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日常にもっと感動を。パリ・オペラ座へ通う、新たな生活。 パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2013~2014

5月より順次ロードショー Bunkamuraル・シネマ

第3作 清教徒 I PURITANI [オペラ] *新演出

17世紀英国の許されない恋の行方を、モダンな装置を背景に絶品の歌唱

 あの人はあんなに強く私への愛を誓ったのに、私を裏切って去ってしまった――純白の花嫁ドレスに身を包んだエルヴィーラの〈狂乱の場〉がハイライトのベッリーニのオペラ。ロラン・ペリの演出は、直線を生かしたモダンでシンプルな舞台装置を自在に動かすことで、物語の背景となった17世紀のイングランドの様子をビビッドに表現している。
 国王派の騎士アルトゥーロと、敵対する清教徒派の司令軍の娘エルヴィーラは深く愛し合い、めでたく結婚することになるが、清教徒の大物リッカルドも彼女を愛していることから、不穏な雰囲気に。リッカルドとの結婚と勘違いして喜んでいたエルヴィーラの父親、そして伯父。ただでさえ状況が悪い中、結婚の祝賀会に出席したアルトゥーロは、この城に処刑された国王の妃が幽閉されていることを知り、王妃をエルヴィーラに扮装させて城を脱出する。
 最愛の人に裏切られたと思い込んだエルヴィーラが、狂おしいまでに嘆き悲しむ〈狂乱の場〉は、選ばれたソプラノ歌手だけが難しい歌唱技術で表現し得る最大のハイライト。これをマリア・アグレスタが驚異的な声で歌いこなす。純白の花嫁衣装の裾を侍女たちが持ち上げると、四つに別れるという不吉の暗示も、若手のホープ、ペリならではの大胆かつ斬新なアイディアだ。
 一方、男声の歌唱も聴かせどころいっぱいの本オペラ。アルトゥーロ役のテノール、ドミトリ・コルチャクは言うに及ばず、エルヴィーラに横恋慕して、アルトゥーロが彼女を捨てて逃げたと思わせる張本人のリッカルドのバリトンのアリア〈今、どこに逃れようか〉〈おお、永遠に君を失った〉なども名曲だ。もっとも、やはりテノールの美声が冴えわたる「ハイF(高いファ)」はぜひとも聴き逃せないポイントで、コルチャックの人気の高さもうかがい知れるが。
 ペリの演出はまた、合唱の動かし方にも特徴がある。いわゆる群衆としてだけでなく、一人ひとりに個性を持たせつつ、自由の動きの中にちゃんとフォーメーションを組ませているのだが、これはむしろ生の舞台そのものよりも、カメラが入りこんだライブ・ビューイングだからこそ味わえる面白さ。特に天井からの撮影は万華鏡のような視覚効果も生み出し、このオペラの新しい側面が見える。
 城に戻ったアルトゥーロとエルヴィーラの恋の行方にハラハラドキドキ。最後の一瞬まで目が離せない。

文:佐藤友紀

演目について

  • パリ・オペラ座での上演日:2013年12月9日
  • 上映時間:3時間4分
  • 指揮:ミケーレ・マリオッティ
  • 演出:ロラン・ペリ
  • 言語:原語(イタリア語)上演
  • キャスト:マリア・アグレスタ/ドミトリ・コルチャク/マリウシュ・クヴィエチェン/ミケーレ・ペルトゥージ/アンドレア・ソアーレ 他