昨年5月、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2015でシンフォニア・ヴァルソヴィアを指揮するために来日していたロベルト・トレヴィーノさんにインタビューした。

指揮者:ロベルト・トレヴィーノ

©本城奨

クラシック音楽を志したきっかけは何ですか?

「私は、18歳の父と17歳の母のもと、とても質素な家庭に生まれました。8歳のとき、父の運転するトラックに乗っていたら、ラジオからクラシック音楽が聴こえきて、父がチャンネルを変えたので、僕は『今のチャンネルに戻して』と言いました。かかっていたのは、モーツァルトの『レクイエム』の『ラクリモーザ』。それを聴き続けて、『僕はこれをやりたい』と思いました」

それでどうしたのですか?

「8歳で楽器を始めたのですが、音楽を真剣に学び始めたのは13歳のときでした。指揮を学ぶようになったのは15歳になってからです。私は、指揮者になりたかったのですが、スコアなんて持っていませんでした。先生の本棚にあるスコアのなかから、私は最初に『春の祭典』を手に取りました。先生に『もっと簡単な曲にしなさい』と言われたのですが、私は『できます』と返しました。でも、その頃、私は基本の楽器しか知らなくて、コールアングレも知りませんでした。拍もわからなかったし、フランス語の注もわかりません。そこで私はオーケストレーションの本を読み、フランス語の辞典を引き、『春の祭典』の録音を聴いて、勉強しました。それで次の週に先生の前で振ってみました。今思えば、そのときはまだ何もわかってなかったのですが、先生は感激して、それ以後、私を教え続けてくれました。そして私が真剣に指揮をやりたいということがわかってもらえたので、レッスン料を取らずに教えてくれました。
 私は16歳で高校を終え、2年飛び級で、大学に入りました。20歳のとき、ドイツの指揮コンクール&マスタークラスがきっかけで指揮をし、レイフ・セーゲルスタムなどの有名な指揮者に学ぶことができるようになりました。その後、アスペン音楽祭でデイヴィッド・ジンマンに、タングルウッド音楽祭でクルト・マズアに、マイアミのニュー・ワールド・シンフォニーでマイケル・ティルソン・トーマスに師事しました」

トレヴィーノというのはイタリア系の名前ですか?

「トレヴィーノはスペイン系です。でも私はあらゆる意味でアメリカ人ですから、ヨーロッパでの長旅を終えて、アメリカに帰ってきてチーズバーガーを食べると、虹が見えてきて、とてもいい気分になります(笑)。イタリア音楽は大好きですけど」

どうして、今回、ブラームスの交響曲第2番なのですか?

「第2番は8年前に最初に指揮したのです」

ブラームスの交響曲第2番をどのように指揮されますか?

「灰色の長い髭を垂らしたブラームスの写真がありますよね? ブラームスの第2番もそういう風に音にするべきでしょうか? 作曲当時、ブラームスはまだ42、3歳でした。今の私より10、11歳しか上ではありません。活力あふれるまだ40代の男性。だから、私は、ブラームスの交響曲第2番を大理石の記念碑のように指揮したくはありません。ブラームスの作品を人間的にするのが私の方法。ブラームスの感情も私たちの感じることも同じだと思うのです。また、ブラームスは過去の作品をとてもよく研究した人でした。ブラームスの交響曲第2番の第1楽章はベートーヴェンの『田園交響曲』の続きにあり、第4楽章はベートーヴェンの交響曲第7番の第4楽章の延長線上にあると思います」

ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番についてはどうですが?

「ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番はハ短調で書かれていますが、モーツァルトもハ短調の協奏曲(第24番)を書いていました。私は、モーツァルトのハ短調の協奏曲によって、感情の深みや構成の可能性など、すべてが変わったのだと思います。ベートーヴェンはモーツァルトのこの協奏曲に取り憑かれていたに違いありません。そしてピアノ協奏曲第3番を書いたのです。同じ、ハ短調で、構成もほとんど同じ。ベートーヴェンの第3番は、モーツァルトの第24番への敬意とともに、それを新しく進化させたものといえます。ブラームスを考えるとき、ブラームスのピアノ協奏曲第1番は、モーツァルトの第24番とベートーヴェンの第3番を継ぐ作品として書かれました。3つの協奏曲は同じ発想で書かれました。そうして、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番が今回ブラームスの交響曲第2番を演奏することにつながるのです」

今回、N響とは初共演と聞きました。

「N響と一緒に音楽ができるのはとても光栄です。記憶に残る体験となるでしょう。私の考えとN響のやり方をブレンドして特別な音楽を作りたいと思います」

最後にメッセージをお願いします。

「地球上で最高の音楽ですから、是非、聴きに来てください。この演奏によって、みなさんのまわりの人々を愛する気持ちが確認できて、楽観的な考えが宿ることを祈ります。楽しんでください」

インタビュー:山田治生(音楽評論家)