渋アート

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2024.04.24 UP

特集

渋アートと巡る ── 山種美術館

渋谷周辺の日本美術を楽しめる美術館や文化施設を、様々な角度からご紹介するシリーズ。
第1回は、渋谷区広尾にある日本初の日本画専門美術館「山種美術館」の魅力に迫ります。

 


 

近代・現代の日本画の殿堂・山種美術館へ

恵比寿駅から、渋谷橋を渡り、駒沢通り沿いを上っていくと、約10分で右手に、短冊状の外壁が美しい山種美術館の建物が見えてきます。

特徴的なビルの外観は、恵比寿駅方面からと六本木通り方面からでは違った顔が見られます。
画像の右手が恵比寿駅方向。美術館近くで降りられるバスが恵比寿駅と渋谷駅から出ています。

 

2009(平成21)年に、日本橋兜町から千代田区三番町への仮移転を経て、この地に新築・移転した同館は、山種証券(現・SMBC日興証券)の創立者・山﨑種二氏(1893-1983)の個人コレクションをもとに、1966(昭和41)年に開館した日本初の日本画専門美術館。「絵は人柄である」を信念に、種二が画家との交流を深めながら集めた日本画は優品ぞろいで知られています。たとえば種二と大変仲が良かった横山大観の富士山を描いた名品《心神》や、まだ売れない頃から種二が目をかけた画家・奥村土牛の《醍醐》。
そして若くして亡くなったこともあり、会うことはかないませんでしたが、速水御舟の作品は、安宅産業旧蔵から105点を一括購入したものとあわせて120点にのぼり、そのなかには《炎舞》や《名樹散椿》という重要文化財が含まれています。

 

大理石のロビーは非日常へのアプローチ

山種美術館のロゴは、山﨑種二氏からの依頼を受け、日本画家、安田靫彦が揮毫した書。
日本橋兜町時代から引き継がれ、現在は1階受付とB1階展示室入口の2か所に看板が設置されています。

 

そんな近代・現代の日本画の殿堂、山種美術館に足を踏み入れると、まず正面に見えるのは、加山又造の陶板壁画《千羽鶴》。漆黒の背景に黄金の鶴が舞い飛ぶゴージャスな作品が、来館者を美の世界へと誘います。ロビーは、床だけでなく壁面までも大理石が覆う落ち着いた空間。アンモナイトなどの化石がところどころに確認できるこの大理石は、種二の孫娘で現在の三代目館長・山﨑妙子氏が、1枚1枚選んだのだとか。日本画の美術館らしく和服でいらっしゃるお客様も多いため、着物が映える上品で落ち着いた色味の大理石が使われています。

展示室へはエレベーターでも。作品を搬出入する際に使用することもあるため通常より高さがあります。
エレベーターの床にも大理石が使われていますので、乗る機会があったらチェックしてみてください。

 

地下の展示室へ向かう階段もやはり大理石製。非日常の世界へのアプローチとして、意図的に照明を落とした荘厳な吹き抜けの空間に、来館者の胸はおのずと高まります。

 

こんなにも豊か! 多彩な日本画の世界

階段を降り、展示室に入ると、そこは美しい日本画が競演する別世界。約1,800点ものコレクションから厳選した作品を中心に構成する企画展が、年間5~6回開催されています。取材をさせていただいたのは、特別展「花・flower・華 2024」(2024年3月9日~5月6日)の会期中とあって、展示室は一際華やいだ雰囲気。はんなりとしたしだれ桜が心に沁みる奥村土牛の《醍醐》を筆頭に、妖しくも美しい福田平八郎の《牡丹》、同館には珍しい洋画家・梅原龍三郎の油絵《薔薇と蜜柑》などが、大きな第一展示室を彩っていました。

館内のフリーWi-Fiを利用したコンテンツも充実。音声ガイドも無料で利用できます。
1階のカフェで楽しめるオリジナル和菓子のモチーフになった作品は、作品のキャプションに和菓子のマークがついていますのでこちらもチェック!

 

照明から展示の仕方にいたるまで、作品を最大限に美しく、クリアに見せる配慮がなされた展示室ですが、とくに興味深かったのは、掛け軸を個々にアクリルのカバーで覆う、同美術館独自の展示ケースです。側面も透明性の高いアクリル製。金箔や銀箔のきらめきや、岩絵具の微妙なニュアンスなど、正面から見ただけではわからない繊細な美しさを、ぜひ様々な角度から楽しんでください。

日本画の持つ繊細な美しさを余すところなく体感できるよう工夫された展示室内。それぞれの作品が最高の状態で鑑賞できるように配慮されています。写真では再現しきれない精緻な筆運びや色遣いはぜひ美術館でご覧ください!

 

小さな第二展示室は、美術館の顔ともいうべき重要文化財の速水御舟《炎舞》を展示することを想定して設計したとも。現在は、その時々の企画展にあわせて様々な作品を展示していますが、《炎舞》が出品される際は、こちらに展示するそうです。
燃えさかる炎に引き寄せられるように舞飛ぶ蛾を描いた御舟の傑作《炎舞》は、炎や蛾を浮かび上がらせる背景の深い闇の色もポイント。御舟が「二度と出せない」と言ったという、“「とらや」の羊羹のような”微妙な色合いを間近で鑑賞できます。もしこの作品が展示されていたらお見逃しなく!

 

鑑賞後のお楽しみ、ミュージアムショップ&カフェ

山種美術館のミュージアムショップは、コレクションをモチーフにしたオリジナルグッズなど、日本画を身近に感じることができる普段使いしやすいグッズが豊富。同館では第一展示室と第二展示室をつなぐ同フロア内にショップが設置されているので、購入を迷った時に、気軽にショップと展示室を行き来できます。作品の余韻をより深く味わいながらお買い物を楽しめます。

所蔵作品をデザインしたオリジナルグッズを豊富に取りそろえたミュージアムショップは、美術館の中の、もうひとつの美術館。お気に入りの作品をグッズとして手元に置いておくことができます。

 

速水御舟《名樹散椿》にちなんで名づけられた「Cafe椿」のロゴは御舟の字によるもの。

またミュージアムカフェで過ごすひとときも、展覧会鑑賞のお楽しみのひとつ。美術館1階ロビーに併設された「Cafe椿」では、展覧会ごとに作品にちなんだ5種類の和菓子が提供されています。つくっているのは青山にある和菓子の老舗「菊家」さん。素晴らしい日本画と美しくも美味しい和菓子のコラボレーションは、美術館で過ごした時を、より豊かなものにしてくれるでしょう。

奥村土牛《醍醐》をモチーフにした「ひとひら」と抹茶のセット。柚子餡の緑と桜の花びらをかたどったピンクの色合わせが美しく、元になった作品をまた観たくなります(展示室へは当日に限り再入場可能です)。



小林古径《白華小禽》をモチーフにした「はなの香り」(手前)と、速水御舟《和蘭陀菊図》をモチーフにした「まさり草」(奥)。2個からテイクアウトもできるのでお土産にも。

 

◆◇◆渋アート的視点◆◇◆

山種美術館の展示空間は比較的コンパクト。ワンフロアで、質の高い日本画をじっくり鑑賞できるので、大きな満足感を得られることでしょう。

2024年3月訪問

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取材・文/木谷節子
アートライター。「ぴあ」「THE RAKE」などをはじめとする雑誌、ムック、 情報サイトで、アートや展覧会に関する記事を執筆。近年は「朝日カルチャーセンター千葉」で絵画講師としても活動中。

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[展覧会情報]
2024/3/9(土)~5/6(月・祝)
『【特別展】花・flower・華 2024 ―奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら―』

[山種美術館 最新情報]
山種美術館ホームページ(外部サイトに遷移します)

 

\ 山種美術館周辺を歩いてみませんか? /
文化が薫るまち歩き -山種美術館編-〈恵比寿・広尾エリア〉は こちら>