速報!稽古場レポート

廃校となった中学校の体育館が「天保十二年のシェイクスピア」の稽古場。ロンドンのグローブ座を再現したセットのなかに、さらに天保時代の純日本風のセットが用意されている。
この日の稽古は、唐沢寿明が演じる佐渡の三世次が、勝村政信演じる尾瀬の幕兵衛を陥れる場面から始まった。病に臥せった幕兵衛の看病をかいがいしくする夏木マリ演じるお里。そこでいきなり夏木は口移しで勝村に水を飲ませるアドリブをはさみ、稽古場は笑いに包まれた。静かに、大人の芝居を続ける俳優陣。シーンが終わったところで、いつもは徹底的にリアルを求める蜷川が意外な要求をした。「これは“世界はもっと混沌として猥雑なんだ”と、井上さんがシェイクスピアのシリアスなセリフを排除した本。理知的な芝居じゃなくて、もっと欲望をあらわにした三池(崇史)映画のような雰囲気を出して欲しい」。このシーンでだけでなく、蜷川は執拗に同じようなことを繰り返し要求した。その蜷川の要求に応えようと、俳優たちはさまざまな演技を試す。
演技のことだけでも、まだ手いっぱいなのに、今回は歌も踊りもある。稽古場の隅では次のシーンの歌の確認や、振付けが急ピッチで進んで行く。ストレートプレイを中心にしている俳優陣たちにとっては、これはかなり大変な作業。舞台転換も多く、段取りも色々と確認する必要がある。出演者・スタッフは大変だが、これを観客として見るのはかなり贅沢。場面が転換するごとに、蜷川作品を盛り上げて来た名優たちが次々と登場し、息つく暇もない!とにかく早く本番を見てみたくなった。

text by 山下由美(フリーライター)
photos by 谷古宇正彦

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