2025.05.02 UP
文化と暮らしと渋アート。―磁器を愛した“妃たち”と今をつなぐ“西洋”の菓子―(2/2ページ)
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●華やかな西洋磁器の誕生-松濤美術館『セーヴル フランス宮廷の磁器』
そんな美しく品質のよい高級品であった憧れの東洋磁器を「何とか自分たちでもつくりたい」と考えたヨーロッパの王侯貴族たちは試行錯誤をくり返し、アウグスト強王のマイセン窯をはじめ、各国で磁器の製作に取り組みました。今回、松濤美術館『セーヴル フランス宮廷の磁器』で展示される数々の名品を生み出したセーヴル窯もそのひとつです。
フランス国内では、18世紀半ば過ぎまでカオリンを発見できませんでしたが、様々な研究の末、ガラス成分(珪砂・石膏・ソーダのガラス成分)に石灰・陶土を加えてつくる白いやきものの製造に成功します。
中国磁器や伊万里焼などカオリンを使用した磁器を「硬質磁器」と呼ぶのに対し、ガラス成分を使用したフランス磁器は「軟質磁器」と呼ばれ、熱や水分に弱くて壊れやすく、大きな作品をつくれない、という欠点がありましたが、上絵具の発色が大変美しく、豊かな色彩の作品を生み出すことができました。1768年にフランス国内でカオリンが発見され硬質磁器の製造が可能になったあとも、その色彩の美しさは愛されつづけ、硬質磁器と並行して軟質磁器の製造が続けられたほどでした。
松濤美術館『セーヴル フランス宮廷の磁器』より《色絵金彩花文台付皿》
1758年 Masa’s Collection蔵 H2.8×D22.8cm
正餐のデザートサーヴィスに供されるシャーベットなどの冷菓用アイスカップを並べるスタンド。花と緑のリボンを配したエレガントな意匠で、1758年にマリア・テレジアに贈られたサーヴィスのひとつとされています。
■オーストリアで生まれたフランスの妃たち
松濤美術館『セーヴル フランス宮廷の磁器』の展覧会タイトルにもなっているフランス宮廷に関わる3人の妃のうち、マリー=アントワネット(1755~1793年)とマリー=ルイーズ(1791~1847年)は、ともにオーストリア・ハプスブルク家の出身です。マリー=アントワネットは、先ほど紹介した女帝マリア・テレジアの娘、マリー=ルイーズはマリア・テレジアのひ孫で、マリー=アントワネットは大叔母にあたります。この2人の妃は政略結婚により、ともに若くしてフランスのファーストレディとなりました。
松濤美術館『セーヴル フランス宮廷の磁器』より《臙脂地色絵金彩真珠花文皿》
1784年 Masa’s Collection蔵 D18.1×13.2cm
「マリー=アントワネットの豪華な縁取り」とも呼ばれたサーヴィスのうちの1点。当初、王妃マリー=アントワネットのために注文されましたが、ルイ16世がグスタフ3世への贈り物にしたために、王妃には同じものがまたすぐ作られたという逸話があります。
●ウィーンとハプスブルク家の歴史とともに今も愛される老舗洋菓子舗
そんなオーストリア・ハプスブルク家出身の2人のフランスの妃が生きた時代に、同じオーストリア・ウィーンで創業し200年以上経った今もなお伝統をつなぎ、世界の人々の舌を楽しませる洋菓子舗があります。
1786年、菓子職人のルートヴィッヒ・デーネが、ウィーンの王宮劇場の向かいに小さな店を出しました。ルートヴィッヒの菓子店は彼の息子を経て、当時の職人長であったクリストフ・デメルに譲り渡され、彼の名を冠した店名を付けました。それが、チョコレートやザッハトルテで有名な『DEMEL(デメル)』です。
ウィーン・デメル本店。重厚感のある店内は、ウィーンとデメルの歴史を感じる雰囲気です。
『デメル』のお菓子は時の皇帝や王侯貴族の舌を大いに喜ばせ、ついには1799年ウィーン王宮御用達菓子司に指定されました。その時からハプスブルク家の紋章をブランドマークに掲げており、その店は1888年に移転してから現在まで、歴代皇帝の居城であり政治の拠点でもあったホーフブルク宮殿を正面に望む路地にあって、『デメル』と王宮との深い関わりを感じさせます。
デメルのブランドマーク。ブランドマークには「双頭の鷲」が描かれ、ロゴには「宮廷御用達の菓子店」という意味の「K.u.K.HOFZUCKERBÄCKER」という文字が記されています。
「1786年ハプスブルク家ゆかりの地で生まれたカフェ・コンディトライ『デメル』。
オーストリア皇帝として長きにわたりヨーロッパに君臨したハプスブルク家の紋章を今もブランドマークとしていただいておりますように、その歴史はまさにウィーンの歴史、ハプスブルク家の歴史とともにあります。そして230年以上の時を経た今でも、ウィーンの老舗洋菓子舗として、世界の人々に愛され続けています。」(デメル担当者)
カフェ・コンディトライとは、自家製のケーキなどの菓子を販売する店舗にカフェが併設されたヨーロッパの伝統的なスタイルのお店のこと。「カフェの都」と呼ばれるほどカフェ文化が根付くウィーンで生まれた『デメル』が今もなお愛されているのは、数々の妃を輩出した名門・ハプスブルク家の人々をも虜にした洗練された菓子づくりの歴史とともにあるからかもしれません。
■磁器と妃たちの歴史に想いを馳せながら、余韻にひたるひととき
今回ご紹介した2つの美術館の展覧会を鑑賞した後に立ち寄れる『デメル』のショップが、渋谷スクランブルスクエア にあります。西洋で愛された東洋と西洋の磁器の魅力をたっぷり堪能したあとは、妃たちが生まれ育ったオーストリア・ウィーン生まれのお菓子をいただきながら、磁器と妃たちの歴史に想いを馳せてみるのもいいかもしれません。
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●《デメル担当者 おすすめ》渋谷で買える、ウィーンの老舗のお菓子たち
◇ソリッドチョコ猫ラベル
ソリッドチョコ猫ラベル(スウィート・ミルク・ヘーゼルナッツ)
価格:各2,268円(本体価格2,100円)、内容量:各105g
「ソリッドチョコ猫ラベルは、ウィーン・デメル本店にも古くからある商品で、長くウィーンの人々に愛されてきました。金色の舌の猫のパッケージに描かれている文字は『ラングドシャ(猫の舌)』ではなく、『ラングドレ(黄金の舌)』となっており、黄金の舌といった猫の舌とチョコレートのなめらかな口どけをかけた、エスプリを感じさせるパッケージになっております。」(デメル担当者)
◇サワークッキー
サワークッキー
価格:2,376円(本体価格2,200円)、内容量:30枚入(オニオンペッパー・トマトバジル・スモークチーズ各10枚入)
「ほのかな甘さの中に、チーズやスパイス、ハーブをきかせた塩味のクッキーです。ウィーン・デメル本店の『サワークッキー』をアレンジして食べやすいクッキーに仕上げました。」(デメル担当者)
セーヴル磁器のような華やかなカップ&ソーサーでコーヒーを飲みながら、あるいは伊万里焼のようなオリエンタルな茶器でお茶を飲みながら、ウィーン伝統の味とともに、展覧会の余韻にひたってみてはいかがでしょうか。
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■今回ご紹介した展覧会
渋谷区立松濤美術館
『妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器 マダム・ポンパドゥール、マリー=アントワネット、マリー=ルイーズの愛した名窯』
2025年6月8日(日)まで
戸栗美術館
『西洋帰りのIMARI展-柿右衛門・金襴手・染付-』
2025年6月29日(日)まで
■今回ご紹介した商品の購入方法
\渋谷で買える/
デメル 渋谷スクランブルスクエア内 東急フードショーエッジ店 ※外部サイトに遷移します
(JR・東京メトロ・東急線・京王井の頭線渋谷駅直結 渋谷スクランブルスクエア ショップ&レストラン1階)
※デメル各店舗でもお取扱いがございます。くわしくは各店舗へお問合せください。
\オンラインでも/
東急百貨店ネットショッピング『デメル』 ※外部サイトに遷移します
取材協力:デメルジャパン株式会社、株式会社東急百貨店
参考:デメルジャパン公式サイト(https://demel.co.jp/) ※外部サイトに遷移します
参考資料:
大橋康二. 海を渡った古伊万里 : セラミックロード, 青幻舎, 2011, 143p.
大橋康二、日本経済新聞社. パリに咲いた古伊万里の華, 日本経済新聞社, 2009, 191p.
関田淳子. ハプスブルクプリンセスの宮廷菓子 : スウィーツに秘められたプリンセスたちの素顔と王宮の舞台裏, 新人物往来社, 2007, (別冊歴史読本 ; 第32巻15号).
公益財団法人 戸栗美術館. 『西洋帰りのIMARI展-柿右衛門・金襴手・染付-』パネル資料集, 公益財団法人 戸栗美術館, 2025, 31p.
ペーター・パンツァー. マリア・テレジア古伊万里コレクション展, ササキ企画, 1998, 120p.
松村真希子、矢島律子編. 『妃たちのオーダーメイド セーヴル フランス宮廷の磁器-マダム・ポンパドゥール、マリー=アントワネット、マリー=ルイーズの愛した名窯-』, AsHI, 2025, 163p.
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\両展の担当学芸員さんたちがお互いの展覧会を鑑賞!/
渋アート施設おすすめ周遊プラン-東洋と西洋の磁器の魅力を堪能 2ー学芸員さんが語る、鑑賞のポイント
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