2024.11.13 UP
文化が薫るまち歩き-渋谷区立松濤美術館編-〈神泉・駒場エリア〉
東京・渋谷の住宅街の中に建ち、幅広い分野や時代にわたる展覧会を開催している渋谷区立松濤美術館。その近隣エリアで美術館から徒歩圏内にある神泉・駒場は、都心でありながら渋谷の繁華街と比べて落ち着いた雰囲気が漂い、美術鑑賞の前後に足を伸ばして“和”と親しむことができるスポットもあります。その中から、おすすめの「渋い」スポットをご紹介します。
\ 渋谷区立松濤美術館の魅力に渋アート視点で迫る! /
「渋アートと巡る ── 渋谷区立松濤美術館」 はこちら>
■ 芸者階段/弘法湯石碑
円山町花街の歴史と風情を伝える貴重な史跡
左)弘法湯跡に残る石碑。正面に「弘法大師 右神泉湯道」と刻まれています。
右)階段の段差が緩やかな芸者階段。かつては芸者さんが多く行き来していたそうです。
坂が多い街として有名な渋谷は起伏に富んだ地形が広がり、かつては円山町の神泉駅付近にも神泉谷という谷がありました。ここに湧き出る泉を利用して弘法大師の弟子が共同浴場を築いたという言い伝えがあり、その由来から「弘法湯」と呼ばれるようになりました。そして明治時代には弘法湯の近隣に料亭「神泉館」が開業し、それが円山町花街誕生の礎となったのです。弘法湯は1976年に惜しまれつつ閉店しましたが、跡地には1886年建立の石碑が残り、今もひっそりと歴史を伝えています(※)。
また、こうした高低差がある地形の影響で、円山町はあちこちの路地に階段が設けられています。そのうち神泉駅東南側の谷から高台へと上る階段は、全盛期に400人以上いたという円山町の芸者さんが着物を着て下駄を履いていても歩きやすいよう、段差を低くして造られました。この階段は芸者階段(または女坂)と呼ばれています。目をつぶると、芸者さんが下駄を鳴らしながら登っていく光景がまぶたに浮かんできそうです。
※弘法湯はこちらのコラムでもご紹介しています。併せてご覧ください。
【コラム】「渋い」をたしなむ~賑わう渋谷から少し離れた先には──円山町・花街~
■ 旧前田家本邸洋館
クラシカルな“東洋一の大邸宅”で昭和貴族の暮らしを体感できる
洋館の正面。イギリスのウィンザー城などの建築様式として有名なチューダー様式を採用していて、玄関の扁平アーチや尖塔にその特徴が表れています。(画像提供:東京都教育委員会)
松濤美術館の西側に広がる駒場エリアは、江戸時代には将軍家が鷹狩りを楽しみ、明治時代以降は文教地区として発展しました。松濤美術館から環状六号線(山手通り)を北上し、東京大学駒場キャンパスの北側を西へ進んだ先に、“自然と文学のオアシス”駒場公園があります。ここは、旧加賀藩の大大名・前田家の16代当主でもある前田利為侯爵が駒場本邸を構えた跡地です。松や欅などの木々が生い茂る自然豊かな環境の中に、洋館が1929年に、和館が1930年にそれぞれ建てられ、いずれも良好な状態で建築当時のまま保存されています。
立派な石造りの公園正門を通り抜け、木の間に隠れるように建つ純日本風の和館からさらに奥へ進んだ先に見えるのが、イギリスのカントリーハウスを思わせる赤レンガ張りの洋館です。1階には大食堂や客室など来客をもてなす空間が、2階には家族の居室や寝室などのプライベート空間が広がっています。当時「東洋一の大邸宅」と言われただけあって部屋数の多さにビックリしますが、暖炉やシャンデリアが建築当時のまま残されていて、そのスケールとクラシカルさに見入ってしまいます。昭和初期の華族の華麗なる暮らしに思いを馳せてはいかがでしょうか。
左)1階の大客室と小客室はつづき間になっていて、用途に応じて引戸で仕切ることができます。
右)邸宅の中で一番格式が高い1階の大食堂。かつては晩餐会が開かれ、最大26人まで食事できたそうです。
(画像提供:東京都教育委員会)
左)大階段を上がった先に広がる2階の階段広間。ステンドグラスがはめられた採光窓や階段手すりなどの装飾も目を惹きつけられます。
右)2階の夫人室。紫色の壁や絨毯が特徴的で、建物の部屋の中でも特に華麗な印象を受けます。
(画像提供:東京都教育委員会)
■ BUNDAN COFFEE & BEER
書斎のようなブックカフェで近代文学の世界にタイムスリップ
緑豊かな駒場公園内の一角に建つ日本近代文学館には、館内に収蔵されている貴重な資料のほかにも、文学愛好家を惹きつけてやまないスポットがあります。それは1階にお店を構えるブックカフェ「BUNDAN COFFEE & BEER」です。静寂に包まれた店内に足を踏み入れてすぐに目を奪われるのが、天井まで届く壁沿いの本棚に約2万冊もの書籍がぎっしりと並んでいる光景(どの本も閲覧可能)。さらに味のあるアンティーク家具が落ち着いた雰囲気を醸し出し、まるで文豪の書斎に訪れたような気分に。天気の良い日は開放感たっぷりのテラス席も気持ちよさそうです。
さらにこのお店で注目したいのはメニュー。芥川龍之介をはじめ近代文学作家の名前がついたドリンクや、文学作品をテーマにしたフードが並び、メニュー表を読むだけでも楽しく、決めるのに迷ってしまいます。読んだことのある作家や作品にちなんだメニューを選ぶのもよし、選んだメニューのテーマとなっている作品を読むきっかけとするのもよし。文学の世界にゆったりと身を委ねられる空間で、秋の読書にぴったりな本との出会いがあるといいですね。
レモンジュレにバニラアイスやクリーム、ミントを添えたパフェ。どの作品をモチーフにしているかは、お店に行った人だけのお楽しみ。
■ うつわPARTY
毎日の食卓が楽しくなる味わい深い器と出会える場所
京王電鉄井の頭線の線路を挟んで駒場公園と反対側の住宅街を歩いていると、民家の1階にお店を構えた「うつわPARTY」が見えます。こちらは、器を愛するオーナーの坂根さんが約30年前に開業したショップ兼ギャラリーで、地元だけでなく遠方からも多くの方々が足を運んでいます。
落ち着いた空間の店内には、「普段使いできて日常に馴染む器が好き」という坂根さんがセレクトした作家ものの器が、趣のある棚やテーブルにセンス良く並んでいます。磁器や陶器など和テイストを基調とした器は、いずれも落ち着いた風合いと手仕事ならではの繊細な美しさを備えています。食卓に取り入れたら、いつもの食事が特別な時間になりそう。また、坂根さんが惚れこんだ作家の個展や企画展も定期的に開催していて、店内の器は展示会ごとに入れ替わります。お店を訪れるたびに新しい器と出会えそうで、何度でも足を運びたくなりますね。
左)お店は白を基調にしたシンプルな外観。
右)訪れた当日は清水なお子さんの個展が開催中で、優しく愛らしい絵付けの器の数々が取り揃えられていました。テーブルに飾られた生花がその温かさをより引き立てていました。
■ うつわとカフェ Lim.
駒場東大前駅西口から歩いてすぐの場所にあるギャラリーカフェ。素敵な器に淹れた日本茶やデザートを味わいながら、展示・販売されている作家の器を手に取って楽しむこともできます。外からの光が優しく差し込む空間の心地よさも格別で、時間が経つのを忘れてしまいそうです。
★渋谷区立松濤美術館から徒歩約16分
■ 駒場バラの小径・花壇
明治のバラ愛好家たちも通った「駒場ばら園」ゆかりの花を愛する心を守り繋ぐ
東大正門の右手に伸びる歩道に沿って設けられた「駒場バラの小径」。フェンスやオベリスクのつるバラとブッシュ等約50種のバラや草花が楽しめます。
駒場には1911年に開業した日本最古のバラ園の1つ「駒場ばら園」があります。2005年に園域が縮小された際、その縮小を惜しんだ人たちが駒場地区内に栽培地を求め、同園のバラ苗を移植。その維持・育成と愛好家の交流を目的に駒場バラ会が設立し、100人余りの会員が活動しています。
駒場バラ会がバラを栽培・管理しているのは、東京大学駒場キャンパス内の「駒場バラの小径」、区立駒場公園旧前田家本邸洋館前、そして区立駒場野公園拡張部の花壇など。会員の皆さんのお手入れにより春と秋には色とりどりのバラ約130本が各所で開花。凛と華やかなハイブリッドティーやふわりと咲くオールドローズなどが地元の方々の目を楽しませています。いずれの花壇も歩いてめぐることのできる範囲なので、閑静な駒場に点在するバラのスポットも巡ってみてはいかがでしょうか?
左)駒場公園内洋館前に植えられたバラ。洋館の瀟洒なたたずまいに華やかな彩りを加えています。
右)2008年に開園した駒場野公園拡張部の花壇は、ダーシー・バッセルなどイングリッシュ・ローズが中心で、無農薬で栽培しています。
※駒場バラ会では一緒にバラを育てる会員を募集しています。興味のある方はこちらのブログをご覧ください。
『駒場バラ会咲く咲く日誌』https://komabarose.exblog.jp/7306460/
渋谷繁華街からアクセスできるエリアにありながら、歴史があって街の雰囲気も落ち着いている神泉・駒場は、日本文化をぶらっと気軽に楽しむのにうってつけのエリアだということが実感できました。街のあちこちに息づく文化と歴史に思いを馳せながら、心豊かなひと時を過ごしてみてはいかがでしょう。
\ 今回のまち歩きスポットはこちら /
■■スポット情報■■
*それぞれ外部サイトに遷移します*
芸者階段〈渋谷区立松濤美術館から徒歩7分〉
東京都渋谷区円山町19 ほか
弘法湯石碑〈渋谷区立松濤美術館から徒歩7分〉
東京都渋谷区円山町23-4
旧前田家本邸洋館〈渋谷区立松濤美術館から徒歩20分〉
東京都目黒区駒場4-3-55
TEL:03-3466-5150
[営業時間] 9:00~16:00
[定休日] 月曜・火曜(祝日の場合は開館)、年末年始(12/29~1/3)
https://www.syougai.metro.tokyo.lg.jp/sesaku/maedatei.html
BUNDAN COFFEE & BEER〈渋谷区立松濤美術館から徒歩20分〉
東京都目黒区駒場4-3-55(日本近代文学館内)
TEL:03-6407-0554
[営業時間] 9:30~16:20
[定休日] 日曜・月曜・第4木曜(文学館に準拠)
http://bundan.net/
うつわPARTY〈渋谷区立松濤美術館から徒歩15分〉
東京都目黒区駒場2-9-2
TEL:03-3467-6830
[営業時間] 12:00~18:00(展示会最終日のみ17:00まで)
[定休日] 不定休(営業日はHPのカレンダーを参照)
http://utsuwa-party.com/
駒場バラ会管理地の花壇・小径
・駒場バラの小径(東京大学駒場キャンパス正門横)
東京都目黒区駒場3-9
・旧前田家本邸洋館前
東京都目黒区駒場4-3-55
・駒場野公園 拡張部花壇
東京都目黒区駒場2-17
https://komababarakai.com/management/adress/adress.html
*2024年10月現在の情報です。
*営業時間・定休日が急遽変更になる可能性もあります。各HP等でご確認の上、お出かけください。
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