大野和士インタビュー
『ドン・ジョヴァンニ』の見どころ
〜マクヴィカーの演出の魅力〜
モーツァルトのオペラをみごとに演出するデイヴィッド・マクヴィカーの魅力や、大野独自の『ドン・ジョヴァンニ』の解釈について語っていただきました。

 ちょっと気が早いが、2006年はモーツァルトが生まれてから250年の記念すべき年。改めてモーツァルトの音楽の命の長さを実感する。それに先立って、2005年10月に、ヨーロッパで最も注目を集めるベルギー王立歌劇場の初来日公演で、彼の生涯の最高傑作、オペラ『ドン・ジョヴァンニ』が上演される。指揮は日本を代表する指揮者に成長した大野和士、そして演出にはイギリス出身で、いまやヨーロッパを席巻する勢いのデイヴィッド・マクヴィカー、タイトルロールのドン・ジョヴァンニ役には、この役を歌わせたら3本の指に入ると称賛されるサイモン・キーンリィサイドが登場。最強トリオによる公演が実現する。
 「モーツァルトの音楽性、そして人生経験のすべてが注ぎ込まれたオペラ、それが『ドン・ジョヴァンニ』です」とマエストロ・大野は語る。
 「モーツァルトは小さい頃からヨーロッパ各地を旅して、当時の最新の音楽を学んで来ました。『ドン・ジョヴァンニ』にはそれがすべて活かされている。モーツァルトのちょっと前の時代のバロック音楽の要素もあり、また第2幕で歌われるカンツォネッタのようにヴェネツィアの音楽も取り入れられている。でも、第2幕では、さらに時代を先取りし、時間を越えて、ロマン派的な内面的な音楽も書いています。『ドン・ジョヴァンニ』はモーツァルトの天才が細部にまで表現された傑作なのです」
 そのオペラのすべてを「記憶して歌える」演出家マクヴィカーによる舞台は、シンプルだが、暗く重厚感にあふれている。真っ暗な舞台に序曲が鳴り響く。次第に明るくなると、嵐を予感させるような舞台奥のホリゾントが目に入る。舞台上には何もなく、そこにレポレロが現れて、ドラマが始まる。移動式のセットで、音楽の流れに従い、舞台はよどみなく進んで行く。そして、いつしか主人公であるドン・ジョヴァンニのまぶしいまでの生命力とエネルギーが、つむじ風のように他のキャラクターたちを巻き込んで行く。
 一味違ったドン・ジョヴァンニの「地獄落ち」のシーンは、マクヴィカー演出のポイントと言えるだろう(詳細は上演で!)。彼をめぐるドンナ・アンナ、ドンナ・エルヴィーラ、ツェルリーナの3人の女性たちも、実に丁寧な心理描写で描かれており、三者三様の恋心はとてもリアルな情感を醸し出す。マッチョな雰囲気を漂わせるキーンリィサイドのドン・ジョヴァンニは、その声といい、存在感といい、さすがの一言。
 モーツァルトのオペラは彼の生前は大成功という訳にはいかなかった。しかし、その素晴らしさは21世紀でも光り輝いている。ベルギー王立歌劇場の『ドン・ジョヴァンニ』は天才アマデウスの魅力を再発見する扉となるだろう。


text by 片桐卓也
© Johan Jacobs


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