山田和樹 マーラー・ツィクルス

MAHLER SYNPHONIES曲目紹介

マーラー:交響曲 第2番 ハ短調「復活」

文・山田治生

終楽章に合唱と独唱が入る長大な交響曲のアイデアは、もちろん、ベートーヴェンの「第九」交響曲から来たものに違いない。ベートーヴェンが「"苦悩"を経ての"歓喜"」なら、マーラーは「"死"を経ての"復活"」である。マーラーの交響曲第2番「復活」は、ベートーヴェンの「暗から明へ」のドラマトゥルギーをより徹底させたものと言っていいだろう。
 最初、マーラーは1888年に第1楽章だけを交響詩として作り、それを「葬礼」と名付けた。交響曲第1番「巨人」の英雄の葬礼を描くものだという。その後、マーラーはその交響詩を第1楽章として交響曲の作曲に取り掛かり、1894年に指揮者ハンス・フォン・ビューローの葬儀で耳にしたクロプシュトックの作詞による復活の合唱に衝撃を受け、その詩を自らの新しい交響曲の終楽章に用いた。そして、マーラーは、ベートーヴェンの「第九」に匹敵するような壮大で感動的な合唱付きの交響曲を完成させたのであった、

 第1楽章の冒頭から聴き手を震撼させる。ヴァイオリンとヴィオラの慟哭のようなトレモロ(刻み音)に続いて、チェロとコントラバスが衝撃的な第1主題を奏でる。第2主題は対照的にヴァイオリンが歌う優しく美しい旋律。

 第2楽章は、第1楽章と対照的な幸福な音楽。英雄が過ごした幸せなひとときを回想しているのだろう。楽章の後半で弦楽器のピッツィカート(弦をはじく奏法)だけで合奏される部分はギターかマンドリンの音楽のよう。

 第3楽章はスケルツォ的な性格の楽章。最初の部分は、彼の歌曲集「子供の不思議な角笛」の「魚に説教をするパドヴァの聖アントニウス」によっている。

 第4楽章は、アルト独唱の「小さな赤いばらよ」のつぶやきで始まる。歌曲集「子供の不思議な角笛」の「原光」に基づいている。「原光」とは、神が与えてくれたおおもとの光を意味する。金管楽器のアンサンブル、ヴァイオリンの独奏などが印象的である。

 第5楽章は、30分を超える長大な楽章。破滅的な大音響のあと、舞台裏のホルンが最後の審判を告げる。木管楽器が「怒りの日」に基づく動機。フル・オーケストラの怒涛のような音楽が静まると、再び舞台裏からホルンが聞こえ、今度はトランペットや打楽器も加わる。そこにフルートとピッコロが天上の鳥のように歌う。そして遂に最弱音で合唱が登場する。ソプラノ独唱とアルト独唱の息詰まる絡みを経て、頂点に向かう。最後は、合唱に独唱者も加わり、オルガンも入って、壮大なクライマックスが築かれる。「蘇るであろう。そう、お前は蘇るであろう。瞬く間に、わが心よ!」。

 大編成による長大な交響曲だけに見どころは満載だ。指揮者が合唱を立たせるタイミングは見どころだし、弦楽器のピッツィカートの合奏シーン(第2楽章)、管楽器のベルアップ、舞台裏のバンダ(金管楽器・打楽器の別働隊)の扱い、オルガンの参加などなども注目である。
 マーラーの交響曲第2番「復活」の最大の魅力は、頂点への長い道のりとクライマックスの壮大さにある。この点においては、マーラーは、ベートーヴェンの「第九」以上のものを作り上げることができたと言ってよいだろう。
 山田和樹が絶対的な信頼を寄せる日本フィル、東京混声合唱団、武蔵野合唱団とともにどんなにスケールが大きく感動的なクライマックスを築きあげるのか、想像しただけでも鳥肌が立ちそうになる。