稽古場の模様を動画でレポート
  出演者は30人以上。レストランの厨房を舞台にした『KITCHEN キッチン』の稽古場は本当に賑やかだ。稽古場の中央につくられたのは、調理台や冷蔵庫、調理器具がずらーっと並ぶオープンキッチン。本番と同じように、前方からも後方からも演技がチェックできるように演出部の席が設けられている。壁にはそれぞれが担当するメニューが写真入りで張り出され、稽古が始まる前からそれぞれが持ち場でトレーニングを繰り返していた。本番では台本に指定されているように、本物の食材は一切使われないのだが、ひとつひとつの動作をきちんとマイムができるようにと稽古期間の前半では何度か本物の食材を使って稽古が行なわれた。
  飲食関係で働いた経験のある人ならわかるだろうが、ランチタイムなどのピーク時の調理場は戦場さながら。それを芝居でリアルに表現しようというのだから、段取りは恐ろしく多い。スープ担当、フライ担当、肉担当、魚担当…などの持ち場がそれぞれの小さな舞台と考えると、それらをまとめてどーんと舞台に上げてしまったようなもので、当然そこにはエキサイティングな空間ができあがる。レストランでオープンキッチンをながめているようなワクワク感がいっぱいだ。
  稽古されていたのはランチタイムの場面。ここで驚いたのは、蜷川がマイムに求めた厳密さである。例えばウェートレス役が魚のフライを8つ頼んだら、担当のコック役はきちんと8つの注文をこなすマイムをしなければならない。ウェートレスはひっきりなしに注文をしにやってくる上に、ストーリーを追わなくてはならない観客はそんなところまでチェックできないはずだ。それでもマイムの辻褄が本当にあっているのかを把握するために、段ボールや紙でダミーの料理がつくられ芝居のなかで本当に注文がこなせるのかが何度もチェックされた。これには調理のマイムになれていない俳優たちはパニックに!必死で注文をさばく様子は芝居ではなく、本当にあせっていたのかも!?
 それから1週間程して、再び稽古場を訪れた。まず驚いたのは俳優たちのマイムが板について来たこと。立ち振る舞いがコック、ウェートレスらしくなっている。稽古されていたのは台本の後半。この日、蜷川から多くのアドバイスを受けたのが蜷川作品初参加となる長谷川。「今日は長谷川dayだ!」という蜷川の言葉とともに、色んな注文が出される。これまでの稽古ではほとんど指示をされていなかったが、蜷川の演出に必死に応えようとする長谷川を蜷川はうれしそうに見守っていた。また成宮にもアドバイスが。「演技に成宮自身がもっている、人の良さが出てしまっている。(成宮が演じる)ペーターは物事を斜めから見ているようなやつなんだ」と、蜷川が実際に演技をしてみせるという演出が何度か見られた。そうやってセリフの演技を見ながらも、セリフをしゃべっていない俳優たちへの演技にも細かな注文が飛ぶ。これまで蜷川のレパートリーにはなかったタイプの群像劇だけに、早く劇場での本番が見たい。仕上がりには期待して良さそうだ。
text by 山下由美(フリーライター)
協力:WOWOW


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今回、調理指導をはじめ、色々とご協力いただいた服部栄養専門学校の服部幸應先生が、稽古場にいらっしゃ いました。第1幕の稽古をご覧になり、コック役の 俳優たちのパントマイムの手際の良さに感心されて いました。

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