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2026.07.16 UP

施設の魅力

大澤夏美さんと巡る!
渋アート的ミュージアムグッズ―戸栗美術館―

展覧会の思い出やお気に入りの作品をおうちで楽しむことができる「ミュージアムグッズ」。文具や雑貨としてのかわいらしさもさることながら、それぞれの美術館・博物館ならではのこだわりや工夫がたくさんつまっているのも魅力のひとつです。

このシリーズでは、渋アート連携施設の「ミュージアムグッズ」への想いや熱意を、ミュージアムグッズ愛好家として活躍中の大澤夏美さんが取材。大澤さんならではの視点でその魅力に迫ります。

第2回は戸栗美術館。美術、考古、化学、そこに関わる歴史―「やきもの」が持つ、彩り豊かで奥深く、それでいて身近な魅力をもっと伝えたい!そんな思いが詰まったミュージアムグッズたちにはどんな秘話があるのでしょうか。

 


取材・文/大澤夏美
 

日常に「知るほど面白い」を!
戸栗美術館が手がけるディープなミュージアムグッズ

東京・渋谷の喧騒を抜け、高級住宅街が広がる松濤の地に佇む戸栗美術館。国内でも数少ない伊万里焼や鍋島焼などの東洋陶磁器を専門とする美術館です。今回取材していて印象的だったのは、スタッフの皆さんの「作品のバックグラウンドまで持って帰ってほしい」という熱い仕掛け。少人数ならではのスピード感で一丸となって生み出す、ユニークなミュージアムグッズの舞台裏を聞いてきました。

 

■「全員が中の人」だからこそ生まれるグッズ

「うちは少人数ならではというか、スタッフがみんな『中の人』になってミュージアムグッズを作っているんです」

ミュージアムショップのこだわりについてお話を伺うなかで、担当者の方がそう話してくださいました。同館のグッズ開発の現場は驚くほどフラット。上は60代から下は20代のアルバイトスタッフまで、全員が日常的に「最近こんな新しいものを見ました」「こういうアイテムが流行っているらしいです」と情報交換をしながら、何らかの形で制作に参加していると言います。

さらに印象的なのが、実際の形にする段階での学芸員とのキャッチボールです。「作品を選ぶならどちらがいいか」「このコンセプトならどの文様が相応しいか」を細かく検証し、デザインを抽出していきます。

ショップに並ぶ文房具などのオリジナルグッズ。和三盆の「虎と竹」や「葡萄とリス」といった組み合わせも、伊万里焼によく描かれる文様から選んでいます。

たとえば、オリジナルペーパークリップひとつをとっても、形やサイズの比率は決して適当ではありません。少しでも実物の作品のバランスとズレていると、「これは本物と違うよね」と声が上がる。プロが見ているからこそ、文様の組み合わせや数ミリの違いでも「実物とは違う」と指摘が入ることもあるそうです。こうした積み重ねが、戸栗美術館のミュージアムグッズに説得力を与えています。

意匠が特徴的な3種類のやきものの見込(うつわの内側の底部分)の文様が印刷されたペーパークリップ。そのまま飾ってもかわいい台紙も必見です。日常使いできるグッズにもこだわりがたくさん詰まっています。

 

■美大のテストに持ち込めないクリアファイルと、3,850円の完売劇

「ただの絵柄付き」からの脱却を目指した同館のミュージアムグッズは、どれも「学びの要素」が非常に強いのが特徴です。その最たる例が、裏面に詳細な作品解説を入れたオリジナルシールや、展示室の年表をそのまま落とし込んだ「古伊万里の変遷クリアファイル」です。このクリアファイル、担当者の方が「美大の日本陶磁史のテストには絶対に持ち込みできない、ガチガチのカンニングになっちゃう」と太鼓判を押すほど、専門知識に基づき製作されています。

古伊万里の変遷クリアファイルは、年代・技法・様式などが一目でわかる年表形式のデザインになっています。A4サイズなのでチラシを持ち帰るのにもぴったり。展覧会鑑賞の際に手元にあると便利なアイテムです。

 

また、釉薬や絵の具の成分にスポットを当てた2025年開催の「古伊万里カラーパレット―釉薬編―」「古伊万里カラーパレット―絵具編―」という展覧会に合わせて製作したオリジナルふせんのカバーには、やきもののケミカルな面白さを伝える豆知識を添えました。
「焼いてみないと発色がわからない絵の具を使い、職人たちが配合を変えてトライアンドエラーを繰り返した技術を知ってほしかった」と担当者の方は言います。

オリジナルふせんのカバー裏に載せた豆知識。科学の要素が入ってくるマニアックな内容ですが、思わず熟読してしまう面白さです。

 

驚くべきは、そのマニアックな展示に合わせてミュージアムショップに仕入れた専門書『やきものの科学』(定価3,850円(税込))が、出版社に在庫があるだけ並べた途端に、あっという間に完売してしまったことです。

「中身はほぼ科学の本ですよ。それでも『お客さまって本当にディープな方向へ振り幅があるんだな』とびっくりしました。普通なら置くのを躊躇するような専門書ですが、うちの館長は『いいよ、置いてみたら』とすぐに言ってくれる。そういう時のスピード感や懐の深さは、他館に比べても圧倒的だと思います」

と担当者の方も話していました。綺麗なものを見たい人は「綺麗だな」と眺め、深掘りしたい人はどこまでも深く潜っていける。戸栗美術館のミュージアムショップは、お客さんの知的好奇心の振り幅を信じ、それを受け止める懐の深さを持っています。

 

■やきもの史は「産業史」としても面白い

戸栗美術館でミュージアムグッズのお話を聞いていると、ミュージアムグッズを入り口にして、美術館の外の世界へも興味がどんどん広がっていきます。やきものは美術品であると同時に、「政治、産業、流通、経営」のドラマそのものであることがわかります。

「たとえば江戸幕府の徳川吉宗が倹約令を出せば、鍋島焼の色数は一気に少なくなる。政治の影響がものすごく分かりやすくて生々しいんです」

さらにその生産体制も徹底していたと言います。

中村公法(1955~)《染付 有田職人尽くし図 大皿》平成9年(1997) 高9.8㎝ 口径59.2㎝ 高台径35.0㎝
戸栗美術館の展示室には「やきもの」の工程が描かれた作品も展示されています。こんなにたくさんの工程があり、たくさんの人が働いていたとは!と驚くこと間違いなし。

 

「技術や秘密が外に漏れないように、腕のいい職人を引き抜いて、独立した別の場所に完全に囲い込んで作らせていた。決して一人親方が自由に作っているような世界ではなく、藩の管理下にあったんです」

一見、遠い歴史の向こう側にあるように思えるやきものの世界。しかし、スタッフの方が続けて語ってくださった「現代ビジネスに例えた解説」には、思わず膝を打ちました。

「登り窯をたくさん作って、圧倒的なコストパフォーマンスで凄まじい大量生産を行った産地は、今で言えば『地方に外国の巨大半導体工場が誘致された』みたいなダイナミズム。逆に、徹底したトップダウンのブランド管理で最高品質を維持し続けたのが鍋島焼、というイメージです」

美術ファンだけでなく、経営や流通に関わるビジネスパーソンが来ても絶対に面白いはず、と熱を込めるスタッフの方。ミュージアムショップにあるグッズや書籍は、まさに歴史のバックグラウンドへの入り口としても機能していました。

また、最近では海外からの来館者も増えており、日本語ばかりの書籍を「大丈夫、翻訳アプリを使って読むから」と熱心に楽しむ外国人の女の子もいたそうです。
「渋谷のスクランブル交差点で終わらず松濤まで足を伸ばしてくれる。本当に好きな方がこの美術館を見つけてくださるのが嬉しい」と語る担当者の方の姿が印象的でした。

ミュージアムショップの一角には、趣味で陶芸をされている方向けの実用書なども並びます。書店ではなかなか手に入れられない専門書に出会えることも。

 

■過去と現在のやきもの文化をつなぐ場所

「やきものは産業でもあり美術品でもある。私たちの生活の中にもある『器』だからこそ距離が近くて、そこが本当に面白いんです」

まさに生活に直結する「実用品」だからこそ、戸栗美術館では文房具だけでなく、展示が変わるごとに現代の作陶家の「一点物」の器をミュージアムショップに並べています。取材に伺った日も、伝統の技術を受け継ぐ現代作家の美しい作品が並んでいました。

「今でもその技術や美しさが続いているということを、ちゃんと手に取って、日常に持って帰ってほしい」という願いがあるからです。江戸時代の職人たちが重ねたトライアンドエラー。その息吹は、現代の作家たちにも確かに受け継がれ、私たちの日常の実用品として生き続けています。

展示ごとに作家が変わる一点物の作品などのやきものも販売。買いやすい価格帯のものから本格的なものまで、現代に生きる伝統の技術をそのまま日常へ持ち帰ることができます。

 

展示を見ること。ミュージアムグッズを選ぶこと。背景にある歴史やビジネスのダイナミズムを知ること。それぞれが別々ではなく、一つの体験としてつながっている。だからこそ、家に帰ってクリアファイルを使ったり、手に入れた器を眺めたりしたときに、展示の思い出とともに「知るほどに面白い」という知的な興奮が、いつでも一緒によみがえるのかもしれません。
 

◆渋アート的視点◆
<大澤さん注目! ―欲しくなっちゃう!書籍が人気>


やきもの好きの私は、展示室で「素敵……!」と最初から最後までときめきっぱなしでした。その熱量のままショップへ向かうと、店頭には展示内容をじっくり振り返ることができるお手頃な価格の図録が。鑑賞の思い出をそのままコンパクトに持ち帰ることができるのが嬉しい!


さらに一歩深く潜れる専門書との出会いがあるのも、戸栗美術館のミュージアムショップの大きな魅力。インタビューでも話題に上った『釉薬づくり入門』をはじめ、知的好奇心を刺激するディープな関連書籍が美しくディスプレイされており、私も思わず手を伸ばしてしまいました。

*ご紹介した商品は品切れ、販売を終了する場合がございます。
(2026年5月訪問)

 

☆戸栗美術館の最新の展覧会情報や魅力をもっと知りたい方はこちら

 

<大澤夏美さん プロフィール>

大澤 夏美 <ミュージアムグッズ愛好家>

札幌市立大学デザイン学部在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作もミュージアムグッズがテーマ。 北海道大学大学院文学研究科(当時)に進学し、博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究し修士課程を修了。 会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を始める。 現在も「博物館体験」「博物館活動」の観点から、ミュージアムグッズの役割を広めている。

ホームページ:百物気 momonoke ※外部サイトに遷移します

 

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