ラインナップに戻る

日常にもっと感動を。パリ・オペラ座へ通う、新たな生活。 パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2013~2014

5月より順次ロードショー Bunkamuraル・シネマ

第8作 椿姫 LA TRAVIATA[オペラ]

ブノワ・ジャコ監督の正統的かつ視覚的な演出で、世紀の悲恋がより美しく輝く

 哀切きわまりない旋律の有名な序曲が終わると、白い豪華なドレスの胸元に真紅の椿を飾ったヴィオレッタが、医師から心音を聴かれている。舞台上には巨大なベッドと、マネの享楽的な絵画「オランピア(オリンピア)」が飾られ、ヴィオレッタが高級娼婦であることを暗示する。不治の病のことは誰にも言わず、今夜も大勢の男たちに囲まれ、パーティーを開く。そこへやって来たのが若いアルフレード。"乾杯の歌"を皆で歌いながらも、ヴィオレッタとアルフレードは一目で恋に落ちてしまう。物語の始まりであるこの第一幕だけでも、先述の"乾杯の歌"を含め、"ああ、そは彼の人か""花から花へ"などの名曲ぞろい。ヴィオレッタを演じるディアナ・ダムラウのコロラトゥーラ唱法を存分に味わってもらうため、演出を手がけた映画監督ブノワ・ジャコ(「マリー・アントワネットに別れを」他)は、この幕ではあえて正統的な手法で恋の行方の困難さを感じさせる。

 第二幕。パリでの華やかな生活を捨てて、アルフレードと静かな生活をおくることを選んだヴィオレッタのもとに、アルフレードの父親ジェルモンがやって来る。それは、生活費を工面するためにヴィオレッタが売り払ったものを取り戻そうと、アルフレードが留守をしている時の出来事だった。父親の用事は、アルフレードの妹の縁談にも差しさわりがあるので、どうぞ息子と別れてほしいという、ヴィオレッタにとっては到底承服できない申し出。だが父親の心に感じ入り、彼女は愛する人との別れを決意する。

 ここまで比較的シンプルだったブノワ・ジャコの手腕が弾けるのは、同幕第2場の、パリに戻ったヴィオレッタの、友人フローラの屋敷のシーン。舞台上に赤い大階段をしつらえ、客人に扮した合唱の人々、そしてスペイン風衣装のバレエダンサーたちが、事の成り行きを見守るように階段上に並ぶ。一転して黒いドレスに身を包んだヴィオレッタが、激高したアルフレードからなじられる場面など、ますます悲劇の度合を深めていくシーンを経て、第3幕の前奏曲につながるが、フランチェスコ・イヴァン・チャンバの音作りは見事。みすぼらしいとすら思えるベッドに、ひとり横たわるヴィオレッタは、ジェルモンの謝罪も、遅すぎたアルフレードの来訪も、まるで別の世界の出来事のようにうつろな眼差しで受けとめる。まさに"絶品"と呼ぶにふさわしいダムラウの、この場面での存在感は、ディーバの名をほしいままにするだろう。

文:佐藤友紀

演目について

  • パリ・オペラ座での上演日:2014年6月17日
  • 上映時間(予定):2時間47分
  • 指揮:フランチェスコ・イヴァン・チャンバ
  • 演出:ブノワ・ジャコ
  • キャスト:ディアナ・ダムラウ/フランチェスコ・デムーロ/リュドヴィク・テジエ/ケヴィン・アミエル 他