渋アート

知る・読む

2026.08.27 UP

施設の魅力

大澤夏美さんと巡る!
渋アート的ミュージアムグッズ―太田記念美術館―

展覧会の思い出やお気に入りの作品をおうちで楽しむことができる「ミュージアムグッズ」。文具や雑貨としてのかわいらしさもさることながら、それぞれの美術館・博物館ならではのこだわりや工夫がたくさんつまっているのも魅力のひとつです。

このシリーズでは、渋アート連携施設の「ミュージアムグッズ」への想いや熱意を、ミュージアムグッズ愛好家として活躍中の大澤夏美さんが取材。大澤さんならではの視点でその魅力に迫ります。

第3回は太田記念美術館。「美術館に行く動機の1つ」になるほどの魅力を持つ、同館のミュージアムグッズに込められた「作品への愛」と「楽しさ」の秘密を伺ってきました。

 


取材・文/大澤夏美
 

日常に「あふれるパッション」を!
太田記念美術館が手がける遊び心満載のミュージアムグッズ

東京・原宿駅から徒歩数分。トレンドの発信地のど真ん中にありながら、一歩足を踏み入れると静謐な空間が広がる太田記念美術館。浮世絵専門の美術館として国内外から多くのファンが訪れる同館ですが、実はSNS上では「ミュージアムグッズのセンスが抜群に尖っていて面白い」と注目を集める存在です。

今回、スタッフの方にお話を伺うと、ミュージアムグッズがヒットする背景には純粋で熱烈な「資料への思い入れ」がありました。

 

■ミュージアムグッズは「3つの動機」の1つ

取材日のグッズコーナーを眺めていると、ご年配の方から若い世代、そして海外からの旅行客まで、実に幅広い層の人々が、アクリルのピンバッジやマグネット、お土産用に配りやすいミュージアムグッズを楽しそうに選んでいました。

「浮世絵って、風景画から人物、動物、妖怪まで、本当にジャンルが幅広いカルチャーなんです。だから、ミュージアムグッズもいろんなタイプのものが作れる。妖怪や可愛い動物のグッズには若い世代が反応してくれますし、渋い風景画のデザインはご年配の方に楽しんでいただける。浮世絵というジャンルそのものが持っている懐の広さが、そのままバリエーションの豊かさになっているのかもしれません」
との担当者の方の言葉が印象的でした。

場所柄、海外からの来館者も非常に多いため、浮世絵を日本語と英語で分かりやすく解説した書籍も販売されています。実はこれも、現場でお客様に「浮世絵の概要がわかる本はないか」と聞かれたスタッフの方が、出版社に「絶対に必要なんです!」と言い続けて形にした、隠れたロングセラー商品です。

海外からの来館者も多い同館の書籍コーナー。日英対訳の基礎本をはじめ、知的好奇心を満たしてくれる充実のラインナップが本棚にずらりと並びます。

 

SNS上でも良い意味でひときわ目を引く、太田記念美術館のミュージアムグッズ。その発信が展覧会へお客様を呼び込む素敵なフックになっているのでは、と感じていた私に、スタッフの方はミュージアムグッズが持つ「広報」としての重要な役割を教えてくださいました。

「もちろん記念に買って帰ってもらうことも大事ですが、まずは何より展覧会に来てもらうことが一番。そのための動機として、ミュージアムグッズは大きな力を持っています。たとえば『この企画が見たい』『この作品が見たい』、そして『あのミュージアムグッズが欲しい』。そんな風に、行きたい動機が3つくらい重なると、お客様は実際に足を動かしてくださると思うんです」

作品そのものの魅力をSNSで伝えるには、時に時代背景などの解説やフックが必要になります。しかしミュージアムグッズであれば、ポンと画像1枚を投稿するだけで、その魅力がストレートに伝わり、拡散されやすいという強みがあります。「美術館に行く動機の1つになること」。それが、太田記念美術館が面白いミュージアムグッズを作り、発信し続ける原動力になっているようです。
 

■スタッフの「やいのやいの」から生まれるヒット作

では、そんなSNSを賑わせるアイデアは一体どこから生まれてくるのでしょうか。制作に関わるメンバーについて尋ねると、意外にも「全員です」という答えが返ってきました。

「少人数なので、公式な会議ではなく、ほぼすべて日頃の雑談のなかで決まっています。次の展覧会が『ミュージアムグッズを作れそうな企画だな』と分かると、始まる前からみんなで集まって『あれをアクスタにしたらどうだ』って、やいのやいの言い出すんです(笑)」

そんなフラットな雑談のなかから形になるミュージアムグッズですが、ヒットする商品には、誰か1人の「これが欲しい!」という猛烈なパッションが込められていることがあります。

過去には、3種類の絵柄でトートバッグを作った際、あえて「版画として売られなかった下絵段階の、誰も知らない鳥の絵(*)」をラインナップに入れたことがあったそうです。1人のスタッフが「どうしてもこれが欲しい!」と熱烈に推したそのバッグは、大方の予想を裏切り、3種類のなかで最も早い段階で完売してしまいました。

「誰かの強い思い入れや熱量は、不思議とお客様にもちゃんと伝わるんですよね」と笑うスタッフの方。作り手の嘘のないときめきが、お客様の心を動かす一番のスパイスになっているのです。

*太田記念美術館所蔵の三代歌川広重《円窓雑画》のこと。頭が鳥で体が人間の姿をした、洋装の鳥人間を描いた画稿。

 

壁にはオリジナルポスターやポストカード、夏に大人気のうちわが美しくディスプレイされています。こうして素敵に額装されているのを眺めているだけで、まるで自分の部屋に本物の浮世絵を飾っているかのような贅沢な気分を味わえます。

 

■他館との素敵な連携から、新しいチャレンジが生まれる

全国のミュージアムショップを巡っていると、時にその館のコレクションではない、他館のユニークなミュージアムグッズに出会うことがあります。太田記念美術館でも、同業者同士の「横の繋がり」と「フットワークの軽さ」を活かして、お互いのミュージアムショップを盛り上げる素敵な連携を行っています。

たとえば、以前に岐阜県の中山道広重美術館が、歌川広重の浮世絵内に登場する「おじさん」にスポットを当てたユニークなミュージアムグッズを制作した際、太田記念美術館のグッズコーナーで仕入れて販売したことがありました。そのなかに、おじさんの顔が敷き詰められた今治タオルの薄手タオルがあり、これが「おもしろくて使いやすい!」と非常に人気だったそうです。

中山道広重美術館の「広重おじさん手ぬぐい」を参考に、2026年に開催された展覧会「アニマル&モンスター かわいい・怖い・ちょっと変」に合わせて制作された「猫の蕎麦屋さん手ぬぐい」。こちらの商品も、発売してすぐに追加生産をかけたほどの大変な人気ぶりだったそう。

 

他館のアイデアを実際に自分たちのグッズコーナーで扱ってみることは、スタッフの皆さんにとっても大きな刺激や学びになっていると語ります。

「他館のミュージアムグッズからは、本当に勉強させてもらうことが多いんです。いま大人気のアクリルスタンドを初めて作ったときも同じで、世間で流行っているけれど、私たちの館のお客様に響くかどうか最初は手探りでした。でも、他の美術館の素敵なアクスタを1回お預かりして販売してみたら、驚くほど動いた。そこで初めて『あ、私たちのファンも求めてくれているんだ!』と確信して、自分たちでもオリジナルを作るようになりました」

他館の優れた事例に学び、グッズコーナーの現場でリアルな手応えを掴んでから、自館の新しいオリジナル制作へと繋げていく。作品を貸し出す際に「一緒にミュージアムグッズも出張する」といった、お互いをリスペクトし合う融通を利かせ合いながら、ファンの期待に応える新しいチャレンジへ次々と飛び出す工夫が、グッズコーナーの棚に活かされていました。

他館の事例をきっかけに開発され、今や主力商品となったオリジナルのアクリルスタンド。「蕎麦かぶり猫」「踊る猫又」「虎子石」といった個性豊かなキャラクターたちが、浮世絵の世界からそのまま飛び出してきたかのような愛らしさで、思わず全種類揃えたくなってしまいます。

 

■1人の「推し」が羽ばたいた!「虎子石」の大出世劇

同館の「1人のパッションが世界に届いた」最たる例が、いまや美術館の顔であり、公式SNSのアイコンにもなっている人気キャラクター「虎子石(とらこいし)」です。

元々は、ある学芸員が所蔵コレクションのなかから見つけてきたのがすべての始まりでした。しかし当初は、館内でもその魅力がなかなか浸透せず、その学芸員は1人で孤独な“推し活”を続けていたと言います。

「ロビー活動のようなものを地道に続けて(笑)、やっと最初にステッカーを作ったんです。そこから徐々に日の目を見始めて、最終的にはぬいぐるみとして立体化するまで登り詰めました」

そんなある日、海外からの旅行客のご夫婦が来館され、奥様がチケットを購入すると同時に「これ!」と虎子石のぬいぐるみを指名買いされたそうです。それを見た旦那様が「このクリーチャーは何だ!?」と驚いていると、奥様が「これは石に虎の手足がついていて……」と、どこで調べたのか完璧な解説を披露してくれた、という微笑ましいエピソードも明かしてくれました。

「説明が難しい謎の生き物ですが(笑)、『あそこであのぬいぐるみが買える』と目がけて来てくださる。1人の思い入れが、そこまで世界に浸透したんだなと本当に嬉しかったです」

「フェリシモミュージアム部」とのコラボレーションで誕生した、大人気の虎子石のぬいぐるみ。その愛らしいフォルムと学芸員の熱量がぎゅっと形になった、同館を代表するアイコン的ミュージアムグッズです。

 

会議室の数字からではなく、スタッフの「これが好き!」「この面白さを伝えたい!」という純粋なパッションからすべてが動き出す、太田記念美術館のミュージアムグッズたち。その嘘のない愛と楽しさが、海を越えて多くの人の心を動かし、今日も誰かの日常に“とびきりのときめき”を届けています。
 

 

◆渋アート的視点◆
<大澤さん注目! ―推しキャラ「踊る狐」グッズたち>

さらに、私個人として今回グッズコーナーで大興奮してしまったのが、もともと大ファンだった小原古邨の「踊る狐」のグッズたちです。
店頭に並ぶアクリルスタンドは高さ約8cm。大きすぎると可愛くないという懸念や、複数を並べて飾りたいファンの意見を反映させ、様々な世代の声の「間」を取って辿り着いた絶妙なサイズ感なのだそうです。そんな試行錯誤の舞台裏を知ると、目の前の狐がさらに愛おしく思えてきます。

 

また、ちょっとした心づけに便利なポチ袋も5種類展開されており、そのうちの1つにこの「踊る狐」がラインナップされています。展示室で作品にときめいた熱量のまま、日常にそっと忍ばせられるお気に入りを連れて帰るという、ミュージアムグッズならではの醍醐味を今回も全身で満喫できました。
*「踊る狐」のポチ袋は完売しました

*ご紹介した商品は品切れ、販売を終了する場合がございます。
(2026年5月訪問)

 

☆太田記念美術館の最新の展覧会情報や魅力をもっと知りたい方はこちら

 

<大澤夏美さん プロフィール>

大澤 夏美 <ミュージアムグッズ愛好家>

札幌市立大学デザイン学部在学中に博物館学に興味を持ち、卒業制作もミュージアムグッズがテーマ。 北海道大学大学院文学研究科(当時)に進学し、博物館経営論の観点からミュージアムグッズを研究し修士課程を修了。 会社員を経てミュージアムグッズ愛好家としての活動を始める。 現在も「博物館体験」「博物館活動」の観点から、ミュージアムグッズの役割を広めている。

ホームページ:百物気 momonoke ※外部サイトに遷移します

 

 \好評連載中/

大澤夏美さんと巡る!渋アート的ミュージアムグッズ―山種美術館―

大澤夏美さんと巡る!渋アート的ミュージアムグッズ―戸栗美術館―