5月より順次ロードショー Bunkamuraル・シネマ
オーロラ姫の成長ストーリーとしての側面もきっちり描いたヌレエフ演出に注目
『白鳥の湖』などと並び古典バレエの代名詞とも言える人気作。1890年にサンクトペテルブルグのマリインスキー劇場で初演された。作曲家チャイコフスキーと振付家マリウス・プティパの鉄壁のコラボレーションに敬意を払いつつ、ロシア(当時はソ連)出身で、パリ・オペラ座バレエの新たな時代を作った名ダンサー、ルドルフ・ヌレエフが1989年に再構築。衣装や舞台美術などもパリ・オペラ座バレエならではの洗練されたものになっている。
待望久しい姫の誕生にわくとある王国。そこに一人招待されなかった悪の精カラボスが現われ、恐ろしい予言をする。「このオーロラ姫は、16歳の誕生日に、糸紡ぎの針で指を刺して死ぬだろう」と。あわてふためく人々の中にあって毅然としたリラの精だけが、「死ぬのではなく百年の眠りにつくだけ」と告げるのがプロローグだ。
以後、16歳を迎えたオーロラ姫が4人の王子たちからバラの花を捧げられながら踊るローズ・アダージョ、予言通り再び姿を現わしたカラボスなど、息づまるストーリー展開は、ファンタジックでありながら、ちゃんとオーロラ姫の成長物語になっているのが映画にも多く出演していたヌレエフならではの演技重視の特徴。しかもオーロラ姫を踊るミリアム・ウルド=ブラームやデジレ王子役のマチアス・エイマンを始め、パリ・オペラ座バレエの現役ダンサー誰もが口にする、究極を目指すヌレエフの舞踊技術と相まって、世界でも類を見ない高水準の作品に仕上がっている。オーロラ姫にしても、16歳の誕生日で見せる、輝くようにピュアでイノセントな魅力と、デジレ王子の幻に現われる、どこか哀し気なのに凛とした高貴な表情、そして、王子のキスで目覚めてからの、真実の愛を知った大人の女性の歓びにあふれた踊り、とそれこそバリエーションが豊かなのも見どころの一つだ。
一方、デジレ王子にとっても、オーロラ姫の存在を知って、絶対に姫を救うと決めてからの旅は、一人前の男へなっていくプロセス。ヌレエフによるていねいな演出が、ファンタジーを超えた人間ドラマとして、ストレートに大人の観客の胸を打つのが嬉しい。
第3幕の宝石の踊り、青い鳥とフロリナ王女の踊り、長靴をはいた猫と白い猫の踊りと人気者たちの各々個性豊かな踊りの後の、姫と王子によるグラン・パ・ド・ドゥ、そしてフィナーレと、その祝祭性にあなたもいつまでも酔いしれるだろう。
文:佐藤友紀