[左]ラウル・デュフィ《クロード・ドビュッシーへのオマージュ》 1952年 油彩、カンヴァス アンドレ・マルロー近代美術館、ル・アーヴル ©Florian Kleinefenn
[右]ラウル・デュフィ《ヴァイオリンのある静物:バッハへのオマージュ》 1952年  油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター ©Centre Pompidou, MNAM-CCI, Dist. RMN-Grand Palais / Jean-Claude Planchet /distributed by AMF

ピカソやマティスなどとともに、20世紀前半にフランスで活躍した画家、ラウル・デュフィ(1877-1953)。地中海のまばゆい光と開放的な風土、演奏中のオーケストラや行楽地の風景を主題とした作品でその様式を開花させたデュフィが、故郷ル・アーヴルを出てパリ国立美術学校に入学する1899年から晩年に至るまでを紹介する回顧展。充実した油彩作品の数々に加え、水彩、版画、テキスタイル・デザイン、家具、陶器も紹介され、この画家の全貌に迫る内容となっている。

花、音楽、リゾート。デュフィに感じる、アール・ド・ヴィーヴル。

 軽妙、洒脱、色彩の輝き。このような言葉で語られるラウル・デュフィは、独自の画風によって多くの人々を魅了し、20世紀フランス絵画を代表する巨匠の一人としての地位を獲得しています。また絵画だけでなく、服地のデザインから家具のファブリックや陶芸まで手掛けた多才さは、デュフィがアール・ド・ヴィーヴル=暮らしの芸術、つまりフランス式の素敵なライフ・スタイルの実践者であることの証であり、そのことが彼の作品世界に奥行きと魅力を加えているのです。

 印象派の巨匠クロード・モネと同郷の英仏海峡を望む港町ル・アーヴルの出身。パリに出て本格的な活動を始めた頃は印象派風の作品を描いていましたが、その後は原色使いのフォーヴィスムの影響を受け、セザンヌからも触発されながら、自らのスタイルを築いていきました。そしてファッション・デザイナーのポール・ポワレとの出会いも、デュフィに新たな境地をもたらしました。

 肩の力を抜いた感じのユニークな作風で描かれた円熟期の作品。その主題に目を向けると、花、競馬、ヨット、リゾート地、音楽、室内などといったテーマが頻繁に取り上げられていることがわかります。そこからはデュフィを取りまく上質な暮らしぶりがうかがえるとともに、「うまし国フランス」とはどんなものであるかを私たちに伝えてくれます。アール・ド・ヴィーヴル。それはジョワ・ド・ヴィーヴル=生きる喜び、生活の喜びにつながり、フランスを、そしてデュフィの世界をよりよく知るキーワードなのです。
(ザ・ミュージアム学芸員 宮澤政男)

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