ラインナップに戻る

日常にもっと感動を。パリ・オペラ座へ通う、新たな生活。 パリ・オペラ座へようこそ ライブビューイング2013~2014

5月より順次ロードショー Bunkamuraル・シネマ

第4作 西部の娘 LA FANCIULLA DEL WEST [オペラ]

プッチーニの貴重な一作。男たちがヒロインの恋の応援をする姿に心打たれる。

 1910年、ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で行われた世界初演は、トスカニーニの指揮、カルーソーが主演という伝説の舞台。当然、大成功をおさめている。
 原作は『蝶々夫人』の原作者でもあるデビッド・ベラスコの舞台劇『黄金の西部の娘』。この題名でもわかるように、ゴールドラッシュ時代のアメリカ西部を背景にした、当時としても珍しいオペラである。
 主人公は、一獲千金を夢見る男たちでわく酒場「ポルカ」の女主人ミニー。と言っても、酸いも甘いも知る成熟した女性ではなく、苛酷な環境でもけっして純粋さを失わないところがまた、男たちを魅了していた。中でも、この地域を取り締まる保安官ジャック・ランスはミニーの気持ちなど関係なく、「もうすぐミニーは俺のもの」と言い放ち、男たちとケンカになるところだったり。そこに現われたのが、ディック・ジョンソンと名乗るよそ者。彼は、お尋ね者の盗賊ラメレスで、盗っ人稼業に手を染めるようになったのもやむを得ない事情から、ということが徐々にわかってくる。「君は天使の顔をしている」とミニーに告げるジョンソン(ラメレス)とミニーは、運命に導かれるごとくに惹かれ合い、そのことに嫉妬した保安官ランスが恋敵の正体を暴こうと躍起になって……。まるで映画の西部劇を見ているかのようなハラハラドキドキの物語が、一瞬たりとも飽きさせない。
 この貴重なオペラを、演出のニコラウス・レーンホフは、1950年代のカリフォルニアに背景を置き換え、主軸の3人――ミニー、ジョンソン、保安官ランス――以外の登場人物たちもよりビビッドに描くことを試みた。もちろん聴かせどころの、ドラマチック・ソプラノ、ニーナ・ステンメ扮するミニーのアリアや、マルコ・ベルティ、クラウディオ・スグーラによるテノールとバリトンの艶のある歌唱には聴き惚れるが、彼らを取り巻く男たちの、それまで自分たちのマドンナ的存在だったミニーの恋を応援する姿が、プッチーニの美しい音楽と相まって、深く心を揺さぶるのである。第一幕の"坑夫たちのワルツ"はそんな彼らの独壇場。他にも、ミニーが全身全霊を賭けて、イカサマをしながらもジョンソンの命を救おうとするカード勝負の場、ラスト近くに効いてくる、ミニーが男たちに説いてきた聖書の存在など、見どころもいっぱい。ほぼ女性一人で物語を牽引するステンメの熱唱は、素晴らしい。

文:佐藤友紀

演目について

  • パリ・オペラ座での上演日:2014年2月10日
  • 上映時間:2時間23分
  • 指揮:カルロ・リッツィ
  • 演出:ニコラウス・レーンホフ
  • 言語:原語(イタリア語)上演
  • キャスト:ニーナ・ステンメ/マルコ・ベルティ/クラウディオ・スグーラ/ローマン・サドニック/アンドレア・マストローニ他