舞台上には、ロンドンのグローブ座を模したセット。しかし、その荘厳なイメージは開幕と同時に、宇崎竜童の威勢のいい音楽とともに流れ込んで来た天保時代の百姓たちによってぶっつぶされる! 「従来の日本での権威主義的なシェイクスピアの受容のされ方に違和感を感じていた」という蜷川の意志を明確に感じる象徴的な場面である。

 NINAGAWA VS COCOONのファイナルとして、そして公演中に70歳を迎える蜷川のアニバーサリー的な公演として幕が上がった本作。蜷川作品のオールスターが、次から次へと舞台に登場するのはやはり圧巻である。目に妖気を漂わせ悪の魅力で観客をもひきつける唐沢寿明、躍動感あふれるはじけた演技の藤原竜也、そして生き別れた双子の姉妹で可憐さと男勝りなキャラクターを鮮やかに演じ分ける篠原涼子……出演者すべてが気合いの入った演技で公演を盛り上げる。シェイクスピア作品の登場人物をもとにしながらも、井上ひさしの“言葉”がつくりだした新たな人物像。俳優たちは実に楽しそうに、生き生きとそれを演じている。彼らが出演する舞台を何度もみてきたはずなのに、この公演ではまた新たな表情をいくつも見せてくれ、その芸達者ぶり、俳優としての引き出しの多さには驚かされた。また蜷川も今年の歌舞伎『十二夜』で得たと思われるような演出なども引っ張りだし、演出も演技も“出せるものをすべて出し尽くした!”といった感じ。思わず一緒に口ずさみたくなる親しみやすい宇崎竜童の音楽も、井上ひさしの詩にピタリとはまっている。
 とにかく観客に4時間という上演時間の長さを全く感じさせない、戯曲、演出、俳優たちのパワーはスゴイ! 初日は観客の熱狂的なスタンディング・オベイションによって幕を閉じた。これから約2か月、シアターコクーンは毎日大きな拍手で包まれるに違いない。
text by 山下由美(フリーライター)
photos by 谷古宇正彦


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