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2026.06.23 UP

施設の魅力

大澤夏美さんと巡る!
渋アート的ミュージアムグッズ―山種美術館―

展覧会の思い出やお気に入りの作品をおうちで楽しむことができる「ミュージアムグッズ」。文具や雑貨としてのかわいらしさもさることながら、それぞれの美術館・博物館ならではのこだわりや工夫がたくさんつまっているのも魅力のひとつです。

このシリーズでは、渋アート連携施設の「ミュージアムグッズ」への想いや熱意を、ミュージアムグッズ愛好家として活躍中の大澤夏美さんが取材。大澤さんならではの視点でその魅力に迫ります。

第1回は山種美術館。「美術館の中にある『もうひとつの美術館』」と位置付ける同館のミュージアムショップには、どんな想いの人々が集まり、どんな風に楽しんでいるのでしょうか。

 


取材・文/大澤夏美
 

日常に「もう一つの展示」を!
山種美術館が手がける現代のミュージアムグッズ

東京・広尾にある山種美術館。日本画専門の美術館として知られる同館には、ファンの間で人気のミュージアムショップがあります。今回取材していて印象的だったのは、ミュージアムショップがお土産を販売するだけの場所ではなかったこと。そこには、展示を見終わった後も作品との時間を楽しんでもらおうという工夫がたくさん詰まっていました。
来館者のライフスタイルが変わるなかで、人気になるミュージアムグッズも変わっています。最近はどんなアイテムが人気なのか、現場でお話を聞いてきました。

 

■「あの絵はがき、まだありますか?」ポストカードに宿る思い出

「展示を見て終わりではなく、ご来館いただいた体験を日常に持ち帰っていただきたいんです」

ミュージアムショップについてお話を伺うなかで、担当者の方がそう話してくださいました。展示に関連した図録やミュージアムグッズを通じて、作品への興味をさらに深めること。そして帰宅後も、作品や展示空間で過ごした時間をふと思い出してもらうこと。同館ではミュージアムショップを「もう一つの展示」と位置づけ、鑑賞体験の延長線上にある存在として捉えています。

それを象徴するのが、常時300〜400種類を揃えるポストカード。展示替えや季節に合わせて入れ替えを行っていますが、店頭に並んでいない作品でも在庫が残っていれば対応することがあるそうです。
「以前買ったあの絵はがきが欲しいんです」
そんな問い合わせも少なくなく、ストックから探し出して販売することもあるのだとか。

お気に入りの作品をもう一度手元に置きたい人。人からもらった絵はがきの美しさに惹かれて問い合わせる人。特定の作家のファンとして買い続ける人。話を聞いていると、ポストカードは単なる印刷物ではなく、作品との思い出をつなぐ存在になっているように感じました。

店頭に並んでいるだけでもその種類の豊富さに圧倒されるポストカードコーナー。出展作品には「出展中」のアイキャッチがついているので、さっき見た作品を見つけやすくなっています。

 

■A4よりA5?グッズにも表れる暮らしの変化

この5年間で、ミュージアムグッズを取り巻く環境も大きく変わったそうです。2020年頃にはマスキングテープやピンバッジなど、コレクション性の高いアイテムが人気でした。しかし最近は「日常の中で使いやすいもの」がよく動いているとのこと。

その代表例がクリアファイルです。以前は作品を大きく見られるA4サイズが人気でしたが、近年はA5サイズやマルチホルダーなど、コンパクトなサイズが好まれるようになっています。

理由を伺うと、なるほどと思いました。デジタル化による生活様式の変化で、若い世代を中心に紙の書類を持ち歩く機会が減り、「大きく保存する」よりも「普段使いしやすい」ことが重視されるようになっているそうです。確かに私自身も、A4書類を持ち歩く機会は以前より減った気がします。

もちろん、作品を大きめのサイズで楽しみたいというニーズは現在もあります。一方で、実用品としての使いやすさを重視する層に向けて、同館ではA5サイズ展開を積極的に展開しているとのことです。

ステーショナリーのラインナップは、A5サイズのクリアファイルやメモ、ふせんなど普段使いしやすいアイテムが揃い、お気に入りの作品をいつもそばに置いて使うことができます。

同じような変化は紙ものアイテムにも表れています。かつて定番だった一筆箋よりも、最近はブロックメモが人気なのだとか。山種美術館のブロックメモは、表紙と同じ絵柄が中のページにも印刷されています。書くスペースはしっかり確保しながらも、日本画らしい色彩や雰囲気を楽しめるのが魅力です。「ちょっとしたプレゼントに添えたい」と複数購入する方も多いそうで、ミュージアムグッズが鑑賞記念品から日用品へと変化していることが伝わってきました。

 

■「うさぎが好き!」から美術館へ?

ミュージアムグッズの面白いところは、美術館の外へもどんどん広がっていくことです。その象徴的な事例が、奥村土牛の作品「兎」が用いられたお茶缶でした。新聞で紹介されたことをきっかけに、掲載当日から問い合わせが殺到。店頭在庫はすぐに完売し、追加発注分も予約で埋まったと言います。

興味深いのは、その購入者の中には、美術館や展示内容を詳しく知らない人も少なくなかったことです。「うさぎのアイテムを集めている」という、いわゆる“うさぎ界隈”の人々に情報が届き、そこから購入へとつながっていきました。ここでは、美術の知識よりも先に、「好き」という感情が入口になっています。

思わず「かわいい!」と声が出てしまいそうな速水御舟の猫と奥村土牛の兎のブローチとタイタック。こうしてグッズになった動物たちを見ると、ちょっと敷居が高く感じる日本画も身近に感じられます。

同様の現象は、2024年開催の特別展「犬派?猫派?―俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで―」でも見られました。普段とは異なる若い世代が多く来館し、ミュージアムショップには長蛇の列ができたと言います。来館者は必ずしも作家名や歴史的背景を詳しく知っているわけではありません。しかし、「この猫ちゃん、ワンちゃんが可愛い」という直感からグッズを手に取り、そこから日本画へ興味を持っていく。ミュージアムショップは、作品理解の“入口”としても機能していたのです。

また、海外からの来館者が多いのも山種美術館の特徴。興味深いのは、グッズの「使い方」です。たとえば帯留めを販売した際、海外ゲストたちは、それをベルトのバックルのように使ったり、チェーンに通してネックレスとして身につけたりしていました。
「正しい使い方にこだわらず、それぞれの感覚で楽しんでくださる姿から、こちらも新しい発見をいただいています」
日本では和装小物として販売されているものが、別の文化圏ではアクセサリーとして親しまれる。ミュージアムグッズは文化を伝えるだけでなく、使う人によって新しい意味を持つのだなと感じました。

ミュージアムショップに並ぶ伝統的工芸品「房州うちわ」の前には英語の解説も。海外ゲストが多く来館する美術館ならではの光景です。

 

■ミュージアムショップもカフェも、みんなでつくる鑑賞体験

山種美術館では、ミュージアムショップだけが独立して存在しているわけではありません。
「ショップだけではなく、館全体で考えることを大切にしています」
担当者の方の言葉通り、商品開発では受付スタッフを含めた館全体で意見を出し合うこともあるそうです。

さらに、遠方に住む高齢のファンから「昔は通っていたが、今は来館が難しいので図録だけでも届けてほしい」といった相談があれば、電話対応を含め柔軟に配送を行うこともあります。こうしたお話を聞いていると、山種美術館にとってショップは単なる売場ではなく、来館者との関係をつなぎ続ける場所なのだと感じます。

その考え方は、併設された「Cafe 椿」にも通じています。人気の和菓子は、展覧会ごとに出品作品に描かれた自然や動物などをモチーフに、青山の老舗菓匠「菊家」に特別に依頼して制作されたオリジナルの生菓子。作品を見たあとに和菓子を味わうことで、展示の世界をもう少しだけ楽しむことができます。カフェだけの利用も可能なので、気軽に立ち寄れるのも嬉しいところです。

取材で伺った日は「川合玉堂―なつかしい日本の情景―」が開催中。展覧会オリジナル和菓子「雨きたる」は、川合玉堂《遠雷麦秋》に描かれた山や麦畑を再現。さっき展示室で見た絵画を思い出しながらいただきます。和菓子は2個からテイクアウトもできるので、おうちで楽しむのもおすすめ。

 

展示を見ること。カフェで過ごすこと。グッズを選ぶこと。それぞれが別々ではなく、一つの体験としてつながっている。だからこそ、家に帰ってポストカードを眺めたり、ブロックメモを使ったりしたときに、展示の思い出も一緒によみがえるのかもしれません。

◆渋アート的視点◆
<大澤さん注目! ―レジ前ディスプレイ>


レジ前のガラスケースには、陶芸家・畑井智和さんの作品が並びます。所蔵品や季節の草花、生き物などをモチーフにした食器やアクセサリーが販売されており、思わず足を止めて見入ってしまいました。


私はリンドウの花をモチーフにしたブローチを購入。有田の土を成形し、モチーフによって有田や九谷の上絵具を使い分けているそうです。展示を見終わった後も、こうした作品との出会いが待っているのもミュージアムショップの楽しみですね。

(2026年5月訪問)

 

☆山種美術館の最新の展覧会情報や魅力をもっと知りたい方はこちら

 

<大澤夏美さん プロフィール>

大澤 夏美 <ミュージアムグッズ愛好家>

札幌市立大学デザイン学部在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作もミュージアムグッズがテーマ。 北海道大学大学院文学研究科(当時)に進学し、博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究し修士課程を修了。 会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を始める。 現在も「博物館体験」「博物館活動」の観点から、ミュージアムグッズの役割を広めている。

ホームページ:百物気 momonoke ※外部サイトに遷移します

 

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