2002年からベルギー王立歌劇場(通称モネ劇場)の音楽監督を務め、今年6月3シーズン目を終了した指揮者 大野和士。R.シュトラウスの大作「影のない女」は、その3年間の集大成として大野と歌劇場の蜜月振りを印象付ける熱演だった。

大野の活躍は、本拠地ブリュッセルに留まらない。4月パリ・シャンゼリゼ劇場でのヘンツェ「バッサリーズ」世界初演、オーケストラのストライキ騒動を自らのピアノ編曲で見事克服した“伝説”。7月南仏エクサンプロヴァンス音楽祭に2年連続出演し、同音楽祭監督でミラノ・スカラ座支配人にも就任したステファン・リスナー氏の高い評価を得て、遂にミラノ進出が決まった。先ずは、今年10月にミラノ・スカラ座管弦楽団のリスナー時代開幕の定期演奏会に登場、マーラーの交響曲7番を披露する。そして、2006-07シーズンには、スカラ座では20年ぶりといわれるR.シュトラウス「アラベラ」でオペラ・デビューを果たす。さらに、2007-08年にはニューヨークのメトロポリタン・オペラ、イギリスの由緒あるグラインドボーン音楽祭に立て続けにデビューが決まっている。大野にとっては、ひとつひとつのプロダクションが常に次のステップへのオーディションであり、スプリングボードでもある。失敗は許されない重圧の中、自分の信ずる音楽を作り上げる。

今度の日本公演は文字通り“凱旋”ではあるが、大野に浮ついた気持ちはない。世界中のどこよりも厳しい日本の聴衆に、自分の進化の過程を評価してもらう大切な公演。つい先日、「ドン・ジョヴァンニ」稽古中のブリュッセルから一通のメールが届いた。「ラストスパート、初演を凌ぐ名演をお約束します。期待していてください!」

©Johan Jacobs


ページの先頭に戻る
Copyright (C) TOKYU BUNKAMURA, Inc. All Rights Reserved.