2026.04.07 UP
時を超えて人々を魅了する『工芸品』に出会う―4月の展覧会紹介
職人の手仕事や高度な技術を用いて作られ、実用性と美しさを兼ね備えた日用品や装飾品のことを『工芸品』と呼びます。鑑賞用として制作された絵画とは異なり、あくまでも使うために作られながらも、その装飾性の高さや機能美からしばしば鑑賞用としてコレクションされ、多くの人々の目を楽しませてきました。そんな『工芸品』の中から、テキスタイルやジュエリーがメインを飾る展覧会が4月、2つの美術館で同時期に開催されます。

■江戸から続く日本文化「アンティーク・テキスタイルのコレクション」―五島美術館

五島美術館
館蔵 春の優品展 名品を彩るアンティーク・テキスタイル
2026年4月7日(火)~5月10日(日)
鎌倉時代から室町時代にかけて舶来した金襴(きんらん)、緞子(どんす)などの上質な絹織物は、権力者の装いや絵画の表装、茶道具を包む仕覆(しふく)などに用いられ、江戸時代になるとそれぞれに固有名詞をつけられて「名物裂(めいぶつぎれ)」として鑑賞されるようになりました。また江戸時代に本格的に舶来したインド更紗(さらさ)は、その鮮やかな染織技術と異国柄の珍しさが日本人の心をつかみ、さまざまな衣服やおしゃれアイテムの包み布にも用いられました。

更紗手鑑 五島美術館蔵(渋谷玉恵氏寄贈) 〈部分〉

重要美術品 唐物文琳茶入 銘 本能寺(南宋時代・13世紀)・仕覆 五島美術館蔵

過去現在絵因果経断簡(益田家本) 耶舎長者出家願図 奈良時代・8世紀 五島美術館蔵
そんな名物裂や更紗の端切れをアルバムのような折帖に仕立てた『手鑑(てかがみ)』をはじめ、古筆や茶道具の名品とともに表具裂や仕覆、袱紗、包み裂、袋物などが展示される本展覧会では、風流人たちが蒐集したアンティーク・テキスタイルの数々を見ることができます。2026年3月に開催された太田記念美術館の展覧会『表装 ―肉筆浮世絵を彩る』で「表装」の魅力を知った方にもおすすめです。
江戸時代の茶道具を彩り、風流人たちを魅了したアンティーク・テキスタイルの世界を体感してみてはいかがでしょうか。
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■シルクロードの国々で受け継がれる繊細で華麗な装い―渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館
中央アジアの手仕事 ―華麗なる刺繍とジュエリー 広島県立美術館コレクションより―
2026年4月11日(土)~6月14日(日)
アジアからヨーロッパを結ぶシルクロードには、2000年以上の歴史があります。絹をはじめとする物産を運ぶ交易路としてだけでなく、人々の文化や宗教が出会う文明の道でもありました。日本もまた、仏教伝来とともにシルクロードから大きな影響を受け、自分たちの文化の中に取り込んできました。
そのシルクロード上に位置する中央アジア諸国のうち、現在のウズベキスタンやトルクメニスタンという国を中心に居住する民族のことを、それぞれ「ウズベク」と「トルクメン」と呼びます。この展覧会では、国内随一のウズベクとトルクメンの染織およびジュエリーコレクションを誇る広島県立美術館所蔵品より、中央アジアで花開いた多彩な工芸品が展示されます。

《刺繍布(スザニ)》19世紀後半 広島県立美術館蔵

《首胸飾り(ブカウ)》北ヨムート族またはテケ族、トルクメン人 18世紀 広島県立美術館蔵

《女性用刺繍靴》エルサリ族、トルクメン人 20世紀 広島県立美術館蔵
本展の第1章で紹介される『スザニ』と呼ばれる大型の刺繍布は、中央アジアの主にウズベク人やタジク人の女性たちによって制作されました。かつては、婚礼の際にスザニを持参する習わしがあったため、女子は幼い頃からスザニの準備をしたそうです。第2章では、トルクメンのお守りであり財産でもある多種多様なジュエリーと、緻密な刺繍が印象的な民族衣装を、第3章では中央アジアの人々によって育まれた「用の美」を華やかな手わざに見ることができるそう。2026年3月にBunkamuraザ・ミュージアムで開催された『高木由利子 写真展 Threads of Beauty 1995‐2025 ― 時をまとい、風をまとう。』で「生活の中に息づく衣装」に心惹かれた方にもおすすめです。
中央アジアの人々が伝統的な生活の中で受け継ぎ育んできた、繊細かつ華麗な手仕事に酔いしれるひと時をどうぞお楽しみに。
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今回ご紹介した二つの展覧会で扱われる「ぬの」はそれぞれ別の土地に歴史を持ち、技法も大きく異なりますが、色や柄をとってみると、どことなく似ている部分があるようにも感じられます。同じ「アジア」にあり、シルクロードを中心とした交易の中でお互いに影響を受けながら、受け継がれ発展していったさまざまな「ぬの」を紹介する展覧会が、同時期に開催されるまたとない機会。その魅力を、ぜひ2つの美術館で見比べてみてください。
◆ ◇ 渋アートスタッフ おすすめルート ◇ ◆
ちょっとエリアが離れている五島美術館と松濤美術館ですが、1日で2館の『工芸品』を満喫したいあなたに、よく2館におじゃまする渋アートスタッフおすすめのルートをご紹介します。
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五島美術館 ⇒⇒⇒
⇒展覧会鑑賞後、庭園を散策しながら春山荘門(出口)へ⇒
⇒二子玉川駅まで徒歩約10分⇒
**二子玉川駅前のレストランやカフェでひと休み**
⇒東急田園都市線渋谷方面の最後尾(10両目)に乗車⇒
⇒渋谷駅まで各駅停車で乗車時間約15分⇒
⇒渋谷駅A2出口を出て徒歩約15分⇒
⇒⇒⇒渋谷区立松濤美術館
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五島美術館での鑑賞を開館時間すぐからスタートすると、ランチの時間も取りながら半日で2館を回ることができます。五島美術館の庭園も街路樹の緑も美しくなる歩きやすい季節です。展覧会と一緒にまち歩きも楽しんでくださいね。
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