
現代オペラ界の新しい磁力源、ロッシーニ・オペラ・フェスティバル。
昨年8月にイタリア・ペーザロで上演された「オテッロ」をもとに、仮想劇場をご用意しました。
次から次へと惜しみなく繰り出される甘美な旋律。歌手の力を限界まで引き出す濃厚なアリア。一度聴けば強く心に残り、思わずくちずさんでしまうような歌の数々を、ロッシーニならではの機知に富んだ芳醇なオーケストレーションが彩ります。
歌唱芸術の極致、ロッシーニ・オペラの悦楽の世界へ、ようこそ!


軽やかな序曲が響く舞台には、12個の扉からなる舞台セット。
この扉が生き物のように動き、次々と空間の表情を変えていきます。それはあたかも、日本家屋の障子やふすまが空間を自在に区切り、寝室や広間、茶室などの多彩な場を演出してきたのをほうふつとさせます。
扉がすべて壁におさまった状態だと、アドリア海の大海原が屏風画のように広がります。しかし、扉がいったん壁を抜け出して動き出せば、総督の広間や庭園、決闘場、奥の間へと、様々な空間を作り出していきます。空間を分かち、つなげる「扉」を深く見つめ、そこから大きな想像の翼を広げさせるジャンカルロ・デル・モナコの演出は、大きな見所のひとつとなっています。


トルコとの戦いに勝利したベネチア艦隊の将軍オテッロがベニスに凱旋し、戦功をたたえる民衆に迎えられます。しばしば偏見の対象とされるムーア人(アフリカ出身の異国人)であるオテッロに、総督は武勲としてベニスの市民権を与えます。オテッロはこれに大いに満足するのですが、実は、心の中には大きな心配事を抱えていました。それは、ベネチアの貴族エルミーロの娘、デスデーモナと秘密裏に交わした結婚の誓いです。異国出身の有色人種であるオテッロは、父親であるエルミーロや周囲の人々の偏見に打ち勝って、美しいデスデーモナとの結婚を実らせることができるのか?
オテッロはアリアで、焦がれる心を歌います。

総督の息子ロドリーゴと、オテッロ配下の将校ヤーゴが話し合っています。
デスデーモナに横恋慕するロドリーゴは、デスデーモナがオテッロと結ばれてしまうのではないかと、やきもきしています。そんなとき、オテッロに面従腹背するヤーゴは、一通の手紙をとりだし、「これを使って、オテッロを陥れることができる」とロドリーゴに持ちかけます。その手紙は、デスデーモナがオテッロにあてて書いたのですが、父エルミーロに見つかってしまい、その際にロドリーゴ宛てと誤解されてしまったものだったのです。しかも、なぜかそれがヤーゴの手に渡っていました。
この手紙を悪用すれば、オテッロを陥れられるかもしれないとの計画を話し合って、ロドリーゴとヤーゴは意気投合します。状況をくつがえらせるかもしれない期待にふくらむ胸の内を、二重唱で歌います。

貴族エルミーロの館の一室。
男たちが力強く歌い上げた場面から雰囲気はがらりとかわり、女性の踊り手たちによる華やかな踊りに続いて、ヒロインのデスデーモナが侍女のエミーリアとともに登場します。
デスデーモナは、父エルミーロが異国人オテッロをきらっていることへの不安や、オテッロあての手紙を父に奪われ、ロドリーゴ宛てと勘違いされてしまったことなどを心配していると打ち明けます。
2人は、愛の行方に気をもむ女性の心を、優美な旋律の二重唱で歌います。 |
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第1幕のフィナーレで、デスデーモナの不安は最悪の形で現実となってしまいます。父エルミーロは、総督の息子ロドリーゴにデスデーモナを嫁にやると約束し、デスデーモナとロドリーゴとの婚礼の式典を強引に開きます。相手がロドリーゴと聞いて悲嘆にくれるデスデーモナ。その様子をみてロドリーゴは傷つきながらも、デスデーモナに自分を愛してくれと語りかけます。
そこへオテッロが登場。ロドリーゴとデスデーモナの婚礼が開かれていることに驚き、怒りを隠せません。オテッロは進み出て、デスデーモナに愛の誓いを思い起こすように語りかけます。
オテッロへの敵対心をむき出しにするロドリーゴ。エルミーロは、ロドリーゴを受け入れようとしないデスデーモナの不服従に怒ります。オテッロとデスデーモナの愛の行方はいっそう不透明さを増し、敵対と悲しみ、嘆きが渦巻くなか、登場人物全員の合唱で第1幕は幕を閉じます。