは「ヌレエフ・ガラ」。2011年、伝説のダンサーであり、自らの師であるルドルフ・ヌレエフの芸術性と偉大な功績を継承すべく、ルグリはウィーン国立バレエ団で「ヌレエフ・ガラ」をスタートさせました。それ以降、このガラは毎年、バレエ団のシーズンの最後を飾る公演として行われています。
ヌレエフは、古典バレエの改訂にも熱心で多くの“ヌレエフ版”と呼ばれる改訂版を生み出しました。そんな彼が初めて古典改訂作品を発表したのが、ウィーン国立バレエ団。1964年に『白鳥の湖』を創作し自ら主演して以来、ウィーンは彼の活動拠点であり、1982年にはオーストリア国籍を取得しています。
そんなヌレエフを語るのにマニュエル・ルグリほど適切な人物はいません。1986年のニューヨーク公演でルグリを、パリ・オペラ座バレエ団のエトワールに任命したのはヌレエフであり、彼は世界中の公演にルグリを連れ自分の芸術性を惜しみなく伝えました。「ヌレエフ・ガラ」ではヌレエフの魂を継承したルグリが、彼の芸術性を再現するのです。
公演のハイライトは、すべてのヌレエフ版を踊り熟知しているルグリが、ヌレエフの古典作品から見どころだけを集め構成する夢のようなプログラム「ヌレエフ・セレブレーション」。「私のバレエが上演され続ける限り、私は生きている」というヌレエフの言葉を実感いただけることでしょう。
また、日本初の「ヌレエフ・ガラ」には、ルグリ自らも出演します。昨年9月レティシア・プジョルの引退公演でパリ・オペラ座の舞台で披露し、変わらぬエトワールの舞でパリの観客を魅了したノイマイヤー振付の『シルヴィア』、プティ振付の『ランデヴー』という21世紀を代表する巨匠のマスターピース2作を踊ります。昨年、自身によるグループ公演で、誰もが想像し得ない新たなる境地を神がかった舞で披露したルグリ。とどまるところを知らないこの天才ダンサーは、いま再び、我々のまだ知らない新たな感動世界に誘うのです。
マニュエル・ルグリがエトワールを引退後全精力をかけて育てたこのバレエ団は、バレエの神とルグリによる共同作業の奇跡なのです。想像を超える感動をご堪能ください。