第86回

指揮者:アロンドラ・デ・ラ・パーラ

©Leonardo Manzo

―指揮者になろうと思ったきっかけは何ですか?
「私は、小さい頃からオーケストラの音に魅了されていました。大人数の人たちがエネルギーと想像力をもって一つのゴールを目指すというマジックに、当時は何かわからなかったのですが、いつもとても興味があり、そのマジックの一部分になりたいと思いました。それで、ピアノとチェロの勉強を始めました。私はオーケストラの音に惹きつけられ、その後、より多くのオーケストラの音楽を聴いて、オーケストラの音や色に恋に落ちました。
そして、指揮者になり、他の人たちと音楽を奏でるために、活動を始めました」

―最も影響を受けた音楽家や指揮者は誰ですか?どのようなところに?
「私は成長の過程でいろいろな指揮者を聴いてきましたが、カルロス・クライバーに一番敬服しています。細部への注目、繊細さなど、彼の解釈が大好きなのです。すべての指揮の仕草が誠実で、彼が指揮するのを見るのが好きです。実に表情豊かで、まさに彼自身なのです。音楽でも、オーケストラでも、他の誰になろうとするのではなく、自分自身でいようとし、誠実に真摯に関わろうとするその姿勢に、大きな影響を受けています。人真似でなく、自分自身の本来のコミュニケーションを見出すことが、指揮者になるための鍵ではないかと思います。音楽が指揮という身体言語から見えてこなければなりません。指揮者を見るとほとんど音楽が聴こえてくるような。カルロス・クライバーは、指揮のテクニック、音楽に関わるコミュニケーションの方法を身につける上で、絶大な影響を受けました。
 レナード・バーンスタインからも大きな影響を受けました。音楽を分かち合い、他の人たちと楽しみたいと渇望していました。音楽をすることがエキサイティングで面白いことだと教えてくれました。でも音楽を面白くする必要はない。音楽自体がもともと面白いのだから。その興奮を他の人と分かち合い、つなぐことが大事。
 サイモン・ラトルは、この10年ほど、ベルリン・フィルとのリハーサルを見せてもらい、大きな影響を受けました。音楽の愛し方、専心、敬意、そして、音楽家たちを直接に力で従わせるのではなく音楽的な説得力で従わせるコミュニケートの方法など、彼を見ることによって多くを学びました」

―デ・ラ・パーラさんは、メキシコをはじめてとする南北アメリカの音楽の紹介で知られていますが、ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチ、バルトークなど、東欧の近現代音楽も得意とされているとききました。東欧の近現代音楽のどのようなところに共感されますか?
「13歳から16歳にかけて、それらの作曲家のハーモニーや作曲技法での面白さを見つけました。バルトークの魔法のような夜の音など私の大好きなオーケストラの音色です。ショスタコーヴィチのメロディはシンプルですが、チャレンジングです。ストラヴィンスキーは私の大好きな作曲家。独創的な音楽であり、様々なアイデアが並置されています。絵画でいえば、ピカソのようなタイプ。私はそれらの大好きな作曲家たちが東欧だとは意識していませんでした。でも東欧ということでは民族音楽の影響を受けていますね。私は、ドビュッシーの大ファンで、マーラーを指揮するのも大好きです。一般的に言って、リズミックな曲が好きですね。リズムが独創的で面白い曲がただ好きなのです」

―今回、N響との共演にあたって、《春の祭典》を選ばれた理由を教えていただけますか?
「『春の祭典』は、オーケストラにとっても、指揮者にとっても、また聴衆にとっても、最もチャレンジングな曲です。複雑でエキサイティングで素晴らしい曲。でも、たくさんのエキストラ奏者が必要で、ソロは演奏が難しく、若い指揮者にやらせてくれるオーケストラはまれですが、今回、私の申し出に、N響は寛容にも応えてくださり、初共演で私に『春の祭典』を指揮する機会を与えてくれました。リズムがチャレンジングで独創的なこの作品をN響のような素晴らしいオーケストラで演奏できる日が待ち遠しいです」

―《春の祭典》の何に最も魅力を感じますか?
「ストラヴィンスキーの音楽は万華鏡のようだと思います。彼の音楽のすべての細部がアイデアに満ち、その光と色がユニークで美しいのですが、彼がそれらを重ね合わせたとき、彼だけができ、他の誰にも出来なかった美しい狂気が創造されます。私は彼の作曲のテクニックも大好きで、彼はオーケストラの独創的な使い方をしました。そうした彼のオーケストレーションは、彼以降、繰り返されることになりますが。ストラヴィンスキーの音楽は、ときにとても露骨で粗野にもなりますが、私は、『春の祭典』の、大地、自然、実世界とのつながりを感じさせるサウンドが大好きです」

―ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番の聴きどころはどこにありますか?
「ショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番は、チェロを学んでいた13歳のときに心にとまり、何回も何回も聴いて、魅了されました。特に第1主題は聴き手をとらえてやみません。チェロのレパートリーでは最も難しい曲の一つ。私もいつか弾ければと夢見ていましたが、ピアノを弾き、指揮をするようになって、実現しませんでした。日本で演奏できる日が待ち遠しい」

―共演者のナレク・アフナジャリャンについてはご存知ですか? 共演の経験は?
「ナレクと共演したことはありませんが、共演をとても楽しみにしています。私が知っているのは、彼が権威あるチャイコフスキー国際コンクールで優勝しているということ。彼の師匠であるロストロポーヴィチは、ショスタコーヴィチと親交があり、実際、この曲の初演もしています。こういう機会をもらってとても幸せです。彼と会って、彼の演奏を聴いて、彼とコラボレーションすることが楽しみです」

―この演奏会の最初に《牧神の午後への前奏曲》を演奏されますが、フランス音楽では何がお好きですか?
「ドビュッシーは絶対的に一番好きな作曲家です。『牧神の午後への前奏曲』は、和音でもメロディでも管弦楽法でも、音楽の世界を変えた、と思います。私は、この曲のエロティックなところが好きです。すべての旋律が際どく、美しい。その形は理想的で完璧。バルトークなら黄金分割と呼ぶかもしれません。すべての楽器を使った美しいエンディングではイマジネーションが羽ばたき、聴き手はこの世から連れ去られてしまいます。それゆえに、私はこの作品を振るのが楽しみなのです」

―NHK交響楽団との共演は何が楽しみですか?
「N響を指揮することはとても名誉なことです。私は初期の頃、シャルル・デュトワに学んでいて、彼からN響のことはきいていました。最近では、パーヴォ・ヤルヴィがN響についてほめていましたね。N響では私が尊敬するマエストロたちが指揮しています。私はN響をとてもリスペクトしているので、このオーケストラは私を謙虚で、幸せで、エキサイティングな気持ちにさせてくれます。N響の楽員のみなさんとの共演は挑戦であり、とても楽しみです」

―オーチャードホールでは2012年9月に東京フィルを指揮されましたが、オーチャードホールに関しての印象や思い出はありますか?
「私は、日本に来るたびに素晴らしい経験をしています。私は、この国の、文化、食べ物、そして一緒に演奏する音楽家たちが大好きです。いつも日本に戻ってくるととても興奮します。オーチャードホールは、美しく、響きの素晴らしいホール。世界のトップ・オーケストラの一つであるNHK交響楽団との共演が待ち遠しいです。楽しみにしています」

―指揮者という職業はとても忙しいと思いますが、余暇はどのように過ごしてられますか?
「指揮者は、たくさん勉強し、リハーサルの準備し、リハーサルをし、もちろん演奏会を指揮しなければなりません。旅行にも時間をとられます。音楽を豊かにしてくれるのは人生経験です。芸術に触れて表現できるように自分の人生を生きなければなりません。それには、生活と音楽のバランスをとる必要があります。私は、家族といるのが大好きです。一番大切なのは家族や友人。バレエや映画を見たり、クラシック以外の音楽を聴くのも好き。トレーニングが大好きで、体を鍛えて、体型を保つようにしています。」

―1月のコンサートに来られるお客さんにメッセージをいただけますか?
「私は日本に戻ってきて、飛び切り素晴らしいN響を指揮する名誉とプレッシャーに興奮しています。そして日本の聴衆と親しみを共有したい。すべて私の大好きな曲ですから、素晴らしい体験となるに違いありません。ホールでお会いできることを楽しみにしています」