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ニール・ウエストモーランド&ホセ・ティラード |
2月22日、「白鳥の湖」東京公演がついに開幕の時を迎えた。
2年前の来日公演の際にも感じたことだが、いま改めて深く実感するのは、オーチャードホールという場所に、チャイコフスキーのこの楽曲が実によく似合うということ。甘美に、悲痛に、あくまでドラマティックに鳴り響く音楽が劇場空間を満たす中、男性ダンサーたちがエネルギッシュに繰り広げる白鳥の群舞の生のド迫力に、何度観ても息を飲むような驚きを感じずにはいられない。群れとしての迫力に加え、一羽一羽の個性、ダンサー一人一人の表現の違いにもぜひ注目していただきたいところだ。
もちろん、抱腹絶倒の劇中バレエや、個性派キャラの面々が大活躍するスワンク・バーの場面、そして華やかな舞踏会のシーンなど、それ以外にも見どころは尽きることがない。数回の観劇ですべてのポイントをおさえることなど到底不可能なのが、このマシュー・ボーン版「白鳥の湖」の奥の深さ、名作たるゆえんだ。 |
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ジェイソン・パイパー&クリストファー・マーニー |
優雅な踊りを見せる長身のホセ・ティラード、シャープな踊りで個性的なオーラを放つジェイソン・パイパー、二名の“ザ・スワン”ダンサーのそれぞれの魅力については何度もふれてきたところでもあり、今回は、このプロダクションの作品世界を深めるのに大きな貢献をはたしている、優れた王子役ダンサーたちについて記しておきたい。クリストファー・マーニー、ニール・ウエストモーランドとも、それぞれの初日から抜群の出来栄えを見せている。子供のように自由で無垢な魂を、白鳥との出会いによってすがすがしいほどに解き放ってゆくクリス。それまでの人生でつかみあぐねていた自己を白鳥の姿に見出し、自分という存在をつかまえるために一心に踊るニール。もちろん、解釈は個々の観客に委ねられているが、それぞれに味わい深い二人の役作り、そして豊かな表現力が、作品の魅力を一段と高めていることは間違いない。この後、繊細な心理描写に定評のある首藤康之が登場し、どんな王子の演技を見せてくれるのか、楽しみでならない。 |
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ホセ・ティラード&ニール・ウエストモーランド |
それにしても、マシュー・ボーン版「白鳥の湖」という作品との出会いは、王子と白鳥との出会いの衝撃にも似ている。美しく舞う白鳥の姿を見つめる王子の姿に、この作品の美しさに魅せられ、客席で固唾を飲んで見守る自分の姿を見る思いがする。王子が白鳥との出会いによって変化を遂げずにはいられなかったように、この作品は必ず、観る者の人生に変化をもたらしてくれる。そして、そのような力をもった作品は、この世にそうそう存在するものではない。これ以上、どんな言葉もいらない。ぜひ劇場で、あなただけの「白鳥の湖」体験を胸に刻んでほしい。
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text by 藤本真由(フリーライター)
photos by 瀬戸秀美© |