ザ・フィンランドデザイン展 ― 自然が宿るライフスタイル

POINT見どころ

01フィンランドデザインの
源泉と歴史を辿る
ストーリー

フィンランドの人々は建国前から大地の豊かさを生活に取り入れてきた長い歴史があります。その感性を受け継ぐデザイナーたちが形づくるフォルムには自然が宿り、暮らしを良くすることを第一に考えられたデザインは、多くの使い手たちの心を掴みました。今も広く愛され使い継がれるデザイン誕生と発展のストーリーを紐解き、フィンランドがデザイン大国となって今日に至るその背景を探ります。

撮影者不詳《プンカハルユ(フィンランド)》1940-1959年、
フィンランド国立写真美術館蔵

0250人以上のデザイナー、
アーティストが勢ぞろい

アルテックのチェアで名高いアルヴァ・アアルト、アラビアのロングセラー《ティーマ》を生んだカイ・フランク、ムーミンの作者トーベ・ヤンソンなど、世界的に知られるアーティストはじめ、デザイン大国フィンランドを築く担い手となった、数多くのアーティストたちが登場します。日本ではあまり知られていないアーティストたちの中から、新しいお気に入りがきっと見つかるはずです。

ビルゲル・カイピアイネン 《ビーズバード(シャクシギ)》1960年代、アラビア製陶所、スコープ蔵、Photo/宮川邦雄、 ©︎KUVASTO, Helsinki & JASPAR,Tokyo, 2021 G2559

フィンランドを代表する5人の作家

カイ・フランク《「BAキルタ」カップ&ソーサー他》1952-1975年、アラビア製陶所、ヘルシンキ市立博物館蔵、Photo/Yehia Eweis
トーベ・ヤンソン《アウロラ小児病院壁画「遊び」のためのスケッチ》1955年、ヘルシンキ市立美術館蔵、Photo/Hanna Kukorelli、©︎Moomin CharactersTM
マイヤ・イソラ《カンムリカイツブリ》1961年、マリメッコ社、フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵、Photo/Rauno Träskelin
ルート・ブリュック 《無題(ヘルシンキ市庁舎陶レリーフ「陽のあたる街」のための習作)》 1975年、ヘルシンキ市立美術館蔵、 Photo/Hanna Kukorelli、 ©︎KUVASTO, Helsinki & JASPAR,Tokyo, 2021 G2563
アルヴァ・アアルト 《キャンチレバーチェア31(現:42アームチェア)/ パイミオサナトリウム竣工時のオリジナル製品》 1931年、木工家具・建築設備社(トゥルク)、 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵、 Photo/Rauno Träskelin

カイ・フランク

アラビア製陶所で生み出した《キルタ》は、現在も《ティーマ》シリーズとして生産が続く不朽の名作。機能性と実用性に優れたシンプルなフォルムで、足りないものだけを買い足し長く使い続けることができる、それまでのテーブルウェアのしきたりを覆すデザインでした。誰もが取り入れられる良質なデザインを実現したフランクは、「フィンランドデザインの良心」と呼ばれています。

カイ・フランク《「BAキルタ」カップ&ソーサー他》1952-1975年、アラビア製陶所、ヘルシンキ市立博物館蔵、Photo/Yehia Eweis

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トーベ・ヤンソン

言わずと知れたムーミンの生みの親。イラストレーター、画家、漫画家、作家といった多彩な顔を持ち、実生活の経験と愛する身近な人々からインスピレーションを得て数々の名作を世に送りだしました。友情、寛容さ、そして自由をテーマとしたムーミン物語は、幅広い世代からの絶大な人気を得て、今なお世界中で愛され続けています。

トーベ・ヤンソン《アウロラ小児病院壁画「遊び」のためのスケッチ》1955年、ヘルシンキ市立美術館蔵、Photo/Hanna Kukorelli、©︎Moomin CharactersTM

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マイヤ・イソラ

マリメッコ社のカラフルで大柄なプリントテキスタイルを数多く制作。当時の新しいアートシーンを反映しつつ、自然界からのイメージも豊かに引き出した色鮮やかなパターンが特徴的です。有名な《ウニッコ》は、当初花柄を一切禁止していたマリメッコ社に、その方針を覆させるほどのインパクトを与えたパターンでした。

マイヤ・イソラ《カンムリカイツブリ》1961年、マリメッコ社、フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵、Photo/Rauno Träskelin

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ルート・ブリュック

アラビア製陶所で長年、セラミックアート、特に陶板作品に取り組みました。初期には、鳥や蝶など身近なモティーフをもとに絵画的な陶板作品を制作しますが、後に、小さな陶片を組み合わせた抽象的で彫刻的な作風に移行します。釉薬を駆使したユニークで色彩感覚あふれる作品は人々を魅了し、大使館や銀行などの壁面にも取り入れられました。

ルート・ブリュック 《無題(ヘルシンキ市庁舎陶レリーフ「陽のあたる街」のための習作)》 1975年、ヘルシンキ市立美術館蔵、 Photo/Hanna Kukorelli、 ©︎KUVASTO, Helsinki & JASPAR,Tokyo, 2021 G2563

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アルヴァ・アアルト

世界的な建築家であったアアルトは、建築とインテリアの一体感を重視し、手がけた建造物の内装、照明、家具も自らデザインしました。その作品は誰にとっても機能的かつ実用的。《「サヴォイ」花瓶》や《41 アームチェア パイミオ》など、自然のモティーフを取り入れたぬくもりあるフォルムが今もなお世界中で支持されています。

アルヴァ・アアルト 《キャンチレバーチェア31(現:42アームチェア)/ パイミオサナトリウム竣工時のオリジナル製品》 1931年、木工家具・建築設備社(トゥルク)、 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵、 Photo/Rauno Träskelin

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03本国でも集結困難!?
フィンランド津々浦々からやってきた多彩な作品群を一挙ご紹介

ヘルシンキ市立美術館(HAM)監修のもと、コレクション・カッコネン、タンペレ市立歴史博物館、フィンランド・デザイン・ミュージアム、ヘルシンキ市立博物館など、フィンランド各地で大切に受け継がれてきた貴重なコレクションから選りすぐり、フィンランドが近代化されゆく時代のデザインを多角的に紹介します。フィンランドのデザイン史を展望できる豪華なラインナップが一堂に会するこのチャンスをどうぞお見逃しなく!

オイヴァ・トイッカ《「ポムポム」花瓶》
1968年、ヌータヤルヴィガラス製作所、コレクション・カッコネン蔵、Photo/Rauno Träskelin
セッポ・サヴェス《アンニカ・リマラ「リンヤヴィーッタ」ドレス、ヴオッコ・ヌルメスニエミ「ガッレリア」テキスタイルデザイン》1966年、フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵

TIPS本展をもっと楽しむ
Tips!

フィンランドがもっとよく分かる!

幸せのかたちは、ここにある。

幸福度世界一として有名な北欧の国フィンランドは、イッタラ、アルテック、マリメッコ、フィンレイソン、ムーミンなど日本でも人気のプロダクトを生み出した世界屈指のデザイン大国です。昨今、日本の北欧ブームのなかでも人気の高いフィンランドのデザインプロダクトは、フィンランドの人々のライフスタイルに欠かせない日用品です。それらは、日々の生活で使われてきたからこそ実用性と機能美を兼ね備え、今日に至るまで世界中で愛され続けています。多くの人を魅了するデザインが生まれたフィンランド、その国の背景を覗いてみましょう。

カーリナ・アホ《卵入れ》1950年、アラビア製陶所、フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵、Photo/Kirsi Halkola
マッティ A. ピトゥカネン《アイスマン(タピオ・ヴィルッカラ)》1962年、フィンランド国立写真美術館蔵

フィンランド独立と近代化
―国のアイデンティティを育んだモダンデザイン

1917年にロシアから独立したフィンランドは、新しい国づくりの一環としてデザインの発展に力を注ぎます。自然にインスパイアされたパターンとフォルム、国の大切な資源でもあった木材の温かみ…フィンランド人の心に刻み込まれた自然のイメージが、多くのアーティストたちの手でデザインされ、アルテック、アラビア、イッタラ、タンぺッラ、フィンレイソン、マリメッコなどの製作所が製品化を進めました。それらのデザインが人々の日常に浸透し、近代社会も成熟。やがて国際的な舞台でも注目されるようになり、フィンランド国民のためのデザインから世界のデザインへと大きく飛躍していったのです。このことが、フィンランド人の心に誇りを呼び覚まし、アイデンティティの確立を決定的なものにしました。

ドラ・ユング《子連れのアヒル》1955年、ドラ・ユング・テキスタイル、フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵、Photo/Jean Barbier
ナニー・スティル《メイポール》1956年、リーヒマエンラシ社、 コレクション・カッコネン蔵、Photo/Rauno Träskelin

長い冬ごもりを豊かにするための工夫から生まれたデザイン

フィンランドの長く厳しい冬。長いおこもり生活を鬱々とせず心健やかに過ごすには、室内を彩るデザインの力が欠かせません。建築には光を取り込む工夫が巧みに施され、その光を受けて表情を変えるガラス製品は湖や氷河の表情を垣間見せます。テキスタイルの鮮やかなパターンは、待ちこがれる夏の太陽や咲き乱れる花々を想起させ、人々の目と心を楽しませてきました。

アンニカ・リマラ 《「ロット」ドレス、「カジノ」テキスタイル》 1968/1967年、マリメッコ社、 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵、 Photo/Harry Kivilinna
ナニー・スティル 《氷山(プリズム)》 1961年、リーヒマエンラシ社、 コレクション・カッコネン蔵、 Photo/Rauno Träskelin

良質なデザインが詰まった
ベビーパッケージ
―国から贈られる、
生まれて初めてのプレゼント

新しく生まれてくる赤ちゃんのため、育児の必需品がいっぱいに詰まったパッケージが政府から贈られるフィンランド。そのアイデアは、子育て支援制度が充実した福祉大国ならでは。生まれた時から良質なデザインに囲まれ成長する中で、豊かな感性が育まれるのかもしれません。

《ベビーパッケージ》2018年、提供:ギャラリー エー クワッド、Photo/光齋昇馬
カーリナ・アホ(デザイン)、 グンヴォル・オリン=グロンクヴィスト(絵付け) 《「ノアの箱船」マグ》 1964-1972年、アラビア製陶所、 ヘルシンキ市立博物館蔵、 Photo/Yehia Eweis
サーラ・ホペア 《ピッチャー1618、グラス1718》 1954年、ヌータヤルヴィガラス製作所、 フィンランド・デザイン・ミュージアム蔵、 Photo/Rauno Träskelin

日本とフィンランド―響きあう感性

日本でも支持層の広いフィンランドのデザイン。日本人に好まれる理由は諸説ありますが、華美に寄らずシンプルなデザインを好む美意識はその一つといえます。また、組み合わせ自由な食器スタイル、用途を限定しない多機能性などの特徴をもつフィンランドのプロダクトは、外国の文化を取り入れながら発展してきた日本の生活スタイルに取り入れやすいのでしょう。そして自然との調和を意識し、その表情を素直に活かした造形も、古来より自然との共存を意識してきた日本人の心に、まっすぐ響いたのかもしれません。

K-G ルース 《マリメッコのファッション写真》 1950-1960年代、 フィンランド国立写真美術館蔵

フィンランドってこんな国

国土の7割が森林、18万以上の湖を有する「森と湖の国」フィンランド。スカンジナビア半島に位置し、面積は日本の9割ほど、北海道とほぼ同じ約550万の人々が暮らします。コーヒーとシナモンロール、そしてサウナをこよなく愛し、謙虚で誠実な国民性。トナカイとサンタクロース、白夜とオーロラの国というと遠い幻想的な世界のように感じますが、直行便で約9時間と、実は“日本から最も近い欧州”と言われています。

※フィンランド政府観光局公式サイトより

エルッキ・レイマ《コリ(フィンランド)》 1945-1955年、フィンランド国立写真美術館蔵