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MUSEO POLDI PEZZOLI

Bunkamura25周年記念 ミラノ ポルディ・ペッツォーリ美術館 華麗なる貴族コレクション

2014/4/4(金)-5/25(日)

Bunkamuraザ・ミュージアム

学芸員によるエッセイ Vol.2

蘇るフィレンツェの栄光―初期ルネサンス美術の傑作、奇跡の初来日

ピエロ・デル・ポッライウォーロ
≪貴婦人の肖像≫
1470年頃 テンペラ・板

ルネサンス美術が華々しく豊かに花開いた15世紀のフィレンツェ。当時この都市にあった40以上の工房のなかで、ヴェロッキオと並びもっとも多忙な工房を経営していたのが、ポッライウォ―ロ兄弟である。多くの職人を抱えていたその工房は、絵画のみならず彫刻、金工細工、繊維製品など多方面にわたる美術作品を生み出し、フィレンツェの美術界をまさに牽引する存在であった。

 弟のピエロの作とされる、ミラノ、ポルディ・ペッツォーリ美術館にある《貴婦人の肖像》は、モデルの造型的な特徴を再現するのに最適とされた、古代の貨幣に刻まれた肖像の様式を受け継いだ上半身、横顔の肖像画である。目鼻立ちと顔の輪郭線、髪型やわずかにみえる衣服、装飾品のどれをとっても、限られた範囲で最大限にそれぞれの特徴を描き出そうと、画家が工夫をこらしているのがわかる。鮮明な色彩効果はあるものの、微妙な明暗の表現にはむかないとされるテンペラの技法を用いながら、ここでは彫刻を思わせる陰影表現の高い技術により、ボリューム感とリアリティのある写実的な表現が達成されている。加えて、まだあどけなさの残る凛とした横顔の描写には、内面からにじみ出てくる美の本質を見事に捉えた画家の繊細な感受性を感じるとともに、豪奢なアクセサリーやドレスからは、高価な織物生産の技術や金工の分野でも頂点を極めたフィレンツェの繁栄ぶりが見てとれるのである。

 モデルの美しさを強調する豊かな金髪は、優美な薄いヴェールの帯に金糸で繋いだ玉真珠の鎖をあしらった、豪華な髪飾りできっちりと結い上げられ、首から肩にかけての優美なラインを露わにした人物のシルエットは、細く黒い輪郭線によって背景の雲が漂う青い空から際立たされている。袖の文様が印象的なビロードのドレスもまた、フィレンツェ織物の高い技術を誇っている。フィレンツェ製ビロードは当時ヨーロッパ諸国や地中海の沿岸の市場を制覇しており、自らの資産の大部分を織物製品から得ていたフィレンツェの銀行家たちは、その製品の開発に多額の資産を投じ、工程を厳しく管理して高い品質を維持していた。

 この作品の描かれた1470年代のフィレンツェは、メディチ家の当主で豪華王と呼ばれたロレンツォの下、ヨーロッパ有数の商業都市として繁栄を謳歌していた。「人間の発見」と言われるルネサンスの時代の申し子とも言える本作は、フィレンツェの在りし日の栄光を蘇らせるとともに、明るさと透明感のあるポッライウォーロの卓越した筆さばきによって500年以上もたった今もなお、「貴婦人」の瑞々しい姿を生き生きと伝えているのである。

ザ・ミュージアム キュレーター 廣川暁生