スタッフダイアリー

ジャン・ルノワールの「トニ」

『ルノワール+ルノワール展』で、2回目のゲストとして登場いただいた写真家・若木信吾さんがDVD化を熱望されていたジャン・ルノワールの映画「トニ」。やっと中古のビデオを入手して観ました。

その後のビスコンティやロッセリーニらに続くリアリズムの先駆的作品といえる『トニ』。リアリズムを志向する映画が、ときに現実を直視することによって暗さを伴いがちなのに対して、ルノワールの映画では、人間の営みや生き様のネガティブな面を”前提”として捉えているようなある種の明るさがあり、主人公トニも決して裕福ではないけれど、どこか奔放で地に足の着いたたくましさを感じさせます。
出演者のほとんどが素人というのも、現代でこそ普通に見かけますが時代を考えると新鮮です。やはり革新的な人でした。男と女の会話一つ、しぐさ一つ、手を抜いていないと思わせる繊細な描写。そして終盤、物語の急展開にあわせて現れる不安な構図と緊張感。それでいて、観終わった後には自分のポジティブな感情がむき出しにされたようなカタルシスを覚えます。

人間という”個”に焦点を当てつつも、その人間が作り上げる家庭や職場、そして町、さらには自然というように、より大きな器への視点が感じられ、結果的に、その環の中で生きる人間への賛歌とでもいうべきメッセージが伝わってきます。

過去にはDVDで発売されましたが現在は廃盤のようです。ボックスセットにも収録されていません...残念。そういえばフェデリコ・フェリーニの『81/2』もやっと今年の5月に日本版DVDが発売になったばかりでした。いろいろと版権の問題などあるのだと思いますが、名作の輝きを後世に伝えるためにも再発して欲しいものです。