2026.06.18 UP
今さら聞けない渋アート―國學院大學博物館編―

美術館・博物館に何度か足を運んでいるけれど、実は施設や展示について詳しくは知らない…。
そんな「今さら聞けないこと」を、渋アートスタッフが連携施設のみなさんにインタビューし、各館の魅力を再発見するシリーズです。
今回訪れたのは、日本の文化や歴史にまつわる展示を行う國學院大學博物館。2028年に迎える100周年を目前に、古代から受け継がれる文化に親しめるスポットとして、ますます人気が高まっています。
この日は、見応えのある常設展にスポットを当て、学芸員の佐々木理良さんに、最新の研究成果にふれる面白さや、おすすめの鑑賞コースについてお聞きしました。
*國學院大學博物館については、こちらの記事でも紹介しています。
渋アートと巡る ── 國學院大學博物館
大学の特色を活かした常設展と企画展の魅力
渋アート
常設展と企画展を同時に開催されていますが、それぞれの違いや特色を教えていただけますか?
佐々木さん
まず、どちらも一貫しているのは、日本の文化や歴史をお伝えしていることです。これは、本学の特色で、研究の柱でもあります。
常設展は、本学の歴史を伝える「校史展示室」、日本の考古学を伝える「考古展示室」、神道や祭りについて紹介する「神道展示室」の3つのエリアで構成されています。
企画展は、「日本の文化や歴史」という柱を立てつつも、年間6回ほど、さまざまなテーマで本学の研究成果を公開しています。
渋アート
常設展は、いつでも見られる資料に加えて、特集展示を行っている時もありますよね。
佐々木さん
そうですね。神道エリアでは、特に頻繁に企画されています。企画展で出すほどのボリュームはないけれど、研究成果として3〜4点出したい時にも、このコーナーを活用しているんです。
また、本学が学会などの会場に選ばれた際には、関連資料をご覧いただく機会として展示する場合もあります。
渋アート
企画展のほかにも、最新の研究にふれられるスペースがあるのは魅力的ですね!
佐々木さん
はい、新しい研究成果に気軽にふれていただければと思います。
考古エリアの資料は、他館へ貸し出すことも多くあります。空いたスペースで、特集展示を行うこともあります。
資料はみなさん共有の財産ですので、貸出や調査のご希望をいただいたら、基本的には柔軟にご対応しています。大学博物館の重要な役割のひとつですね。
また、本学では実際に発掘調査をする実習の授業が行われており、その成果を学生たちが「発掘調査速報展」として展示することもあります。これも大学博物館らしい一面かと思います。
常設展の展示ケースに、「貸出中」の札が置かれているのを発見。「資料調査のため」「展覧会に出品したい」といった依頼があれば、学内でも学外でも貸し出しに対応しているとのことです。
常設展に3つの展示室が誕生した背景
考古展示室の展示風景
渋アート
そもそも、どのような経緯で常設展に3つのエリアが生まれたのでしょうか?
佐々木さん
それは、國學院大學博物館の成り立ちによるものです。1928年、当時まだ学生だった樋口清之(ひぐち きよゆき)先生が、ご自身で集めた出土品を3,000点ほど大学に寄贈し、大学として「考古学標本室」を創設したのが、当館のはじまりです。
渋アート
おひとりで3,000点も集められたのですか!
佐々木さん
驚きますよね。当館の考古学のコレクションは、樋口先生の資料がもとになって、形成されているんですよ。
これに1963年に設立された「神道学資料室」(後の「神道資料館」)と、皇典講究所にはじまる大学の歴史に関わる資料も展示に加わり、現在の「國學院大學博物館」となりました。
学芸員さんおすすめの作品と鑑賞コースをご紹介!
「山ノ神遺跡」(古墳時代中期~後期)の展示コーナー。この岩の隙間や周りから、ミニチュアの土製品が出土したそうです。杵や臼が象られており、農耕に関する何らかの祭祀を行ったのではないかと考えられています。
渋アート
常設展はとても広いスペースなので、全部見きれないことがあるかもしれません。「あれも見たい、これも見たい、でも時間が足りない!」という時に、「これだけはチェックしてほしい」という資料はありますか?
佐々木さん
どれかひとつ選ぶのであれば、「山ノ神遺跡」の展示ですね。岩がゴロッと置かれているだけのように見えるのですが、奈良県の三輪山のふもとで見つかった、古墳時代の遺跡なんですよ。
古墳時代よりさらに前、たとえば縄文時代にも、何らかのおまつりのような事は行っていたと思うんです。ただ、そうした当時の祭祀を「神道」と呼ぶには、少し時期が早いように感じませんか?
渋アート
たしかに、違和感があります…。
佐々木さん
「山ノ神遺跡」は、神道としてさかのぼれる最古の祭祀遺跡のひとつです。つまり、神道の源流といえます。そのため、当館では、この遺跡より古い時代の祭祀に関する研究を「考古学」、後の時代の祭祀に関する研究を「神道」に分けて、展示をしています。
渋アート
なるほど!常設展では、「山ノ神遺跡」が重要なポイントになっているのですね。
佐々木さん
考古展示室と神道展示室の間にあり、祭祀考古学といった研究分野を持つ、当館の特徴を分かりやすく示す展示のひとつです。
「山ノ神遺跡」から出土した土製品(複製)
渋アート
あと2点ほどおすすめをピックアップするとしたら、どんなものがありますか?
佐々木さん
ひとつは、かわいらしい印象の「挙手人面土器(きょしゅじんめんどき)」です。
古墳時代の出土品としてはほかに類例が見られず、とても貴重な資料です。
「挙手人面土器」古墳時代(前期)4世紀
「上部にあるのは角かと思いましたが、指が分かれているので、手なのだと気づきました」と、初めて「挙手人面土器」を見た時のエピソードを、佐々木さんが教えてくださいました。
佐々木さん
土偶や埴輪(はにわ)は、人の形をしたフィギュアですが、「挙手人面土器」は、容器に顔が付いているという、まったく違う種類の資料です。
渋アート
「挙手人面土器」は、どんな用途で使われたのでしょうか?
佐々木さん
祭祀に関わる道具と考えられていますが、具体的な使い方は判明していません。手を上に挙げていたり、耳にピアスの穴が空いていたりと、見どころの多い資料ですね。
もうひとつ、やはり重要文化財ということもあり、おすすめしたいのは、「石枕」です。遺体を安置する際に使用された枕で、亡くなってからすぐに土葬するのではなく、安置する期間があったことを示す資料でもあります。
「石枕」古墳時代(中期)5世紀 (撮影時は複製の展示)
枕の側面に、直弧紋(ちょっこもん)と呼ばれる特徴的な装飾が施されています。「古墳時代に、細かな模様を石に刻む技術があったのも、驚くべきポイントです」と佐々木さん。ぜひ現地で鑑賞してみてくださいね。
佐々木さん
「石枕」は重要文化財で、年間に出せる日数が決まっており、レプリカを展示していることが多いです。まれに本物を出展することもあり、その際はSNSでお知らせしますので、ぜひチェックしていただきたいです。
渋アート
「山ノ神遺跡」「挙手人面土器」「石枕」のほかに、限られた時間でも楽しめるおすすめコースがありましたら、教えていただけますか?
佐々木さん
考古展示室には、大きなガラスケースに入った「象徴展示」が8ヶ所あり、それぞれの時代の優品が展示してあります。展示をハイライト的に巡れるようになっています。
縄文時代につくられた「火焔型土器(かえんがたどき)」の象徴展示
佐々木さん
ガラスケースには、詳しい解説文が載っていて、「ポケット学芸員」というアプリ(無料)を使って音声ガイドを聞くことも可能です。当館の解説のナレーションは、國學院大學放送研究会の学生によるものです。
渋アート
スマートフォンを利用して、手軽に解説を聞けるのですね。安心して展示を鑑賞できそうです。
佐々木さん
そうですね。時間のない方へのおすすめは、考古展示室の象徴展示→「山ノ神遺跡」の展示→神道展示室という順番が、短時間で楽しめるシンプルコースです。時代の流れも理解しやすいと思いますよ。
調査・研究をリアルタイムに体感できる展示
渋アート
常設展は、特集展示のほかにも、時期によって変わるコーナーがあるのでしょうか?
佐々木さん
常設なので、基本的には変更しませんが、神道展示室は季節に合わせて資料を入れ替えていますね。たとえば、お雛様の展示や夏のお祭りの展示をするなど、季節感を大切にしています。
また、研究が進むと、「資料の見せ方を変えたほうが良い」となることもあり、並び方を変えたりもしますよ。最近では、考古展示室の埴輪のコーナーが大きく変わりました。
「人物埴輪(武装男子)」の展示。修復の際に、資料を解体して判明した研究結果も紹介しています。
佐々木さん
当館で収蔵した時点で、「腕が短いはずなのに長すぎる」など不自然に修復されている場合があるので、少しずつですが、最新の技術や研究成果をもとに、修復し直すといった試みも行っています。
渋アート
最新の調査と研究をリアルタイムで見られるのが、國學院大學博物館の魅力のひとつですね。足を運ぶたびに、新しい気づきに出会えそうです。
佐々木さん
ぜひ何度も訪れて、発見する楽しみを味わっていただきたいです。無料で開館していますので、気軽に立ち寄って、お気に入りの資料を探してみてくださいね。
大学機関ならではの専門知識と、視覚的に体験する展示の両方を楽しめる國學院大學博物館。日本の文化や歴史を身近に感じられる常設展で、古来の人々の暮らしにふれてみてはいかがでしょうか?
渋アート的視点
國學院大學博物館の常設展と合わせて、鑑賞体験をさらに深めたい方におすすめのコンテンツをご紹介します。
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國學院大學博物館 Online Museum(YouTubeアカウント)
企画展ごとに、展示の背景や見どころなどを解説する動画がアップされています。展覧会を訪れる前の予習や鑑賞後の復習として視聴すると、テーマへの理解がさらに深まるでしょう。時間や場所を気にせず、自分の好きなタイミングで何度でも楽しめるのもポイントです。
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ミュージアムショップの図録や書籍
常設展と企画展に関連する書籍や図録が販売されています。それぞれの展示を担当する先生が選書しているため、はじめて知る方や詳しく学びたい方におすすめです。
2026年4月訪問
取材・文:浜田夏実
取材協力:國學院大學博物館 学芸員 佐々木理良さん
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\シリーズ第2回/
今さら聞けない渋アート―実践女子大学香雪記念資料館編-はこちら


研究成果を目で見て楽しめる博物館
常設展の展示風景
渋アート
初めてお伺いした時、常設展と企画展をどちらも無料で見られることに驚きました。学内外の方々が利用しやすいよう、無料で開館されているのでしょうか?
佐々木さん
大学博物館は、大学の研究成果や学術資産を社会のみなさんに開いていく役割も担っています。そのため、当館に限らず、多くの大学博物館はおそらく無料で公開されていると思います。専門的な内容も、できるだけ分かりやすい形で「展示」として紹介し、実際に研究成果を身近にふれながら学べる機会を提供しているのが、大学博物館の特徴です。
渋アート
たしかに、いきなり論文や専門書を読むのは難しいですが、「展示」として視覚的に体感できると、親しみがわきそうです。
常設展の一部では、多言語によるキャプションを充実させ、さまざまな来館者に対応しています。
また、企画展のパネル解説などは、鑑賞者が立った状態で集中して読める文字数は限られるため、学術的な情報と理解しやすい説明のバランスを考え、展示担当の先生方と相談して作成しているそうです。