1962年頃のフランス・パリ「ドゥマゴ」

パリ左岸、サンジェルマン・デ・プレから届いた、文学のエッセンスとコーヒーの香り

「ドゥマゴ」を見守る二体の中国人形

パリで現存する最古の教会、サンジェルマン・デ・プレ教会の向かい、グリーンの庇が眩しいカフェ「ドゥマゴ」。店名の由来となった"二体の中国人形(ドゥマゴ)"は創業当時と変わらず店内を見守っています。

 「ドゥマゴ」はもともと布地や絹製品を扱う「最新流行服飾店」として1813年に開店しました。店名は、創業当時ヒットしていたマルセル・セヴランの戯曲『レ・ドゥマゴ・ド・ラ・シヌ』からとられたのだとか。「中国の二つの陶器人形」という意味の通り、店内では二体の中国人形が出迎えてくれます。

 その後、服飾店としての「ドゥマゴ」は買収により一時的にその名を消し、1884年カフェとして改めて創業されます。その頃、パリの中心地、セーヌ川の南に位置する6区には、新進出版社のグラッセ社、ガリマール社等が進出。1910年代になると、この地区に多くの編集者、作家、ジャーナリスト等が集まるようになってきます。

 カフェ「ドゥマゴ」にも、ポール・ヴェルレーヌ、ステファヌ・マラルメなど多くの作家や芸術家たちが通い始めます。オスカー・ワイルド、マックス・エルンスト、ポール・エリュアール、シンクレア・ルイス、アーネスト・ヘミングウェイ、ジェイムズ・ジョイス、ジャン=ポール・サルトル、シモーヌ・ド・ボーヴォワール、パブロ・ピカソ……この店に通った著名人の名をあげていけばキリがないでしょう。数え切れないほどの人々が、コーヒーの香り漂うこの店に集まり、議論することを楽しんでいました。

第一回「ドゥマゴ賞」選考委員会の面々

 1933年、「ドゥマゴ」の名を大きく広める一つの転機が訪れます。店の名を冠した文学賞「ドゥマゴ賞」が誕生したのです。フランスの権威ある文学賞「ゴンクール賞」がアンドレ・マルローの『人間の条件』に与えられたその日、「ドゥマゴ」の常連客だったマルティーヌとロジェ・ヴィトラックが「自分たちの手で独創的な若い作家に文学賞を贈ろう」と思い立ちます。その日の夕方には、常連客の中から13名の選考委員が選ばれ、挙手による投票でレーモン・クノーの処女作『はまむぎ』が第一回「ドゥマゴ賞」の受賞作に決定しました。以降、80年以上経った現在に至るまで賞を贈り続けています。

Bunkamura「ドゥマゴパリ」

 1989年、「ドゥマゴ」初の海外業務提携店として誕生したBunkamuraの「ドゥマゴパリ」。フランスのカフェ文化を伝える存在として多くのお客様に愛されています。

 また、1990年には「ドゥマゴ賞」のユニークな精神を受け継ぎ、先進性と独創性ある新しい文学の可能性を探るべく「Bunkamura ドゥマゴ文学賞」が創設されました。毎年変わる"ひとりの選考委員"が選ぶ受賞作は、その組み合わせも含めて毎年話題を集めています。

伊藤比呂美氏
©吉原洋一

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Prix des Deux Magots Bunkamura
『ドゥマゴサロン 第11回文学カフェ』

Bunkamuraドゥマゴ文学賞では、作家と親密な空間を共有して文学に親しんでいただく『ドゥマゴサロン 文学カフェ』を開催。次回7月25日は、第24回Bunkamuraドゥマゴ文学賞選考委員の伊藤比呂美氏(詩人)が枝元なほみ氏(料理研究家)と対談します。

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