2026.09.10 UP
大澤夏美さんと巡る!
渋アート的ミュージアムグッズ―五島美術館―

展覧会の思い出やお気に入りの作品をおうちで楽しむことができる「ミュージアムグッズ」。文具や雑貨としてのかわいらしさもさることながら、それぞれの美術館・博物館ならではのこだわりや工夫がたくさんつまっているのも魅力のひとつです。
このシリーズでは、渋アート連携施設の「ミュージアムグッズ」への想いや熱意を、ミュージアムグッズ愛好家として活躍中の大澤夏美さんが取材。大澤さんならではの視点でその魅力に迫ります。
第4回は五島美術館。心を落ち着かせる日本と東洋の古美術に触れ、その穏やかなひと時を思い出すために手に取ってほしいという「ミュージアムグッズ」に込められた想いを伺いました。
取材・文/大澤夏美
静かな感動を、日常のデスクへ。
五島美術館のショップで見つけた「お持ち帰り」のストーリー
世田谷の静かな住宅街に佇み、国宝『源氏物語絵巻』をはじめとする貴重な東洋古美術を収蔵する五島美術館。重厚で静謐な佇まいのミュージアムですが、鑑賞を終えてミュージアムショップに立ち寄ると、そこには来館者の「見た感動」にそっと寄り添う、温かな空間が広がっていました。
今回取材をして見えてきたのは、単なるお土産売り場ではなく、訪れる人の「鑑賞体験」をどこまでも大切にする丁寧なものづくりの姿。そして、時代が変わっても揺らがない確かなミュージアムショップ哲学でした。
■1960年からあった!「鑑賞の思い出」を持ち帰るための場所
「実は、当館のミュージアムショップは1960年の開館当時からあったようなんです」
担当者の方がそう語ってくれました。まず驚かされたのはその歴史の長さ。同館の成り立ちを遡ると、東急グループの礎を築いた五島慶太(1882~1952)が喜寿を記念し、自らのコレクションを広く一般に公開するために設立を申し出たことに始まります。開館時には学術研究者を対象とした「大東急記念文庫」も移設・併設され、国宝や重要文化財を含む膨大な古典籍や古美術が納められました。
「当時の資料を見ても特段の目的意識が書かれているわけではありませんが、当時の『鑑賞したものを思い出に残す』という一般的なイメージから設置されたのだと思います。当時は今のようなミュージアムグッズではなく、研究成果をまとめた出版物や図録、大東急記念文庫の研究発表などが中心でした」
時代の変化とともに現在の形(14年ほど前の改装)へとリニューアルされ、取り扱うアイテムも多様化していきました。しかし、時代が変わっても根底にある考え方は一貫しています。
「ミュージアムグッズを極めることが目的ではありません。あくまで美術館に来て、美術品を見て感じたことを思い出に残すためのものであるべきだと思っています。ミュージアムグッズ先行ではなく、まずは美術品とキャプションをしっかり展示し、思いを深めてもらった結果として『思い出に買って帰ろう』となるのが理想なんです」
まずは作品との時間を存分に楽しんでもらうこと。ミュージアムショップは独立した店舗ではなく、あくまで鑑賞体験の余韻を日常につなぐ存在として捉えられていました。

入口近くに落ち着いた佇まいで構えるミュージアムショップ。歴史ある美術館らしく、棚には図録や専門書と並んで、鑑賞の余韻を誘うオリジナルグッズが丁寧にディスプレイされています。
■80円のポストカードから18万円の茶器まで!「ここでしか買えない」理由
五島美術館のミュージアムショップを覗いてみると、そのラインナップの幅広さとユニークさに圧倒されます。象徴的なのが、1枚80円という驚きの価格で提供されているポストカード。担当者が調べた限りでも「業界で一番安いのでは」という価格設定です。これには「まずベースとして手に取ってもらい、作品の美しさを持ち帰ってほしい」という思いが込められています。特に国宝『源氏物語絵巻』のセットなどは、展示室で本物を見て感動した直後に手に取る人が多く、圧倒的な人気を誇ります。

ずらりと並ぶポストカード。1枚80円なので何枚もまとめ買いしてしまいました。
その一方で本格的なアイテムも並んでいます。現物に近いクオリティで作られた復製茶器(香合など)は、15万円や18万円という高価格帯でありながら購入されていくのだとか。実物を見て感動し、「自分の手元に置いて愛でたい」「家に連れて帰りたい」というファンの熱い欲求に応えています。
また、ミュージアムグッズ開発のアイデアも現場の柔軟な連携から生まれています。学芸員が展示テーマに合わせて提案するケースも多く、2025年開催「[館蔵]秋の優品展 武士の雅遊」の特集展示「蔦屋重三郎―江戸には江戸の風が吹く」では、マスキングテープやポチ袋を制作。小規模な組織だからこそ館長や担当者で即決し、商品化に至りました。

550円というワンコイン感覚で買えるポチ袋は、来館者にとっても「ちょっとした思い出」として大好評だったそうです。
さらに、展覧会に連動した書籍のラインナップも秀逸です。茶道具の展覧会の時期には、普段は大型書店でも手に入らないような専門書を並べるなど、展示内容に合わせて棚の雰囲気をがらりと変えています。
「当館のお客さまは、海外からの来館者の比率は1〜3%ほどと低く、目的を持って来られる国内の60代以上の女性が中心です。また、ご自身で茶道や書道を嗜む方も多くいらっしゃいます。だからこそ、トレンドを追いかけるのではなく、そうしたお客様にも喜んでもらえるものをしっかりお届けしたいと思っています」

2025年開催「[平安書道研究会900回記念特別展]極上の仮名―王朝貴族の教養と美意識―」では、書き味にこだわった書道用の筆ペンを販売したところ、書を嗜む来館者に大ヒット。本物志向の客層に響くこだわりも伺えます。
「売る」となった瞬間に美術館の看板を背負うことになるため、ミュージアムグッズ開発におけるクオリティ管理も徹底されています。過去に、関連大学への進呈品として収蔵品をモチーフにした風呂敷を作り、のちに大学内で販売することになった際も、学芸部から「作品のイメージを損なわないものを」と改めて厳しいチェックが入ったといいます。結果として進呈品のクオリティにも問題はなく、そのまま販売に至ったそうです。
色合いやバランスに至るまで妥協なく追求する姿勢には、東急グループの取り組みにも通じる、「目に見えない心と心のつながり」を大切にするおもてなしの精神が息づいています。

繊細な絵柄の巾着や手鏡などの和テイストな小物たち。どれも主張しすぎず、日常の中で大切に使いたくなるような品のある佇まいが印象的です。
■元ホテルマンが語る「カタチのないおもてなし」
実は、今回お話を伺った担当者の方は、27年間東急グループのホテルでキャリアを積んできたという異色の経歴の持ち主です。
「ホテルも美術館も、実は同じ『サービス業』だと思っています。ホテルは形のないサービスを通じてブランド価値を感じていただく仕事。美術品も持ち帰ることはできませんが、見て感じたことで館への信頼を高めていただく。これはサービス業と全く共通しているんです」
五島慶太もまた、ビジネスの最前線に立ちながら古美術への造詣を深めた人物でした。戦前、関西圏の鉄道経営に参画していた際、会議の合間などに京都や奈良の古寺名刹へ足を運び、古写経などの美に触れて心を静めていたと言います。
「西洋美術が『パッション(情熱)』なら、東洋美術は『心を落ち着かせる』ものだと館長がよく言います。激しいビジネスの世界にいた慶太翁も、美術品を見て心を落ち着かせていたようです。ミュージアムグッズも、日常に戻った時に『ああ、あの時は心が落ち着いたな』と思い出させる役割であることが大事だと思っています」
確かに、五島美術館の収蔵品は、茶道具や古典籍を中心としており、鑑賞したり嗜んだりすると心が落ち着くものが多いのです。それはパッションではなく、「疲れた人を癒やす、リラックスの象徴」としてそこにあるのだと言えるでしょう。

五島美術館に取材に伺った、とある夏の日の庭園。気品ある静けさが漂う庭園や館内、形のあるミュージアムグッズの背後には、創設時から続く「目に見えない心地よさや信頼」を届けたいという、おもてなしの心がありました。
五島美術館のミュージアムグッズもまさに同じ役割を担っています。あえてオンラインショップをメインとせず、「現地に足を運び、作品と向き合って心を落ち着かせた時間」と一緒に持ち帰る体験そのものを大切にしています。流行のキャラクターコラボや派手な映えを狙うのではなく、訪れた人の日常に静かに寄り添う五島美術館のミュージアムショップ。展示を見ること。庭園の緑を眺めること。そしてショップでお気に入りの「思い出」を選ぶこと。それぞれが独立しているのではなく、ひとつの豊かな体験としてつながっているのだと感じます。
鑑賞を終えてミュージアムショップに立ち寄り手にとったミュージアムグッズは、慌ただしい日常に戻ったあなたをそっと癒やしてくれる「記憶の依り代」になってくれるはずです。
◆渋アート的視点◆
<大澤さん注目! ―あの名品をいつもそばに!>

今回の取材で特に心が躍ったのが、五島美術館が誇る名品たちを身近に楽しめる「写し(復製)」や「ミニチュア」のアイテムです。重要文化財《古伊賀水指 銘 破袋》もミニチュア(税込4,400円)に。ダイナミックなひび割れや歪み、力強い造形美で知られるあの「破袋」が、手のひらに収まるサイズ感で再現されています。

特設スペースには、収蔵品をモチーフにしたぐい呑みや湯のみ、意匠をあしらったデザイン小皿や小鉢などもずらりと並んでいました。どれも桐箱や丁寧な仕立てが施されており、単なるお土産にとどまらない、暮らしに寄り添う「本格的なうつわ」としての品格が漂っています。
*ご紹介した商品は品切れ、販売を終了する場合がございます。
(2026年7月訪問)
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<大澤夏美さん プロフィール>

大澤 夏美 <ミュージアムグッズ愛好家>
札幌市立大学デザイン学部在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作もミュージアムグッズがテーマ。 北海道大学大学院文学研究科(当時)に進学し、博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究し修士課程を修了。 会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を始める。 現在も「博物館体験」「博物館活動」の観点から、ミュージアムグッズの役割を広めている。
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