2026.10.16 UP
今さら聞けない渋アート―戸栗美術館編―

美術館・博物館に何度か足を運んでいるけれど、実は施設や展示について詳しくは知らない…。
そんな「今さら聞けないこと」を、渋アートスタッフが連携施設のみなさんにインタビューし、各館の魅力を再発見するシリーズです。
今回訪れたのは、日本でも数少ない、東洋陶磁器を専門とする美術館である戸栗美術館。
数千点にのぼるコレクションは、日本の肥前磁器や中国・朝鮮の東洋陶磁など、生活のなかで親しまれてきたやきものが中心で、ユニークな切り口の展覧会が開催されています。
初めての方も楽しめるやきものの見方や、美術館で本物の作品を見る魅力について、学芸員の小西麻美さんにお話を伺いました。
*戸栗美術館については、こちらの記事でも紹介しています。
渋アートと巡る ── 戸栗美術館
素材と絵具の違いを解説!すぐに実践できる見分け方
渋アート
やきものの楽しみ方が分かったところで、基本的な知識についても教えていただきたいです。展覧会のキャプションで、「陶磁器」という言葉を見かけたのですが、どんなものを指すのでしょうか?
小西さん
陶磁器とはやきものの総称で、陶器と磁器を表しています。私たちが普段使っている茶碗なども、ほとんどは陶器か磁器です。
このふたつの違いは、触ってみるとよく分かります。陶器は粘土でできているので、温かみを感じますが、磁器の原料は陶石なので冷たく感じます。
また、光が透けて見えるかという点も、大きな特徴です。陶器は光を通しませんが、磁器に懐中電灯を当てると…。

磁器に懐中電灯で光を当てている様子。透光性があるため、ランプシェードなどにも使われているそうです。
渋アート
光が透けて見えますね!
小西さん
磁器はガラス化しているため、透光性があって、叩いてみるとガラスのコップのような高い音がします。いっぽう、陶器は原料が粘土なので、光を通しません。叩くと鈍くて低い音がします。
渋アート
ほかにも、陶器と磁器を見分ける方法はありますか?
小西さん
やきものには、釉薬が掛かっていない素地(粘土などやきものの素材)が分かる箇所があります。多くの場合、畳付と呼ばれる底面の部分を確認すると、感触の違いによって、陶器と磁器どちらなのかを判断できます。

釉薬とは、陶磁器の表面をコーティングするガラス質の膜のこと。黄色で囲った底の部分が畳付と呼ばれる部分です。触ると、磁器(左)はツルツルした感触で、陶器(右)はザラザラしていました。
小西さん
ご自宅にあるやきものを触って、ぜひ楽しんでみてください。
また、年に1回行っている「古伊万里入門解説」では、陶片を手に取っていただけるコーナーもご用意しています。実際に触ると、やきものへの理解がより一層深まりますよ。

陶磁器が生産された遺跡や窯跡などから採取した陶片。「古伊万里入門解説」で実際に触れるものもあります。次回の「古伊万里入門解説」は、2026年11月21日(土)開催予定です。
渋アート
やきものに触ると違いが分かるのは、面白いですね。もうひとつ気になったのが、作品に描かれた絵や模様の色彩です。青一色の場合もあれば、カラフルなものもありますが、どのような違いがあるのでしょうか?
小西さん
伊万里焼の絵付け技法には、大きく分けて染付と色絵という2種類があります。

左)染付 葉文 葉形皿 伊万里 江戸時代(17世紀中期)口径 15.3×11.7cm 戸栗美術館収蔵
右)色絵 葉文 葉形皿 伊万里(古九谷様式) 江戸時代(17世紀中期)口径15.2×13.0cm 戸栗美術館収蔵
同じ形で、染付で装飾した例と、染付+色絵で装飾した例です。
小西さん
染付は、白地に青い文様を表す技法で、呉須絵具で絵付けをした後に、釉薬をかけて高温焼成しています。釉薬の下に文様が描かれているので、表面はツルツルしており、擦っても絵具が落ちることはありません。
いっぽう、色絵は、赤や黄、緑、紫、青など色数が多いのが特徴です。釉薬をかけた後に上絵具で描き、文様を低温で焼き付けています。釉薬の上に絵付けをするため、長年使用していたり強く擦ったりすると色が剥げてしまうこともあります。
染付は本焼きと呼ばれる高温焼成までの工程で完成するのに対し、色絵はさらに絵付けと焼き付けの工程が発生します。染付よりも手間もコストもかかっています。
*呉須絵具:酸化コバルトによって青色に発色する下絵具
*上絵具:釉表面に文様を描くのに用いる絵具

銹釉染付 双鶴文 輪花皿 伊万里 江戸時代(17世紀中期) 口径14.0㎝ 戸栗美術館収蔵
磁器の特徴は素地の白さですが、それを銹色の釉薬で覆い、敢えて陶器風に仕上げた創意工夫溢れる作例もあります。(小西さん)
本作品は『めぐってたのしい 佐賀・長崎のやきもの展』(2026年10月7日(水)~12月20日(日))にて展示。

色絵 女郎花文 木瓜形皿 伊万里(柿右衛門様式) 江戸時代(17世紀後半) 口径21.1×18.8㎝ 戸栗美術館収蔵
表面は女郎花文や竹梅文をカラフルな色絵で表現。一方裏面は染付の青一色で花鳥文を描いています。表と裏、全方位楽しめるのもやきものの魅力の一つです。(小西さん)
本作品は『めぐってたのしい 佐賀・長崎のやきもの展』(2026年10月7日(水)~12月20日(日))にて展示。

白磁 桔梗亀甲文 猪口 伊万里 江戸時代(17世紀後半) 高6.5㎝ 戸栗美術館収蔵
一見すると轆轤(ろくろ)で作っているように見えますが、実は型に押し当てて作ったパーツを組み立てています。表面の凹凸文様や、成形時の繋ぎ目などは実物でないと見えない部分です。(小西さん)
本作品は『めぐってたのしい 佐賀・長崎のやきもの展』(2026年10月7日(水)~12月20日(日))にて展示。
渋アート
やきものとひとことで言っても、着彩や成形の技法によって、多種多様なうつわが生み出されるのですね。制作の過程やこだわりポイントをお聞きして、一点一点の作品をじっくり見たくなりました。
美術館でやきものを味わってみよう!本物を見る魅力
渋アート
今回、展覧会に足を運んでみて、写真と実際に作品を見るのとでは、まったく印象が異なると感じました。
小西さん
そうですね。先ほど絵付けについてお話ししましたが、筆運びや色絵の絵具が盛り上がっている様子は、美術館で本物を鑑賞するからこそ感じられる魅力だと思います。 作品のサイズも、何センチと数字から想像するよりも、実物を前にして「手に取ったらどれくらいの大きさかな」とイメージするほうが、分かりやすいですよね。
『酒がおいしい古伊万里展』では、酒杯の口径のサイズを比べて、「あなたがちょうど良いと感じる大きさはどれですか?」と問いかけるコーナーを作りました。

『酒がおいしい古伊万里展』展示室より
渋アート
「どれが自分の手になじむかな?」という視点で鑑賞するのは、面白そうですね!
小西さん
使うところを想像する時に、うつわのボディに使われている土や釉薬の質感もヒントになると思います。ツルツルしているものが好みなのか、素地が感じられるものが良いのかなど、見るだけでも触った時の心地よさが感じられるはずです。
また、古伊万里はすべて手作業で作られているので、当時の職人たちの成形や絵付けの技術を間近で体感していただきたいですね。
渋アート
作品を目の前にすると、自分が使うところを想像したり、職人の技術を観察したりと、楽しみ方が広がりますね。
小西さん
やきものは、古代から親しまれていましたが、現代まで受け継がれて、人々の生活に溶け込んでいるところが大きな魅力だと感じています。アートが好きな方々にも、ぜひやきものを味わっていただきたいです。
「きちんと鑑賞しなきゃ」と身構えずに、お気軽に足を運んでいただき、さまざまな切り口から楽しんでいただけたら嬉しいです。
戸栗美術館を訪れると、やきものが「高尚な美術品」というイメージから、身近なものに変わっていくはず。鑑賞のポイントを分かりやすく解説したキャプションが用意されていたり、無料で参加できる「古伊万里入門解説」が開かれたりと、初めての方も親しみやすい美術館です。あなたのお気に入りの作品を見つけてみてくださいね。
渋アート的視点
やきものに興味がわいた時に、基礎知識を学んだり、作品の見どころを調べたりできるおすすめのコンテンツをご紹介します。
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解説イベントに参加する
年に1回行われる「古伊万里入門解説」では、伊万里焼を中心とするやきものの基礎知識を、学芸員さんにレクチャーしてもらえます。 参加費は無料で、初めて戸栗美術館を訪れる方や、やきものの基本を学びたい方におすすめです。 また、企画展ごとに、展示解説も開催されています。事前予約なし・入館料のみで、どなたでも参加可能で、出品作の見どころを聞くことができます。
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「学芸の小部屋」をのぞいてみる
戸栗美術館のホームページには、展覧会の担当学芸員さんによるコラムが掲載されています。美術館に足を運ぶ前に、注目の作品をチェックしたり、鑑賞後に復習して知識を深めたりと、展覧会をさらに楽しむきっかけになるでしょう。
2026年9月訪問
取材・文:浜田夏実
取材協力:戸栗美術館 学芸員 小西麻美さん
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やきものの見方とは?初めての方にもおすすめな鑑賞ポイント
染付 雪輪文 輪花鉢 伊万里 江戸時代(17世紀末~18世紀初) 口径13.5㎝ 戸栗美術館収蔵
渋アート
正直なところ、やきものは、初心者には理解が難しいイメージがあって…。鑑賞のしかたがまだ掴めていないのですが、どんな見方をすると良いでしょうか?
小西さん
やきものは、茶道具などのイメージが強く、由緒正しく格式高いものと考えている方が多いかもしれませんね。
当館では、伊万里焼という磁器を中心に収蔵しています。今でこそ鑑賞品として私たちの眼を楽しませてくれますが、本来は当時の人々の生活や需要に寄り添って発展していったやきものです。「こうやって見なければならない」という決まりはなく、鑑賞のしかたは自由なんですよ。
渋アート
自由に見ても良いとは知りませんでした!
さまざまな鑑賞方法があると思うのですが、初めて見る時におすすめのポイントはありますか?
小西さん
たとえば、絵やデザインが好きな方は、やきものの文様に注目するなど、いろいろな切り口があります。自分が興味のあるものを入り口にすると、より親しみを感じられるのではないでしょうか?
私の場合は食べるのが好きなので、「このお皿にどんな料理を載せたらおいしそうかな?」と考えるのが、鑑賞する時のひとつの楽しみです。
渋アート
やきもののお皿に、料理を載せるところを想像しても良いのですね!それは面白そうです。
2026年の夏に開かれた『酒がおいしい古伊万里展』は、酒にまつわるうつわと江戸時代の食文化に注目していて、まさに「食」がテーマでした。
小西さん
当館では、季節や食など、身近なテーマでやきものを楽しめる展覧会を行っています。鑑賞方法に決まりが無いからこそ見方に迷ってしまう一方で、色んな角度からのアプローチも可能なんです。
ご自身が関心のあるテーマの時に、美術館に足を運んでいただくと、やきものにふれる糸口を見つけやすいと思いますよ。
江戸時代の酒文化に触れつつ、酒をおいしく楽しめそうなうつわ約80点を、絵画や文献資料も参照しながら紹介した『酒がおいしい古伊万里展』(2026年7月3日~9月21日開催)
渋アート
戸栗美術館の収蔵品は、伊万里焼が中心というお話がありましたが、「伊万里焼」と「古伊万里」という呼び方がありますよね。どちらも同じ意味なのでしょうか?
小西さん
「◯◯焼」という名称は、一般的にはやきものの産地を表しています。ただし、江戸時代の伊万里焼は、佐賀県有田町を中心とする地域で作られたものの、当初は伊万里港から出荷されていたため、江戸や京都・大坂などの消費地では「伊万里焼」と呼ばれるようになりました。
現代まで伝統が受け継がれていますが、なかでも江戸時代に生産されたものは「古伊万里」といって、後世の作品と区別しています。
中村公法(1955~)「染付 有田職人尽くし図 大皿」(拡大)平成9年(1997) 口径59.2㎝ 戸栗美術館収蔵
陶工と呼ばれる職人たちが工場制手工業でうつわを生産していきます。画像は成形の工程ですが、粘土をこねる人、轆轤(ろくろ)で形づくる人、ヘラで整える人、型を使って輪花形に成形する人と、一つの工程に複数人の陶工が携わっていたことがうかがえます。(小西さん)
小西さん
もともと、伊万里焼は製品として作られ、国内外に流通していました。そのため、当館以外の展覧会でも、同じやきものに出会えることがあります。手作業で作られているので、同形同意匠であっても微妙な違いがあって面白いです。
キャプションを見ると分かりますが、作品に作者名が書かれていないのも、ひとつの特徴です。生産の工程を分業して、多くの人が関わって製造されたからだといえます。
当館では、実用品のうつわを多く展示していますので、ぜひ使い心地を想像して楽しんでいただきたいですね。