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2026.08.12 UP

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今さら聞けない渋アート―山種美術館編―

美術館・博物館に何度か足を運んでいるけれど、実は施設や展示について詳しくは知らない…。
そんな「今さら聞けないこと」を、渋アートスタッフが連携施設のみなさんにインタビューし、各館の魅力を再発見するシリーズです。

今回訪れたのは、日本初の日本画専門の美術館として設立された山種美術館。今年で開館60周年を迎え、着物姿で来館する方や海外から足を運ぶ方など、国内外の幅広い世代に親しまれています。
「日本画の色彩や質感の美しさを体験してほしい」と話す山﨑妙子館長に、日本画ならではの魅力や、楽しく鑑賞するアイデアを伺いました。

日本画ってどんな絵画?歴史や画材から見えてくる魅力

竹内栖鳳《班猫》【重要文化財】1924年 山種美術館
本作品は【開館60周年記念特別展3】ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅠ-横山大観、竹内栖鳳から上村松園、速水御舟へ- (2026年10月10日[土]~12月6日[日])にて展示予定です。

 

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日本画は、学校の図工などでもふれる機会が少ないため、実は、表現の方法を想像したり、鑑賞のポイントを発見したりするのが難しい部分があると感じています。まずは、どんな絵画を「日本画」と呼ぶのか、どのような画材が使われているかなど、基本的なポイントを教えていただけませんか?

山﨑館長

日本画になじみがないと、敷居が高いイメージを持たれる方が多いですね。でも、自然の材料で作られた画材や、四季折々の風景など、日本文化に親しむ入り口として楽しんでいただけたら嬉しく思います。

まず、「日本画」という名称が使われるようになったのは、明治20〜30年代頃のことです。それまでは、やまと絵や漢画のような様式を表すことばや、狩野派や土佐派など流派ごとの呼び名はありましたが、それらを総称する言い方はまだ生まれていませんでした。
明治時代にヨーロッパから油彩画が伝来すると、油絵を描く日本人の画家も現れ、新たに「洋画」ということばが誕生します。そして、「洋画」に対し、従来の絵画を指す名称として「日本画」が用いられるようになりました。

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なるほど。洋画が登場したことで、日本画ということばが生まれたという順序なのですね。それでは、どのような絵画を日本画と呼ぶのでしょうか?

山﨑館長

現在は、基本的に和紙や絹に墨や岩絵具いわえのぐを使って描く絵画を、日本画と呼ぶのが一般的です。
ただ、近年は、アクリル絵具などさまざまな画材を使った作品もあり「岩絵具や和紙を使っているから日本画」と一概に区別できるわけではありません。

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岩絵具というものを初めて知りました。日本画ならではの画材について、詳しく教えていただけますか?

山﨑館長

絵具は、鉱物をもとにした岩絵具、イタボガキという牡蠣の貝殻から作られる胡粉ごふん、植物や昆虫から抽出した水溶性の染料などがあります。
動物のタンパク質から作ったゼラチン質のにかわを接着剤として使い、絵具を画面に定着させています。

日本画の絵の具のもとになる鉱物や貝殻

 

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すべて自然の素材でできているのですね。鉱物から出来ている岩絵具はまるで宝石のようです。

山﨑館長

もっとも高価なのが、貴重なアズライト(藍銅鉱らんどうこう)の原石から作る群青色で、マラカイト(孔雀石)からできている緑青ろくしょうも希少な顔料です。どちらも、日本画を代表する色としてよく知られています。

東山魁夷《年暮る》1968年 山種美術館
大みそかの晩に、静かに雪が降る町家の家並み。東山魁夷は京都ホテル(現・ホテルオークラ京都)の屋上から見た光景を描きました。「東山ブルー」と称された色遣いが魅力的な作品です。作家・川端康成の「京都は今描いといていただかないとなくなります、京都のあるうちに描いておいてください」という言葉が、制作のきっかけとなりました。(山﨑館長)

本作品は【開館60周年記念特別展4】ザ・ベスト・オブ・山種コレクションⅡ-東山魁夷、平山郁夫から千住博、山口晃へ-(仮称) (2026年12月12日[土]~2027年3月7日[日])にて展示予定です。

 

山﨑館長

鉱物を粉砕した顔料は、粒子の大きさが違うため、チューブの絵具のように混色することができません。番手ばんてといって、粒子のサイズが決まっており、細かいものほど色が薄く、粗いものは元の鉱物の色に似た濃い色になります。

日本画を間近で鑑賞すると、表面がきらめいているのがわかりますが、粗い粒子の絵具を何度も塗り重ねているため、輝いて見えるのです。本物の作品を前にして、色彩の美しさや質感をご覧いただきたいですね。

左側が粒子が粗く、右側が細かいもの。同じ色の岩絵具でも番手で色が変わります。

 

実際に作品を見る体験の奥深さー色彩や余白の美

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たしかに、チラシやウェブサイトで見るのと、実際に鑑賞するのとでは、作品の印象がまったく変わるなと感じました。絵具の鮮やかさや宝石のようなきらめきは、美術館に足を運ばないと味わえないですね。
先ほど、画材についてお聞きしましたが、日本画特有の表現方法もあるのでしょうか?

山﨑館長

当館を代表するコレクションのひとつ、奥村土牛おくむらとぎゅうの《醍醐》(1972年)は、柔らかな色彩が魅力的ですが、時間をかけて制作されています。水で溶いた薄い絵具を、塗っては乾燥させるという手順を何度もくり返して、ベールのように塗り重ねています。印刷物や写真では再現できない奥行きのある色なので、展覧会で体感していただきたいですね。

奥村土牛《醍醐》1972年 山種美術館
本作品は、【開館60周年記念特別展2】奥村土牛 ―名作でたどる100年のあゆみ―(2026年8月8日[土]〜10月4日[日])にて展示されます。

 

山﨑館長

また、当館では、作品を間近で見ていただけるよう、掛け軸を個々にアクリルのカバーで覆う独自の展示ケースを使っています。正面だけでなく、いろいろな角度からご覧いただけるのが特徴です。照明の当たり方も工夫し、絵具のきらめきや美しさを実感できるように展示しています。

 

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展示室には、さまざまな工夫が施されているのですね。作品を至近距離で鑑賞できるのが魅力的で、絵具の色彩や質感をじっくりと観察してみたいです。
ほかにも、日本画ならではの表現を感じられる作品を教えていただけますか?

山﨑館長

川合玉堂かわいぎょくどうは、絵具を何度も塗り重ねず、薄塗りで描いているのが特徴です。
また、玉堂の描く風景には、自然の大気や景色の奥行きといった目には見えにくいものを表現するために、余白が効果的に使用されています。
画面に描き込み過ぎないことで、鑑賞者にとって想像する余地が生まれているのですね。

日本画のシンプルな表現には、引き算の美学が感じられます。
作品に近づいて鑑賞するだけでなく、少し離れて眺めてみると、掛け軸全体を味わうことができます。ぜひ、いろいろな見方を試してみていただきたいですね。

川合玉堂《溪雨紅樹》1946年 山種美術館

好きなものを楽しむ感覚で鑑賞ー身近に感じられるテーマやモチーフを入り口に

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作品を紹介いただいて、ますます本物の作品が見たくなりました。
初めて日本画に触れる方が親しみを感じられるような、おすすめの鑑賞ポイントはありますか?

山﨑館長

日本画には、花や動物など、どなたにも親しみやすいテーマが描かれているので、ご自身のなじみやすいモチーフを探してみると、さらにお楽しみいただけると思います。
また、作品に描かれた様々な風物から季節感をよみとるのも日本画鑑賞の楽しみ方ですね。

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興味があるものを入り口にすれば、おのずと好きな作品に出会えそうですね。

山﨑館長

そうですね。あまり難しく考えずに、「家に飾るならどの絵がいいかな」と、お気に入りの作品を探してみるのもおすすめです。

当館では、近隣の小学校の生徒さんをお招きして、休館日に鑑賞会を開いているのですが、「この絵が好き」と言って、気に入った作品の絵と感想文を書いてくれました。大人の方にも、お子さんのように、純粋な気持ちで楽しんでいただきたいと思っています。

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まずは好きなものを楽しむ感覚で鑑賞すると、敷居が高いイメージが変わりそうですね。

山﨑館長

当館の創立者である祖父の山﨑種二は、「お世話になったまちの方々に、下駄履きで来てほしい」と話していたほど、美術館に気軽にお越しいただきたいと考えていました。今も幅広い年代の方が来館されていますが、若い方がデートで来られたり、最近は海外のお客様も数多くいらっしゃるなど、いろいろな方に日本画を自由に楽しんでいただけたらと思います。

「着物を持っているけれど、なかなか着て行ける場所がない」というお声を聞き、お着物でいらした方への入館料の割引サービス(きもの特典)も実施しています。美術館のインテリアは、ベージュの大理石で上品な雰囲気を演出し、写真を撮った時にお着物が映えるように設計しました。

鑑賞後は1階の「Cafe椿」でゆったりと過ごすのもおすすめ。展覧会の出品作品をモチーフにしたオリジナル和菓子を味わうこともできます。

 

山﨑館長

当館は、「美術を通じて社会と文化のために貢献したい」という祖父の理念を受け継ぎ、日本文化を好きになっていただけるような場所を目指し、親しみを持てる展覧会やイベントを企画しています。カフェやショップも含め、日本文化をトータルに楽しめる美術館として、より多くの方々に日本画の魅力をお伝えしていきたいですね。

訪れた方がほっとできるような、癒しの空間になればと思いますので、お仕事の帰り道や気分転換がしたい時にも、ぜひ立ち寄ってみてください。

今年は開館60周年を記念して、山種美術館を代表するコレクションが特別展に出品されます。名品の数々をじっくりと味わえるチャンスなので、くり返し足を運んでみてはいかがでしょうか。
「日本画は、知識がないと鑑賞するのが難しいのでは」と思っている方も、絵具の色彩や輝きを眺めたり、親しみを感じるモチーフを探したりすると、より身近に感じられるはずです。山種美術館で、ゆったりと日本文化に触れてみませんか?

渋アート的視点

日本画や山種美術館のコレクションについて、さらに学びたい方におすすめの方法をご紹介します

  • キャプションに注目してみる

    展示室のキャプション(解説文)は、日本画に初めて触れる方にもわかりやすい文章で作成されているそうです。これから知識を深めたい方や、気になった画家について知りたい方におすすめです。

  • 音声ガイドを聞いてみる

    ご自身のスマートフォンで、展覧会のみどころや作品の解説を無料で聞くことができます(館内で提供している無料のWi-Fiに接続して利用)。1階と地下の展示室・ミュージアムショップで使用可能で、展示を見たあとの復習としても役立つでしょう。

  • 会員制度「山種メンバーズ」を利用してみる

    ミュージアムグッズやカフェの割引きなどさまざまな特典を受けられる年間フリーパス会員制度「山種メンバーズ」。年会費は6,000円(税込)で、入会日から1年間、何度でも入館できます。お得に展覧会を楽しみながら、日本画をより深く学んでみてはいかがでしょうか?

2026年6月訪問
取材・文:浜田夏実
取材協力:山種美術館 山﨑妙子館長

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