海運王となったサクセス・ストーリー
19世紀末から20世紀にかけてスコットランドの港湾都市グラスゴーは海運業と重工業で空前の繁栄を享受していました。この町で生まれたウィリアム・バレル(1861-1958)は家業の海運業を15歳から手伝いはじめ、持って生まれたビジネスの才能が徐々に発揮され巨万の富を築くことになりました。バレル・コレクションの背景には海運王となったこうしたサクセス・ストーリーがあるのですが、美術ファンにとって嬉しいのは彼がその富を美術品収集につぎ込んだことでした。初めて美術品を買ったのも15歳の頃で、オークションで買ったという早熟ぶり。父親からは、そんなものに金を使うよりクリケットのバットでも買うようにとたしなめられたと言います。
バレルが本格的に美術品の収集を始めたのは20代になって商用でフランスなどに行くようになってからのことで、この時期にエディンバラやグラスゴーで開催された万博もきっかけでした。そこにはスコットランドの他の収集家からの借用作品が多く展示されていたからです。美術の観方は独学で学んだバレルでしたが、収集の後押しをしたのは同郷の画商アレクサンダー・リードでした。リードは同じく画商だったゴッホの弟と親しく、そこから印象派を始めとする当時のフランスの画家たちと直接交流した大物画商で、本展にはゴッホが描いたリードの肖像画も含まれています。フランス絵画に興味を持っていたのはスコットランドの他の収集家も同じで、18世紀初頭、隣の強国イングランドに併合されながらも独自の政治的地位と文化を保っていたこの「国」は、イングランドに対する特別な感情もあって文化的にはイングランドを越えてフランスに目が行っていたのです。